健司と麗奈の遊園地1
水曜日(創立記念日)
とうとう立花先輩と二人で遊園地に行く日となった。いろんな意味で緊張してあまり眠れなかった。
「とりあえず、31人目の犠牲者にならないように頑張ろう」そう心で誓った。
いつもよりおしゃれに気を使い、準備は万端。 いざ家を出る。
電車に乗り、2駅進むとそこは立花先輩が住む町の駅。約束通り1両目に乗っている。駅に着き、乗ってくる乗客を見つめていると… 立花先輩が乗ってきた。 俺はすぐに先輩のもとに近づいた。俺に気づいた先輩は満面の笑みで俺に微笑んで「おはよう、健司君」と言った。
俺も先輩の顔を見て…
固まった。今日は… 普段の10倍以上綺麗だった。魅力的な服の組み合わせにより大人っぽい色気も半端なく、化粧も丁寧にされている。普段でも相当な美人なのに、数段グレードアップされている。今日は俺からいろんなアプローチを考えていたが、すべて吹っ飛んだ。慣れるまでしばらく近づけない。
(先輩、嫌がらせですか? 話したいこといっぱいあるのに、どこ向いて話せばいいんですか?)
先輩どれだけ気合い入れたんですか? と言いたかったが、とりあえず挨拶しないと始まらない。
「おはようございます。立花先輩。今日はとびっきり綺麗ですね」 少し声が震える。
「そぉ~? ありがとう。健司君に気に入ってもらおうと思って、頑張っちゃった。」
前から思うんだけど、愛理さんや立花先輩のような人は頑張ったらいけないと思う。頑張るとみんなとの間に分厚い壁が出来る。どうやってこの人たちと平静を装って隣でいれば良いの?……
「結構荷物持って来たんですね?」
先輩はバッグの他に大きな袋も持っている。
「実はね、お弁当作ってきたんだ。」
「そしたら今日は、先輩が作った手料理を食べられるんですか」
「そうだよ。頑張って作ったからあとで一緒に食べようね」
先輩、最高です。ベタな展開でも好きな人の手料理は必需品です。朝からテンションがいろんな意味で上がったが、しばらくすると遊園地のある駅に着く。
先に一言先輩に言っておきたい。もうちょっと露出を抑えてください。いろんな意味で限界が近いです。電車に乗っていた時も、先輩の顔,スタイル,露出で車内の男連中のほとんどが先輩を見てましたよ。
「立花先輩、遊園地に向かいましょう」
と声をかけると
「なんか二人っきりでいるのに、先輩っておかしいでしょ? 名前で呼んでくれるかな」
「それじゃ、麗奈さん 一緒に行きましょう」 すっげー緊張する。
「あと敬語もなしにしてね。何か気分が盛り上がらないしね」
「分かりました… じゃなくて、分かったよ」
「おりこうさん、良くできました」 先輩は納得がいったように笑顔でいる。
「荷物は俺が持つね」
そう言って、弁当などが入った大きな袋を俺が持つ。
そしてこっからが勝負。開いた手を俺は握る。覚悟を決めてこのセリフ!…
「今日だけ麗奈さんを彼女のように思ってもいいですか?」
よし、言えた!
先輩は…… カッチカチに固まっていた。 やっちまったか! どぉ~しよう俺…… 10秒ほど固まっていた先輩は、真っ赤になりながら俺の手を握り返してこう言った。
「それ、いいね。じゃあ、今日は私は健司君の彼女になりきるからね。健司君も私の彼氏になりきってね。」
先輩はすごく嬉しそうだった。固まった時は今日一日がここで終わったかなと思ったが、何とかなって助かった。 というか、先輩は謎に機嫌が良くなっていた。
土曜日に俺は、愛理さんと手をつないで遊園地を歩き回った。今は先輩と手をつないで歩いている。俺が感じたいのは、やっぱり何かが違うのかどうか… それを確かめたい。愛理さんみたいな可愛い子と手をつないで楽しく遊園地を歩いていたが、これが先輩だったらと何度も思った。どうなんだろ?
今、先輩と手をつないで歩いている。愛理さんの時みたいに緊張もするが、やっぱりすごく心地よい。先輩の柔らかい手をつかみ、少し強く握ると先輩も握り返してくれる。その時は本当にドキッっとする。
このまま手を放したくないと思う。 やっぱりあの時と違うことを実感した。
とりあえず、チケットを買っていざ遊園地に入場。マップを見て今日の予定を考える。まずは… やっぱジェットコースターからだよね?
「麗奈さん、やっぱジェットコースターからだよね」
「当然」
彼女はご機嫌な様子で言う。二人で順番を待っている時も手をつなぎながらあれやこれやと話す。そして、順番がきていよいよスタート。かなり迫力のあるジェットコースターであるが、隣にいる先輩はキャッキャ言いながらすごく楽しんでいる。終了して降りると
「迫力あって楽しかった~!」
と言ってにっこり笑う。先輩のにっこりはもっと最高ですよ。次は趣向を変えて二人でゴーカート。二人乗りを選んで、横に並んで乗車。両方にハンドルがありアクセルだけが片方にしかない。
「麗奈さん、運転は任せた」
俺がそう言うと
「どうなっても知らないよ」
と言って、スタート。先輩はいきなりアクセル全開。先輩、二人の時間なんでゆっくり行きましょう。
「わー、曲がんない。 バリケードが迫ってくる… 」
先輩はゲームや乗り物などを満喫するのが非常にうまい。多分、他の人の3倍以上は楽しんでいる。先輩は黙っていれば、その綺麗な顔立ちからクールに見える。少し冷たく見えるときもあるが、楽しいときは本当に無邪気になる。めったにその表情は見れないが、俺はその表情に惚れた。すなわち、今となりを見れば俺の最も好きな顔が拝める。先輩、その表情、ゴチになりました。
やっぱり俺は先輩… 麗奈さんのことが好きだ。この無邪気な表情を見ると横にずっと居てやりたくなる。先輩なのに可愛く見えてしょうがない。 問題は… 先輩は俺のことをどう思っているんだろう……
そのあと、いくつかアトラクションを巡りお昼になったので、待望の手作りお弁当タイムとなる。テーブルに向かい合わせに座り、先輩の持って来たお弁当を広げる。おにぎり、から揚げ、玉子焼き……
定番の物からスコッチエッグ、アスパラベーコンなどいろんな種類のものがあった。とりあえずおにぎり、そして玉子焼きやスコッチエッグを食べると… 何を食っても凄く美味い。
「美味しい! 何食ってもすべてうまいですよ。こんなに料理上手だったんだね」
「そう言ってくれると本当に嬉しいな。結構料理には自信あるんだよ。」
理由は言わない… 言えない。 なまじ彼氏がずっといないから必然的に家にいる時間が多い。暇つぶしに始めた料理にはまってしまい今に至る。でも恥ずかしくて言えない。仕方ないので
「母が料理ぐらいできないといけない! と言って厳しくて…」
人に聞かれるとそう言うようになった。
疑似カップルの今、麗奈にはやりたいことがあった。いわゆる「あ~んして」だ。当然この機会を利用する。
「健司君 から揚げ食べる?」
「食べる」
「はい、あ~ん…」
「うん、おいしいよ」
健司は普通に食べる。麗奈は照れながら食べる健司を見たかったが、健司にはこのような感性が欠落している。間接キスなど気にしたことがない。というか気づかない。
すると、健司がお返しに「麗奈さん 何食べる?」と聞いてきたので「玉子焼き」と答えると、自分の箸で玉子焼きをつまんで
「はい、あ~ん」
としてきた。麗奈はすぐに食べたが、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。それを見た健司は「?」と不思議そうな表情をしていた。健司にこの技は通じない。逆に麗奈は心配になる。
「他の人とやっちゃだめだよ!」
と心の中で叫んでいた。