第2話 いつもの朝
「行ってきま〜す♪」
「行ってきます、旦那様、奥方様」
アネットとピートは今日も一緒に徒歩で登校する。
「あなた…」
「…なんだ?」
「次の領主はピートでよろしいですね?」
「うん」
ショーンは即答した。
本人であるピートが預かり知らぬ内に彼の人生がほぼ決定したのだが、それはこの物語にあまり関係がない。
「ねぇピート、今日の授業はなんだっけ?」
アネットはそう言って、スルリと自然にピートと腕を絡める。
アネットの柔らかな感触にピートの顔が急激に赤くなった。
「ア、アネット!ダメだよ!」
「えー!なんで!いいじゃん!ボクたち男同士なんだから〜」
なかなか普通の男子同志は登校中に腕なんかを組まないし、そんな可愛く頬を膨らませたりしない。
「とにかく!学校まではこれで行くからっ!」
(ア、アネット〜困るよ〜)
結局、ピートはご機嫌な様子で腕を組むアネットを振り払うこともできず、そのまま登校を続ける。
「あ!アネットさんとピートさんよ!今日も仲がよろしいのね♪」
「あぁピート様、今日カッコイイ♪」
「でも、アネットさんが相手じゃ…」
「しー!ダメよ!アネットさんは男性っ!
そのように接して下さいって生徒会から御触れがあったでしょ!」
「あぁ!そうね!私ったら!いけない、いけない」
というように、アネットが女性である事は、ほぼ全ての学生が知っている。
「ピ、ピート…いまの聞こえた…?」
「えっ!?」
ピートはぎくりとした。
みんなに女性だとバレていると、アネットに知られたと思ったからだ。
「ピートのこと…カッコイイって言ってた…」
(そっちかよっ!)
ピートはホッと胸をなで下ろす。
簡単に言うとピートはイケメンだ。
キリッと整った目鼻立ちに荒々しく波打つ黒髪、身長も高く、体格もキチンと引き締まっている。
「ピート…女の子にモテて嬉しい…?」
そんなピートの隣でアネットは分かりやすく落ち込んでいた。
「い、いや!そんなことないよ!
たぶんアネットの聞き違いじゃないかなっ!?
大体、俺なんかがモテる訳ないって」
「そ、そうかな…?だ、大丈夫かな?
本当に…?まだボクしか気付いてない?
あー!でも!なんかそれはそれで腹が立っちゃう!なんで!?」
アネットは通学路のど真ん中で、分かりやすく乙女心を炸裂させていた。
そして本人だけは、口に出している事に気付いていない。
「ア、アネット!とりあえず学校に行かなきゃ遅れちゃうよ!」
「あっ!う、うん。ごめんね、ピート」
そうして優しく自分の手を引くピートに、アネットは頬を赤く染めて付いて行く。
これはそんな可愛いアネットを、ただただみんなで愛でていく物語。