マドンナの誕生
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昨日の晩は麗奈との電話もあまり明るく話せなかった。「何か元気ないよ」と麗奈に言われてつい、その通りだよと言ってしまいそうになった。愛理さんはもっと辛いに違いない。こんなことをやっていたら愛理さんに「何をやってるの」としかられそうだ。
思いを集中して麗奈に向かっていこう……
今週は3年生にとっての最後の大会が始まる。負ければ3年生は引退。沖本先輩のためにも出来るだけ勝ち進んでいきたい。 さすがに全国大会までは厳しいけど… 練習も実戦形式で厳しい。出来れば麗奈と会う時間も取りたいが、この大会が終わるまで少し待ってもらおう。
「沖本先輩、出来るだけ勝ち進みましょうね」
「そうだな、これに負けたら俺たちは引退だからな」
「沖本先輩は彼女と上手くいってるんですか?」
ちょっといじってみた。
「当たり前だろ。まだそんなに時間もたってねーし、今が大事な時なんだよ」
「健司はどうなんだ? お前の方が大変だろ?」
「さすがに先輩が教室に来たときは噂になりましたよ」
「仕方ないよな、今まで誰にも落とせなかったマドンナが… だもんな」
「はっきり言って、立花先輩の凄さが分かりました」
「あれ、“麗奈”じゃないのか?」
先輩にからかわれて俺は顔が真っ赤になった。
「本人にそう呼べって言われて… 沖本先輩の前ではさすがに言いにくいですけど」
「上級生のマドンナを名前で呼び捨てだもんな。そんなのできるのはお前だけだよ。3年の男連中の前でそれやったら袋叩きだな ははは」
沖本先輩はケラケラと笑った。
「でもな健司、最近の立花見てると本当に幸せそうだよ。あいつがあんなに感情を外に出すなんて想像できなかったからな」
「そうなんですか」
「美人だから、黙って無表情になると結構威圧感があるんだよ。あいつが静かに怒ると迫力あるぞ」
何か… 怖いんですけど… 怒らせないようにしよう……
「その姿を見て同じ女からも尊敬されるというか… 人気があるんだよ」
「俺は普段の立花先輩を全く知らないですからね」
「あいつの人脈は謎にすごいもんがあるぞ」
「凄い人なんですね…」
俺の彼女は…… 何だか緊張して喋りづらくなる… 先輩、それ以上脅さないで。
「あいつが何でマドンナって言われてるか分かるか?」
「人気があるからでしょ?」
「それ以上に、みんながあいつのことを認めているからだよ。人望があるんだよ」
麗奈に告白する前に知らなくてよかった… 知っていたら怖くてできなかったかも。俺にはいつも微笑んで優しくしてくれる麗奈しか想像ができない…
俺はもっと麗奈のことを知らなければいけない、もっと彼女を好きになるために…
マドンナの誕生
高校入学、私は期待していた。高校ではきっと素敵な人と巡り合えると… 中学では男子もガキっぽく、私にちょっかいを出してくる連中にろくな人はいなかった。
私の見た目だけでなく、私のいろんな面を見てその上で本当に私のことを一番に思ってくれる人はなかなか現れない。
あるとき、告白してきた男子に言われた。
「立花さんはやっぱり自分に釣り合う人じゃないと好きになれないんですね」
は? 誰がそんなこと言った?
「じゃ、あなたは私のどんなところが好きになったの?」
そう聞くと
「あなたくらい美人な人はいないから」
と言う。じゃ、私がどんな性格をしてるのか知ってるの? 私が何を好きなのか知ってるの? 私が美人じゃなきゃ、見向きもしないの? 人を外見だけでしか判断できないのに、知ったような事を言ってるんじゃないわよ。 少なくとも私は外見だけで人を判断しない。
「だったら、わたしより可愛い子は探せばいくらでもいるわよ」
そう言ってやった。
私が寂しいときには、そばに居て私を励ましてほしい、私の好きなものを覚えてほしい、私がどんな人間なのかを分かってほしい、私も好きな人のことを考え理解していきたい。
互いに求めるものを相手に与えることができる、だからお互いにとって大切な人になれるんじゃないの?自分の欲求だけを満たすもんじゃないよね。
高校生活に期待していたが、なかなか私の思い描くような人は現れなかった。ほとんどは自己満足がしたいため… その内、そんな人たちと話すのも嫌になってきた。おかげで表情もきつくなった。私には本当の笑顔を向けられる人がいない。
それからは、周りの男子とは適当に対応するが特に踏み込まない。その様子を見てみんなは勘違いする。
「立花さんは見た目に関係なく誰に対してもきちんと話してくれる」
もともと私はそこまで見た目にこだわらない。それに周囲の男子に個人的感情もない。なので男子に対する態度は誰に対しても同じである。みんなに優しくしているのではなく、みんな最低だと思うから共通した態度をとっているだけである。男女の感情を持たないから、人間としての感情で行動できているだけである。それすら他の人は理解できないでいる。
あるとき、ガラの悪い上級生の女子に呼び出されてこう言われた。
「あんたさぁ~ 誰か彼氏つくってくんない? そうしないと男連中があんたの周りから離れないんでみんな困るんだけど」
それならちょうどいいと思い、私はこう言った。
「だったら、先輩方の好みの男子が私の周りにいるのなら教えてください。そちらに向くようにいくらでも協力しますよ」
彼女たちは驚いていたが、その内の一人が
「だったら彼を私の方へ向かせて」
と言ってきた。
「じゃ、先輩はその人と話ができる程度に仲良くなってください。それが出来たらいつでもやります」
その先輩は、準備ができたと言ったので実行することにした。前もって彼には私が好意を持っている素振りを見せておき、その日に屋上に呼び出す。彼が期待した顔で私の前に現れたとき、私はこう言った。
「あなた何か勘違いしてない? それを教えるために呼んだのよ… 」
それから私は、彼の人間性や男性としての魅力もすべて否定し、彼の心が砕けるまで罵った。
私に罵られた彼はその場で放心状態となっていた。彼に罵声を浴びせているときも、私は何も感じなかった。私はどこかで人間としての大事な部分を失っていたのかもしれない。話し終わった私はその場を去り、代わりにその先輩が彼を慰めに来る。計画通りに…
その時先輩に彼を慰める言葉も私が教えてあげた。顔だけで、人の心も持たないあんな奴の言うことを信じなくていい。私はあなたの素晴らしいところを知っている…
そう言えばその人はあなたに頼ってくると…。
その先輩はその人の心をつかみ、付き合うようになった。
私にはどうでもよかった。 誰がどうなろうと… 自分が何と言われようと…
守ってくれる人もいない。 だから守るべきものもない。
大事なものを壊されることもない。 大事なものを持っていないから。
何も失うものもない… だから何も怖いものがない…
私の心の中に時折、この感情が沸き起こる。
私に大切なものがあれば、何かが変わるのだろうか……
それからは、定期的に私の元にそんな依頼がやってくるようになった。私は周囲にいる無意味な男子には興味がないので、そういう男子を減らせることもあり私もその依頼に協力した。
その結果、何故か私は上級生も含めて女子から絶大な信頼を受けることになった。自分でも知らないうちに… 男子の場合、それでも私に近寄るもの、少し距離をとって遠くから見るものに分かれていった。
だんだん私は周囲の男子と話す言葉が少なくなっていった。私のことを快く思わない女子もいたが、女子の先輩たちの目を恐れて私には何も言えない。
それも私には好都合だった。
いつしか学年も上がり、私という人間を外から見る目は共通なものとなっていた。
『 学校のマドンナ 』
でも私には優しく支えてくれる人はいない。私には微笑みを投げかける相手もいない。
私の手をとって引っ張っていってくれる人もいない。私のことを本当に思ってくれる人もいない。
何故、私はこんなに渇いているんだろう… 私にも水を与えてくれる人が欲しい…
私は学校のマドンナ… でも幸せを感じたことはない。




