麗奈と愛理
食事も終わり、麗奈の部屋に戻る。
今日は麗奈と相談することがある。この前言っていた夏休みの旅行についてである。俺には目的の旅行先があるのだが、麗奈の意見も聞かなくてはいけない。
麗奈に、
「夏休みの旅行について相談したいんだけど… 」
そう言うと、
「そうだね、楽しそう。これから一緒に決めよう」
麗奈は目をキラキラさせながら、俺が持って来た旅行雑誌を見る。
「麗奈はどこか希望先はある?」
「健司君と一緒なら何処でもいいんだけど… ベッドがある所なら… 」
あの、麗奈さん… どこに行ってもベッドは絶対にあるけど… 何を楽しみにしてるの?
「俺は、上高地の方へ行ってみたい」
健司は小さいときに親に連れていかれた上高地の景色が今でも忘れられない。大きくなったら、ぜひもう一度行ってみたいと思っていた。麗奈に雑誌の写真などを見せると、
「キャーッ 綺麗。川の水が透きとおってる。それにこんなに花が咲いてるの?」
「真夏でも凄く涼しくて、本当に水と空気が綺麗なところだよ」
「そこがいい。上高地にしよ」
麗奈も気に入ってくれたので、夏の旅行先は無事、上高地に決定した。
健司には計画があった。昨日インターネットを5時間もかけて検索しまくり、ウルトラロマンティック作戦を考案した。高原のおしゃれなペンションを予約し、最高の夜空を二人で満喫した後に、一線を越える! 二人の初体験にふさわしいと考えていた。
そんな妄想をしている健司は微妙ににやけた表情となっている。その表情を見ていた麗奈は、
「何か今の健司君隙だらけ。今のうちに押し倒して興奮させれば… 」
二人は互いによからぬ妄想を展開させて、それぞれの脳内で興奮していた。
しばらくして、我に返った二人は現状認識を始める。せっかく二人っきりでいるのだからイチャイチャしないと勿体ない。二人はキスをして抱きしめ合う。ただ、旅行まで一線を超えないように気を付けようと思っている健司と今すぐにでも一線を越えようとする麗奈で波長が合わない。
出来るだけ、麗奈の挑発に乗らないように健司は警戒する。
その様子は、狩るものと、狩られるものの駆け引きの様相を呈していた……
健司は謎のプレッシャーと闘いながら、精神を疲弊させていく。なんでこんなに疲れるの…
麗奈が服を脱ごうとすると、その手をつかみ上げて健司は濃厚なキスをする。麗奈にかぶりつくような激しいキスにより、麗奈の意識は一時的に消失、メロメロとなる。再び意識を取り戻してきた麗奈に、健司は激しく抱き着き麗奈を力いっぱい抱く。再び麗奈の意識はもうろうとなる。このような攻防戦を繰り返し、やがて夕方となる。
麗奈はふと健司に聞きたかった大事なことを思い出す。前々から聞きたかったが怖かった。
しかし、昨日健司から聞いた本心により麗奈は自信を持ったので、聞いてみることにした。
「そう言えば健司君。あの時紹介された子とはその後どうしたの?」
健司と麗奈は付き合っているので、その子と健司が発展していないのは分かるが気になる。健司はあまり言いたくなかったが、隠し事をするのも嫌なので正直に言う。
「交際できないと言いに行ったんだけど、どうしても友達にはなって欲しいと言われて…」
急に麗奈の表情が変わる。健司が今まで見たことのないような表情…
「… いやだ… 健司君 その子とだけは絶対に嫌だ!」
今迄に聞いたことのないような激しい口調だった。健司はその表情を見て愕然とする。こんな怒った麗奈を見たことがない。
「わかった。もう一度彼女に言ってみる…」
健司はとりあえず麗奈の機嫌をなだめる。
「その子って、健司君の親しい友人の紹介なのよね…」
「そうだよ。俺の親友の彼女の紹介…」
「それじゃ、健司君の様子はその友人から逐一報告されるのよね… 」
「わざわざそんなこともを彼女がたのむ… (いや、あるかもしれないな…)」
「健司君、一度私をその子に合わせて」
「どうして」
「彼女と直接話をつける…」
「そこまでする必要が……」
「健司君、あなたは女の子の気持ちが分かってないのよ。紹介された相手に彼女ができたからごめんて、馬鹿にされたようなことされて、どうして友達になると思う?」
「……」
「よほど健司君のことが気に入ってるのよ」
「健司君、これは私にとって重要な問題なの。健司君が裏切るなんて思ってないけど… そういう問題じゃないのよ。 写真を見せてもらったけど、あんなに可愛い子がどうして断られた相手から離れようとしないのか… その子の意志は相当固いよ。だからお願い、一度その子と会えるようにして。直接話ができるように」
「分かった。必ずその子に言ってみるよ」
俺は麗奈の迫力にそう言わざるを得なくなっていた。とりあえず、今日家に帰ったら連絡してみよう…
それからしばらく麗奈は興奮状態であったが、やがて俺を強く抱きしめじっとしていた。俺はそんな麗奈の頭を撫でてやり、麗奈がしたいようにさせてやった。
すると、いきなり麗奈は俺をベッドに押し倒し、上から覆いかぶさり激しいキスをしてきた。俺の体の隅々を手でなぞり、確かめるようにしてから彼女は言った。
「絶対健司君は誰にも渡さない。誰にも触れさせない」
そう言って、涙を流す麗奈を俺は抱きしめた。
麗奈が落ち着きを取り戻したのを見て、俺は家に帰ることにした。麗奈は悲しそうな表情だったので、別れ際に俺は彼女に言った。
「俺が好きな人は麗奈だけ。ほかの人にどれだけ好かれようが関係ない。麗奈は俺だけを見ていてくれるんだろ? 俺も麗奈だけを見てる」
そう言うと、彼女は泣きながら俺を抱きしめ
「分かった。健司君を信じてる」
と言った。
家に帰って愛理さんに連絡を入れる。しばらくして返信が来る。
『どうしたの? 健司君から連絡くれるなんて… 何かあったの?』
『実は俺の彼女が… 以前俺が愛理さんを紹介されたことは知っててね… その後どうなったのか今日聞かれて… 今は友達になったと言ったら… 』
『だろうね、だから健司君、女の子の気持ちが分かってないって言ったでしょ』
『でも誤魔化すことはできないし… 正直に言うしかない』
『それも健司君らしい… だから私も彼女も健司君を好きになったのよ』
『それでお願いがあるんだけど… 俺の彼女が愛理さんと直接話がしたいって…』
『それはこちらもお願いしたいくらいだよ、一度話してみたかった』
『いつなら話ができる?』
『彼女、部活とか用事は?』
『いや、何もない』
『じゃ、明日でいいよ。明日の放課後健司君の高校に行くね』
『時間は?』
『4時頃には行けると思う』
『着いたら連絡くれる?』
『いいよ。だけど明日は私と彼女の2人で会うからね。健司君は来ないで』
『ああ、彼女もそう言ってた』
その後、このことを麗奈に伝える。明日、愛理さんが学校について俺に連絡がきたらすぐにそれを麗奈に知らせる。校門前あたりで待っててもらえば、麗奈は彼女の顔を知っているから大丈夫だといった。
明日は麗奈と愛理さんが直接会う。
俺がちゃんとしてればこんなこともなかったはずなのに…




