満たされぬ心
家に帰って来てからの麗奈
最近、私は変だ。健司君との関係で大きな変化が起こって、私自身が変わってきたのは理解できる。最初はただ、健司君と付き合いたかった。そして、私のことを知って欲しかった。健司君のことも知りたかった。 その願いは叶った。まだまだお互いに知るべきことは沢山あるが、確実に理解しあえている。
健司君に私だけを見てほしかった…
健司君は確かに私だけを見てくれている。疑いようもない。
私のことをもっと好きになって欲しい…
健司君の私に対する愛情がどんどん大きくなってきているのは私が一番よく理解できている。
健司君の全てが欲しい…
今は心も体もすべて健司君は私に与えてくれている。
私を離さないでほしい…
健司君は他の女の子に行ったりしない。私をつかまえてくれている。
これ以上私は何が欲しいっていうの?
健司君は与えられるものすべてを与えてくれている… なのになぜまだ私は欲しがるの?
健司君と他の女の子が、ただ喋っているだけなのに耐えられなかった。凄く嫌だった。でも、そんなこと言ってたら普通に生活なんてできない。
私は健司君が少しでも離れるのが怖いんだ… 今のこの幸せが少しでも崩れることが怖いんだ…
私はいつからこんなに憶病になったの?
健司君に抱いて貰っているときは、健司君の全てが自分の手の中にあると実感できる。ただ、その後少しでも離れるとすぐにその実感が薄らぎ消えていく。そして私の心は渇く。いくら健司君が私に愛情を注いでくれても、私はもっと欲しいとねだってしまう。
いつになったら私の心は満たされるの……
こんな自分勝手な私を気遣って、健司君は初めての日を思い出させるようにぬいぐるみをとってくれた。
優しすぎて… 涙を止めれなかった。
私はどうしたらいいの……
こんなに幸せなのに……
あんなに健司君は優しいのに……
愛理ちゃんならどうする? 愛理ちゃんに聞いてみたい……
「もしもし、愛理ちゃん… 麗奈だけど… 」
「久しぶり。どうしたの? 健司君とは順調?」
「愛理ちゃんに … 聞いてほしいことがある… 」
麗奈と愛理は時折、連絡を取り合っている。
「どうしたの… 何か暗いよ。」
「健司君とは… 愛理ちゃんに言うのは悪いんだけど、最後まで行ったんだ… 」
「ま、いつかはそうなるよね。 別に気にしなくていいよ」
「健司君はいつも優しくしてくれる… 私の事だけを思ってくれる… 」
「それで…」
「だけどだめなの、自分の気持ちが抑えられないの… 健司君は全てを与えてくれてるのに… 私はもっと欲しがってしまう… 」
「前に健司君の幸せを考えなきゃダメって私が言ったよね?」
「それは分かってるの。私も健司君を幸せにしてあげたい… 私が与えてもらっているもの以上に、健司君に与えたいって… 」
「でもだめなんだ?」
「健司君の優しさを凄く感じる。なのにもっともっと欲しいって… 満足しなきゃいけないのに…」
「あなたはマドンナじゃないの?」
「私はマドンナなんかじゃない。みんなが勝手にそう呼んでるだけ… 」
「私と初めて会った時、あなたはもう少し強かった。どうしてそんなに弱くなったの?」
「健司君と知り合う前は、私には守るものなど何もなかった… 怖いものも何もなかった… だけど、今は違う。健司君が離れるかもしれないと思うと怖くて仕方がない… もし、健司君を失えば私は多分生きていけない…」
「何で健司君が離れていくわけ? 私から見てもばかばかしい話なんだけど…」
「人の気持ちなんていつどこで変わるか分からない…」
「経験者が語るの?」
「私は以前、経験している… 私のお父さんで…」
「健司君がそんなことすると思う? 健司君を馬鹿にすると私も怒るよ?」
「健司君が私を見捨てるなんて思わない… 健司君はそんなことが出来ない人…」
「だから、私も麗奈ちゃんも健司君に惚れたんでしょ?」
「でも、私は最近自分の感情が抑えきれない… こんな私を見ていたらその内…… 」
「あはは そんなバカなこと考えてるの? 私が大好きになった健司君は例え麗奈ちゃんがそうなっても絶対に麗奈ちゃんを見捨てたりしない。そんな健司君だから、私は今でも追いかけてるの」
「私には健司君と一緒に居る資格がないのかも…」
「だったら、今すぐ健司君を私にちょうだい。すぐにでも貰いに行くよ」
「だめ、それはできない」
「だったら答えは出てるでしょ? 離れられたくない、誰にも渡したくない、だったら健司君が離れられないぐらいに振り向かせれば? 彼を心から愛してあげれば? 彼ならそれに必ず応える。誰にも渡したくないなら、奪いに来る人をやっつければいい、あなたなら簡単にできるでしょ?」
「私もどうして自分がこんなに弱くなってしまったのか分からない… いつの間に…」
「あのね、しっかりしてよ! あなたは私との競争で勝ったのよ、私も自分で言うのもなんだけど、負けたことなんて一度もなかったんだよ。健司君はあなたを選んだんだよ、私ではなく…」
「そうだよね。私がこんな事を… しかも愛理ちゃんに言うなんてほんと情けないよね…」
「だったらもっとしっかりして! 健司君は絶対にあなたの元から離れない、離れてほしいと願っている私が言うんだから間違いない!」
「あはは… やっぱりまだ健司君を狙ってるんだ?」
「当たり前でしょう… ふふっ」
「でも離れてやんないよ~だ」
「やっと元気出て来た? 世話のかかる先輩だこと…」
この後、互いに健司に惚れている自慢をしながら話は終了した。




