旅行1日目
初めての旅行
今日は麗奈と二人で行く初めての旅行の日だ。昨日の晩からちょっと緊張して眠れなかった。小学校の遠足以来のことだ。
日程としては、一日目は上高地へ向かう道中を観光しながら夕方前にロッジに到着する予定。ロッジには二泊する予定で、二日目で上高地周辺をゆっくり廻り三日目は少し移動して観光しながら帰ってくる予定。二泊三日の上高地ツアーの出発だ。
麗奈と待ち合わせに時間に合流していざ出発。最初に目的地は松本市。
俺と麗奈にとって初めての電車での長旅。駅弁やらおやつやらを買い込んで列車に乗る。麗奈は最初から全開でイチャイチャモード。ずっと腕を組んで俺にへばりついている。時折、興奮するのか鼻息が荒くなる。
麗奈さん、今からそれやってたらばてるよ…
俺は麗奈を窓側に座らせ、二人で景色を見ながらあれやこれやと話している。一時間もすると都会の景色から一変してひたすら山と川の景色へと変わっていく。遠くへ来たという実感がする。
とりあえず、松本市まで行ってお城などを見てから電車とバスを乗り継ぎ宿泊先の上高地のロッジへと向かう。
「麗奈、そろそろ駅弁でも食べてみる?」
「うん、そうしよう」
二人で駅弁を食べるが… やっぱ麗奈の弁当の方が美味しい。でも、ご当地駅弁も気分だからね。隣の麗奈の顔を見てると上機嫌の様子で、凄く楽しそう。二人で盛り上がっているとやがて列車は松本に到着。とりあえず松本城へ。城の前まで来て見上げると… でかい…
日本の名城にも選ばれるだけあって全体像も美しく天守閣も立派だ。麗奈と一緒に天守閣に登り風景を見る。街を一望できる眺めは素晴らしい。
麗奈も天守閣の高さやそこから見た風景に見惚れていた。
そこからそのあたりを二人で散歩。知り合いも誰もいない、景色も見たことのない街を麗奈と二人で歩くのはなんだか不思議な気分だが、誰も知る人のいない町でも麗奈さえいてくれれば何も心細く感じない… 二人で手を繋いで知らない町を歩くのは楽しい。麗奈もキャッキャ言いながら、騒がしくして楽しんでいる。
そろそろ電車の時間、これから電車、次にバスに乗って目的地へ向かう。電車を降りてバスに乗り走っていくと景色はどんどん変わっていき、やがて人家もなくなり本当の山の中に入っていく。バスの中では最初元気だった麗奈も今ではぐっすり眠っている。俺はその可愛い寝顔を見ながら、もうすぐ俺の大好きな景色が見られることの期待に胸を膨らませていた。
やっとバスも到着、麗奈を起こしてここからは歩いて今日宿泊するロッジへ向かう。やがてロッジが見えてくると… そこには峻険な穂高連峰が広がる雄大な世界。幼いころの記憶が戻ってくる。
麗奈もその景色には大喜び。もう一度来たかった場所に麗奈と一緒に来れたことが本当にうれしかった。
「麗奈、もう夕方過ぎだからチェックインして荷物を降ろして少しゆっくりしよう」
「うん。健司君、本当にすごい所だね」
「景色を見るのは明日だね、まずは一休みしよう」
宿泊先に着いて部屋に荷物を置き、お茶を飲んで二人でゆっくりする。
「健司君、何かわくわくするね。明日の散歩が楽しみ」
麗奈は少し興奮気味に喋る。
「とりあえず、夕食を食べて荷物整理をして夜に少し出かけるよ」
「夜に?」
「なかなかいいものが見られるよ」
麗奈は少し不思議そうな顔をしていたが、とりあえず夕食を食べに行き部屋に戻ってくる。
夜の8時前、健司は麗奈を誘い散歩に出かける。健司が麗奈に見せたかったもの… それは空気の綺麗な高原からしか見ることのできない満天の星空だった。少し高台まで歩いていき、ロッジなどの光が邪魔にならない場所に来るとその眺めは壮大であった。麗奈はしばらく言葉を無くして夜空を眺めていた。
そんな麗奈を後ろから健司はそっと柔らかく抱きしめる。胸元にある健司の腕を麗奈はしっかりつかみ、幸せなひと時を味わっている。
「健司君…… すごいね… 」
「俺が子供の時に見た星空だよ」
「……」
「もう一度見たかった。まさか、俺が一番大好きな人と一緒に見れるなんて思わなかったけど… 」
「健司君… 嬉しい… 私は幸せ……」
「麗奈に見せたかった。麗奈にも気に入ってもらいたかった…」
「私もこの夜空を… 健司君と一緒に見た星の輝きを… 絶対に忘れない」
「麗奈、ここはね、俺の父さんと母さんが初めて一緒に旅をした場所なんだ」
「健司君のご両親が… 」
「俺達も父さんや母さん達みたいになれるかな…… 」
「絶対なれるよ。私達に子供が出来たらその子供にも来させよう… 」
「その前に結婚しないといけないけどね。俺たちの子供はどんな子に育つんだろうね」
「私はもう結婚してるつもりだよ… へへ」
そうして二人は見つめ合ってキスをした… いつもより長く…
そろそろ帰ってお風呂に入って寝ようとなったので、腕を絡ませ歩いてロッジに帰った。二人ともお風呂に入り、寝間着に着替えて寝る準備をする。
健司は本来、あの夜空の感動を引きずってここで麗奈と感動の初体験! と考えていたが…… やっちまったもんはしょうがない…… それは分かっているが… 一抹の虚しさを感じていた。
しかし、実際はあの星空を見て麗奈の方は超興奮状態。おまけに「結婚」のキーワードとさらに「自分たちの子供」というプレミアムワードまで出て来たから、収まりがつかない。
(健司君、私たちの子供って言ったよね… ハァハァ 今からその希望をかなえてあげるよ エㇸㇸ)
「麗奈、なんか目つきが… やばいよ…」
「今日はアレ無しで頑張ろうね、健司君!」
「だめー 子供は結婚してから…」
「名前書いてハンコ押せばすぐ済むよ」
「俺まだ結婚できない年齢なもんで…」
「先払いみたいな感じで」
「何の先払い?」
このような感じで30分ほどバトルは続いたが、結局アレはアリということで決着した。その日は麗奈の興奮が収まらず、健司は大変な目にあった。
(あのとき、俺の意志が強ければ… 今日こんな目にはあわなかっ… ガク)




