麗奈の懺悔
神様、最近の私は目的のため手段を選びません。おかげで神様に懺悔しなければいけないことがたくさんできてしまいました。 ここで悔い改めるために一度懺悔をさせてください。
まず、沖本君へ
私はワールドカップの予選を見て感動してサッカーが好きになり、沖本君にサッカーを教えてと言ったことから仲良くなりましたね……
あれ、嘘です。
あのころは、健司君のことが気なって、どうしても近づきたいと思っていました。一番手近な情報源となるのはあなたでした。沖本君にサッカーを教えてもらう、当然うちの学校のサッカー部の話も出てくる。そうすればいつもあなたと仲良くしてる後輩の健司君の情報も出てくる。これが本当の目的でした。
ごめんなさい。
でも、沖本君も優しくて良い人なのは理解できたので、今では大切な友達だと思っているのは真実です。
もう一つ、沖本君に彼女出来たよね。 あれを闇で仕組んだのは私です。
もう一度ごめんなさい。
クラスの女の子の情報で、沖本君を気に入っている「藤本美紀」って女の子がいるとわかったので、さっそく調べてみると、なかなかに可愛い子だった。健司君と急接近するためには健司君にかなり近しい人の協力がどうしても必要だ。
なので、まずは沖本君に幸せになってもらい、その見返りに全力で私に協力してもらおうと考えた。それが上手く行ったら、その時には私が健司君のことが好きだということを沖本君に伝えるつもり。
まずは、私が藤本さんに近づく。仲良くなり、沖本君とのことを全面的に協力すると申し出る。この段階で藤本さんはルンルン状態。私の指示に全力で従うことを約束する。
次に最近よく喋るようになった沖本君に、藤本さんの名前が出るような話題を積極的に出す。沖本君に藤本さんを印象づけさせた後に、私は沖本君との会話の途中で藤本さんを呼ぶ。「何の用?」と言いながら近くに来た藤本さんをさりげなく会話に入れる。
3人での会話の回数が多くなってきた時、徐々に私が抜けるようにする。あとは彼女の腕次第。 あっという間に沖本君は彼女に落とされた。 付き合い始めてうれしそうな沖本君に、2人が付き合うために実は私が頑張ったことを伝える。すると沖本君は「困ったことがあったら今度は俺が協力する」と言ってくれた。
そこですかさず本題へ突入。
「実は… 私、最近あなたの後輩の鈴木君のことが気になって… 」
沖本君はびっくりしていたが、私が本気であることを知ると、全力で協力することを約束してくれた。
沖本君、ほんとにごめんね。でもWIN-WINの関係だから許してね。
次に、健司君へ
初めて3人でゲームセンターへ行ったよね。あの時、急に沖本君に用事が出来て帰ったよね。
あれも当然嘘です。
あれは私と沖本君により周到に計画された作戦です。本当は騙したりしたくなかったんだけど、手っ取り早く段階を進めるには、あれしか思いつきませんでした。おかげで、2人でいろんな会話が出来ました。
この際だからついでに言っておくと、何かと健司君に私は質問をしていましたが、その答えはあらかた沖本君から聞いていたので初めから知っていました。どのように健司君が答えるのかわくわくして聞いていました。
心の底からごめんなさい。
もう一つ、帰り際に話が盛り上がって思わず健司君の両手を握りしめたよね?
あれ、わざとです。
隙を見て機会を狙ってたんだけど、なかなかそんな場面もなく諦めかけてた時に、健司君からの優しい一言。ここだと思い、手を握りに行きました。
ただ、自分も男子と手を握ったことないのを忘れていたので、正気に戻った時は本当に焦りました。でも、すっごいドキドキしてときめきました。(キャッ…)
最後にもう一つ
帰り際にLINEのアドレス交換をして、連絡のやり取りをしようと言いましたよね?
あれがあの日の“真の目的”です。
2人だけの会話ができないと、この先発展させるのは非常に難しいけど、逆にその手段を得られれば後は私の腕次第。今後にとっても非常に重要な一歩だ。
以前、健司君のことが気になりだした時に、交際経験の豊富な友達に
「どのようなタイプの人はどのように落とすか?」
ということについて教えてもらった。
初めは、
「なんで麗奈がそんな話に興味あるの?」
と疑問に思われたが、私は
「私だっていつかは本当に好きな人ができる。出来ればその人を絶対振り向かせたい」
と言うと納得して教えてくれた。
いろんなタイプの男性に対して、色々な有効手段を解説する友達はもはや達人の域なのかもしれない。
私が聞きたかったのは、健司君のようなタイプ。モテそうだけど女っけはなく、割と一途で真面目なタイプ。たぶん女性に対して奥手なのか、または鈍感なのではないかと私でも想像はできた。
なので、その手のタイプを攻略するにはどうすればよいのか聞くと、彼女は一言
「ゆっくりじわじわと攻め落とすのが最良」
との事であった。
基本的にノリは通用しないし、思い切ったアプローチも気づかれずに自爆するだけ、こちらの思惑と全く異なる解答を出してくるらしい。
なので、気が付けば身動きが取れない状況に追い込む。鈍感なタイプの人は、自分が追い込まれていることにさえ、気づかないらしい。鈍感なだけに…
気づいた時には完全攻略されて城は落城… これが最も成功しやすい方法であるらしい。 ちなみに彼女は、
「麗奈だったらどんなタイプの男性相手でも、裸になって抱き着けば一発で落城させられるよ」
と言われたが、そんなことが出来るわけがない。なのでこの案は却下。
(でも、あと一歩で健司君を落とせる場合の限定付きで… あり… やっぱりなし…?)
健司君、私は君とのつながりを持って、なおかつ君の先輩を味方につけた。
もう外堀は埋められたのよ。 次は内堀。
君の相談を受けるぐらいに近しい存在になること。連絡先を教えてもらった今、やりようはいくらでもある。もう少し巧妙な策が必要かと思っていたけど、友人に教えてもらった通り、健司君みたいなタイプはこの方法に最も弱いみたい。
いわゆる“チョロイ”。
でも最近それが妙に心配にもなってきている。
多分これって私以外の人がやっても健司君は簡単に落とされる。
健司君,あのね、私が言うのもなんだけど… 偶然初めて知り合った女性と仲良く食事をして意気投合して連絡先まで交換する… そんなことって殆んど無いのよ。あるとすればその段階ではめられてるのよ。
今は私だからいいけど、もうちょっと世の中の悪意に敏感になって…
私が言うのもなんだけど……
今までは、健司君に時間をかけて攻略するような、冷静な女の子が現れなかったからあなたは落とされなかっただけだからね。 ほかの女の子が狡猾に近づいてきたら、早く気づいて逃げないとだめだよ。
私が言うのもなんだけど……
だけど、私が完全攻略するまでは気づいたらだめだよ。お願いだから今のままでいてね。 えへっ。
私は3年生。高校生活も残り1年を切っている。受験も考えれば、集中して付き合えるのは半年が限界。 私が本当に好きになれそうな人は今まで出会えなかった。
健司君のことを詳しく知るようになって初めて本気で好きになれる人だと感じた。どうしても、もっと彼のことを知りたい。初めて好きになれる人に自分のことをもっと知ってほしい。
その結果、自分が何を感じるのかを体験してみたい。多分それは今しかできない。そのためにはある程度手段は選ばない。選んでいる余裕もないかもしれない。私は初めて本気で好きになった人に対して、全力で向き合う。
あくまでも、付き合うまでは最初の過程に過ぎない。重要なのはそこではない。相手に自分だけを見てもらい、自分も相手のことだけを見つめていく。このような関係になれるかどうかが最終地点なんだよ。私達なら必ずそうなれる。
健司君、もしあなたが私の彼氏になってくれたら… 私はあなただけを見つめていく… 私の全てをあげる。
これが私の決意。
なので神様、後でたっぷり懺悔をして悔い改めますので、もう少しだけ私の行動に目をつぶっていてください。