紹 介
朝がやってきて金曜日。
昨日のことがあって目覚めは最高~。こんなにすがすがしい朝も久しぶりだ。立花先輩と遊園地に遊びに行く約束を考えると、そわそわしてしまう。
部活の早朝練習を終え、教室に入って席に着く。鞄から教科書などを取り出していると、直人がやってきた。
「おい健司、“既読スルー”て言葉知ってるか?」
「なにそれ、最低なことするやつだな。人間としてのマナーがなってないよな」
「そうだよな。実はな、既読スルーよりもっと質の悪い奴がこの世にはいるんだよ。知ってるか?」
「そんな奴いるの? それってどんな奴?」
「それはな、“未読スルー”ってやつなんだよ。」
「何それ、完全に無視されてるよね。寒いわぁ~ そんなクズみたいなやつがいるの?」
「それがいるんだよ。 俺の目の前に!」
健司は慌てて携帯を見る。そういえば立花先輩とのLINEに夢中になって、他は完全スルーしたっけ?
LINEをひらくと… あら不思議、親友からのLINEが未読になっているではあーりませんか。画面から親友の方へ目線をかえると… そこに親友の姿は見えず、赤鬼さんがいましたとさ。 おしまい。
「とっとと未読になっている俺からのLINEの内容を読んでみろ!」
内容を見ると、
「裕子から連絡があって、健司にぜひ紹介したい女の子がいるらしい。今度の土曜日は部活がないって聞いていたので、勝手で悪いがセッティングさせてもらった。だから土曜日はあけておけよ。」
「土曜日って明日じゃん」 俺がそう言うと、
「だから急いで昨日LINEで連絡したんだよ! 俺と裕子の苦労がわかってんのか? 紹介する子の写真、裕子から送られてきたんでそっちへ送るぞ」
直人はそう言って携帯を操作した。すると俺の携帯に着信。
「とりあえずどんな子か写真見て見ろ」
直人が言うので、LINEをひらいて送られてきた写真を見る。
「なんか… 物凄く可愛いってか、アイドルみてーな子だな」
写真を見た俺は流石にびっくりした。裕子はどうやってこんな子を見つけて来たんだ?
「なあ、直人。 裕子頑張りすぎだよ。 この子の横に俺が立ったら生ゴミにしか見えねーよ。」
「それはいえてるな。でも裕子の話だと、その子にもお前の写真を見せたところ、なかなか好評だったらしいぞ」
「その子は裕子の友達だろ? 流石に気まずくなるからぼろくそには言えないんじゃないの?」
「それはない。裕子の友達はあいつと似たような性格のやつが多いので、しっかり言ってくる。」
「それにな、健司。 別にお前の顔も普通にイケメンだろ?」
「普通じゃ彼女の横に立てねえと思うけどな。 裕子は俺にどんな試練を与えようとしてるんだ?」
「つべこべ言わずに実際に会って喋ってみればいいだろ? ダメもとでいいじゃん」
「しかし… これ、ある種の新しいイジメの方法じゃないのか? 精神的な破壊力は相当なもんだと思うぞ」
「とりあえず、明日はあけておけよ。詳しい時間はまた連絡する。健司君,もう未読スルーなんてことないよね?」
そう言って、直人は俺のこめかみにアイアンクローをかけている。
「これからは、直人様の連絡に真摯に向き合います。許してください… 」
1分後にアイアンクローは解除された。
お昼休みになって、LINEにメッセージが入った。送り主を確認すると立花先輩だった。
『 健司君、明日部活ないんだってね? 昨日言ってた遊園地の件どうかな? 』
部活がないことなぜ知ってるの??? そうか、沖本先輩だ。 てか、どうしよう…
立花先輩と遊園地で[ 仲良しタイム ]
OR
アイドルまがいの女の子とのお見合いで[ さらし者タイム ]
絶対立花先輩だよな。でも今更断れないよな…… ほんとにタイミングが悪い。
『 立花先輩、ごめんなさい。 明日は友達が勝手に予定を入れてしまっててダメなんです。 』
『 そっか、残念だね。明日はどんなことするの? 』
どうしようかな。あんまり言いたくはないけど、嘘を言っても仕方がないし…
『 明日は友達が俺に女の子を紹介してくれるらしいんです。何か俺の知らない間に決まってたみたいで… 』
『 へぇ~、そうなんだ。かわいい子だったら良いね 』
『 それが、びっくりするような可愛い子なんですよ。笑っちゃいますよ 』
『 そんなに可愛いの? 写真あったら見てみたい 』
『 そんじゃ、写真送りますよ。こんなかわいい子が俺を相手にする訳ないですよね? 』
健司から立花先輩にデータが送られる。
『 すっごく可愛いね。私もこんな子見たことない。ほんとにアイドルみたい… 』
『 明日は頑張ってフラれてきます。(笑) 』
『 明日はだめですけど、確か来週水曜日は創立記念日で学校も部活も休みなんですよね。その日はどうですか? 』
『 でも、明日紹介される女の子と、もしうまくいったらその子に悪いよ… 』
『 自信をもって、うまくいくことは無いと言えるんで行きましょう! 』
『 本当? じゃあ行こう! 楽しみにしてるね 』
やったぁ~ 立花先輩と遊園地の約束ができた。
明日は紹介された女の子にフラれてもずっと笑顔でいられるぞ。
放課後
とある3年生教室。そこには立花麗奈と同じクラスで親友の『 深田栞 』だけが残っていた。
「栞ちゃん聞いて~ どうしよう、、、どうしよう、、、」
麗奈はおろおろした表情で、落ち着かない。
「どうしたの? 鈴木君とのことでなんかあったの?」
麗奈は親友の栞には、今までのいきさつや健司への思いを全て伝えている。昨日、健司とのLINEのやり取りで順調に前進できていると、今朝栞に伝えたばかりである。
「明日、健司君がね、女の子紹介されちゃうの。 せっかく上手くいってたのに~ ぐすん」
「で、健司君は乗り気なの?」
「あんまりって感じかな… 」
「じゃ、いいじゃん。何も起こらないんじゃないの」
「それがね、絶体絶命のピンチなの… 」
麗奈は泣きそうな表情でそう言った。
「大体、なんであんたがそんなに焦るのよ? 普通、あんたと男を競り合ったら相手の女の子の方が絶望するよ」
「この写真を見て」 麗奈は携帯で健司から送られた写真を栞に見せた。
「ふむ、どれどれ。 … 何これ? やばいじゃん? 私の周囲でここまで可愛い子見たことないよ。あんたも相当綺麗だけど、この子の可愛さはやばいわね。 この子、ほんとに一般人?」
「あたしもね… ある程度、顔には自信あるよ。 でもね、こんなの反則だよぉ~ ぐすん。 健司君から写真送られてきて、初めて見たとき頭がくらくらしちゃったよぉ~」
「あんたさぁ~、相当悪いことでもした? こんな偶然普通起こらないよ。あんたが顔面勝負で負けそうになるなんて想像もつかなかったよ。もはや天罰じゃないの?」
「心当たりは… 無いこともない。 でもね、ちゃんと懺悔はしたよ。」
「あんた本当は性格悪いもんね。 よく今までみんなにばれなかったよね?」
「別に隠してたわけじゃないでぇーす。 みんなが勝手な思い込みをしてただけでぇーす。私が悪いんじゃありませーん。」
「クールな超美人で、いつも凛としていて自然なオーラをまとっている憧れの存在 …… ってあんたの信者が言ってたよ。ふたを開けたら… こんなんだもんね。 真実を知ったらみんなの心が砕けるよ。」
「周囲の男子と気軽にしゃべると、必ず告白されるのでうざいから喋らなくなったら、クールだと言われただけです。凛としているのは、子供のころから姿勢が良いだけです。自然なオーラは、がっついてくる男子に近寄ってくるなと思ってたら、そんな雰囲気が出てきただけです。憧れられるのは私の知ったことではありません。」
「あんた本当にかわいくないよね。 そんなんじゃ、健司君に好きになって
もらえないよ。」
「そ、そんなこと い、いわな…く…ても… うわぁ~~ん……」
「ちょ、ちょっと、何真剣に泣いてんのよ! やめてよ 恥ずかしい。大丈夫だから、、、麗奈ならやれる…」
「まったく感情のこもってない応援ありがとう… ぐすん」
「でもさ、これだけ可愛い女の子が彼氏いないっておかしいと思わない? 麗奈の場合は理由を聞いているから分かるけど、なんか引っかかるよね」
「そんなのどうでもいい。今はこの最大のピンチをどう乗り切るか… なんかいい作戦考えてよ」
「そんな作戦あるわけないでしょ。しかも明日でしょ? どうにもなんないから天にでも祈ったら。」
「ああいう可愛い子系の女の子が嫌う男性のタイプを調べて、健司君をそんなタイプへ誘導する…… 」
「あんた悪魔だね。そもそも男慣れしてないあんたが、健司君を誘導できる訳ないでしょ」
「夜遅くにLINEを送って、朝まで延々と引っ張って健司君を寝かせないでいたら、やつれた顔になって健司君の魅力も下がる… これいいかも!」
「途中で既読スルーされて終わるだけだと思うよ。それに、あんた健司君に“やばい奴認定”されるよ。」
「そ、そんなの やだぁ~あああ 」
「だから泣くなっての。そもそも相手の女の子が健司君を気に入らなかったらそれで終わるでしょ? しかもあんなに可愛いんだからそうなる可能性の方が高いよ。大体彼氏いないのがおかしいしね。
もしかしたら案外今は男と付き合う気がないんじゃないの? 友達に無理矢理誘われたから来るだ けとか…… 」
「そ、そうよねぇ~ 確かに彼氏いない方がおかしいし、もしかして秘かに好きな男の子はすでにいる… そんな感じかもしれないよね」
麗奈は急に元気になり、表情が明るくなっていた。
「だけど… もし彼女が健司君のことを気に入って… 本気で落としにきたら……
(やばい、麗奈の前では言えないけど、完全にご愁傷さまだよ…) ううん、
何でもない。 き、きっと大丈夫だよ。」
彼女の言葉を聞きながら、麗奈は明るかった表情から一気に絶望の淵に向かう表情へと変化していった。