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健司に彼女がいない理由

大学を目指す理由は人によって様々だ。


ただ、実力と難易度でのみ決定する者

魅力を感じる学部を目指す者

ライセンスを得るために目指す者


俺の場合、俺を待ってくれている人のためだけに必死に目指して入学した。

長かった、でもようやくここに来れた。俺達の止まっていた時が、ようやく動き出す。もう一度、あの人と同じ場所にいることが出来る。


大学の正門前 約束の時間に彼女は待っていてくれた。俺を見つけて満面の笑みを浮かべてこちらに走り寄ってくる彼女。俺も思わず彼女の元へ駆け寄る。


「やっと来てくれたね…  ずっと… ずっと待ってた」


「ようやく来れたよ… 待たせてごめん、これからはまた一緒だよ」


彼女は俺に抱き着き、微笑みながら大粒の涙を零す。俺は彼女をしっかり抱きしめて彼女に言った。


「愛してる… もう寂しい思いはさせないよ」


「そばに居てくれるだけでいい… それだけで幸せ…」


俺達の出会いは、俺がまだ高校2年生の時だった。




俺の名は『 鈴木 健司(すずきけんじ)

小学校からサッカーチームに所属し、高校に入っても当然サッカー部に入部して励んでいる。ポジションはサイドバック。いわゆるボールの行方に従って自陣から敵陣まで常に往復運動を行う体力に厳しいポジションである。


なんでこのポジションなのか? 

単純に足が速いからである。100m走だったら、陸上部の奴にも負ける気はしない。 


それともう1つ、全力で走り見事にボールに追いつく俺を見て女の子にかっこいいと言われた一言でこのポジションを気に入ったが、今ではそんな自分を殴りたい。


先輩に“最速のサイドバック”と言われ、おだてられるが、正直きつい。「後悔後を絶たず」… やっぱノリでポジションを決めるんじゃなかった。


毎度、試合終了間際になると、燃えつきた真っ白な灰となっている。

(あのぉ~ 今更ポジション変更って… 無理っ…すよね、 ですよねぇ~)



6月に入ったある日の学校での昼休み。


「おーい、健司 昼飯食おうぜ」

そう言ってやってきたのは親友の『 熊谷 直人(くまがやなおと)


「直人~ 待ってよぉ~」 

遅れてやってきたのは直人の彼女で『 五十嵐 裕子(いがらしゆうこ)


俺と直人は2年4組で同じクラスだが、裕子は隣の5組である。

1年生の時、3人は同じクラスとなり、俺と直人はすぐに仲良くなった。


直人と裕子は同じバスケ部。 裕子は身長も高く明るく、周囲から好かれる性格で友達も多い。 尚且つ結構な美人タイプ。 直人は裕子にほれ込んで猛烈アタックをかけ、夏休みには彼女にした。このとき、俺が何かと直人の相談を聞いてやったり、世話をやいたのがきっかけで、今でも3人は仲が良い。 いまでも昼ご飯は3人で一緒に食べている。


「2年生になったしさー、今年は修学旅行とかもあるだろ、健司もそろそろ彼女つくったら?」 

直人がそう言うと、


「健司のことを気に入っている女の子はうちのクラスにもいるよ」

 裕子もその話に乗ってきた。


周りの評判によると、俺は結構モテる方である… らしい。 身長は180cmと平均よりは高め、体形は少しやせ型で、顔は目鼻立ちがはっきりしているらしい。 おかげで、過去に何度も「告白」なるものをされたが、…


なぜかその度に女性に対する不信感が増えていく。

俺に告白してきた「アレ」な彼女たち


(自意識高い系)

「あなた、最近私のこと、ちらちらよく見てるわね。そんなに気になるんだったら付き合ってあげてもいいわよ。 フン!」


「あなたはどうして授業を逆向きに受けるんですか? それに目が合うというか眼が血走ってますよ。たまにはまばたきをしようね」



(コミュ障系)

「あのぉ~ あのぉ~ あのぉ~ あのぉ~ 」


「続きが言えるようになったらまた来てくださいね…」



(お前誰なんだ系)

「あたしの親友があなたのこと大好きなんだって。付き合ってくれるよね?」


「そもそも前の親友を俺は知らん。顔認証不可、名前も不明って個人情報保護なのか? そもそもお前誰よ?」



(ストーカー系)

「あなたのことが大好きです。見てください、あなたを映した私のコレクション… 」


「それ、“盗撮”だよね。 てか、いつの間にそんなに撮ったの? それにすっごい近い写真もあるし… あと、なんで体育の時間に教室で着替えている写真があるの? お巡りさん呼んでいい?」



(オカルト系)

「あなたの血をください。私とあなたが結ばれるために血の盟約が必要なんです。」


「俺が血を流すの? んで、あなたと結ばれるの? なんで?」



(ビッチ系)

「健司、あたしと付き合って一緒に気持ちよくなろうよぉ~、あたしのテクニック、お客さんにすごく評判いいんだよね」


「お客さんて誰だ? 禿げたオヤジか? 死ね。今すぐ死ね。クソビッチ」


いわゆる“色もの”からの告白がやたらと多く、普通のはにかむような甘い告白は一切経験がない。 最近本当に悩んでいる。


「俺がおかしいのか,あいつらがおかしいのか?」


  “母さん,普通って何ですか?”


何が悲しくて、初めて会った女の子に血を求められないといけないのか。


おかげで、現在進行形で「彼女いない歴 = 年齢」となっている。俺だって学校帰りに彼女と寄り添って、手が触れるとドキッとして、心拍数が上昇するような恋がしてみたい。 


現状、俺に近寄ってくる女子は、違う意味で俺の心拍数を上昇させる。はっきり言って、告白されてうれしかったことは一度もなかった。


何故か知らないが、俺はこういった系統の女の子から人気が高く、よく“粘着”される。しかも結構しつこい。そのたびに、相手が根負けするまで付き合うことを拒否し続ける。おかげで“普通”な女の子と知り合う時間がなくなる。



「しかし健司、お前ってさぁ~ なんで“アレな女の子”にそんなにモテるの? そうゆう趣味なのか?」


「俺も好きでやってるわけじゃねーよ! 次々にどっかから湧いて出てくるんだよ!」


「お前もう少しで“アレな女”の全種類をコンプリートするんじゃね?」


そう言って直人はゲラゲラ笑っている。目に涙を浮かべて息苦しくなる様子で… 


「そもそもお前にも問題があるんだよ。」 


直人は笑うのを止めて少し真剣な顔で言う。


「いちいち言い寄ってくる変な女連中に、きちんと向き合って対応するだろ?だから粘着されるんだよ。そんな連中無視してほっときゃ勝手にいなくなるよ。相手をするからもっと踏み込んでくるし、その様子を外から見てる連中も、私が告白しても健司だったらきちんと対応してくれるから、チャンスあるかもって思うんだよ。」


「でもさ、『他人の意見には真摯に向き合え。その意見には誠実に答えろ』ってのがうちの親の口癖で、それが身にしみついててさぁ…」


「そんなこと言ってたら、この負のスパイラルから永遠に抜け出せないぞ。 ま、そんなこと言ってもそこがお前の良いとこなんだけどな。」


「健司のことをよく知っている女の子の私から言わせてもらうと、顔もスタイルも良い、性格も真面目で真っすぐ、おまけにスポーツもできて明るい… 最高のスペックなんだけどね。」 

裕子の意見である。


「裕子みたいに常識的な性格でかわいい子だったら、こちらからお願いしてでも付き合ってもらうよ。」

俺が言うと、直人は


「そうだろ~ 裕子は自慢の最高の彼女だよ。いくらお前の頼みでも絶対にやんねーからな。」


そう言って惚気はじめた。

リア充な親友の惚気をきいて… “こいつ死ねばいいのに” なんて感情がほんの少しだけ湧きあがったことは、俺の心の秘密箱にそっとしまっておこう。


「でもさぁ、俺も裕子もお前の良い所全部知ってるだろ,だからそんなお前に見合った女の子を探してやろうと思ってるんだよ。」


「あたしも健司が幸せになれるような女の子を探し出して絶対紹介してあげるよ。」


やっぱ、持つべきものは親友だなぁ~と感謝しながら俺は… 心の秘密箱に入れた“こいつ死ねばいいのに”という感情を消しゴムで… 半分だけ消してあげた。



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