その2 彼女はこの頃鬱憤がたまっています。
「ねえ、今日も図書室に行くの?」
気怠そうに教室に入り、ワタシの存在を無視するかのように着席した寺山芳樹に嫌味を込めて聞いてみた。
中学三年の時は一緒のクラス。仲良しグループの中では一番気が合った。
二人きりで会うようなことはなかったけれど、女友達からは結構冷やかされ、ワタシも半分はその気になっていた。
高校で同じクラス、席が隣となったときには「あ、これって運命?」と舞い上がってしまったものだ。
気取られまいと平静を装いつつ、その分期待は高まっていた。もしかしたら同じこと考えているかも?
告白されたらどうしよう?
けれど、彼は「運命」を信じない人だった。待ち人来たらず春遠し。良縁実らずいかず後家。
こうしてワタシの高校生活は大凶で幕を開けた。
しかも、彼は少し変わってしまったみたい。あまり話しかけてこなくなった。最初は照れ隠しかと思っていたけれど、どうもそうではないらしい。
中学時代を知るワタシは、子供っぽいままでいられるよりはマシかなと、深くは考えないでいたのだけれど。
二学期に入ってからだろうか、彼の態度が微妙におかしい。どこかどうとは言えないけれど、とにかく変。
こっちはもやもやしちゃって、ついきつくあたってしまう今日この頃。だって、ワタシにだけ素っ気ないんだもの。気のせいじゃないと思う。
ワタシ何かしただろうか? 怒らせるようなことをしてしまったのだろうか?
でも、はっきり言って覚えがない。
「ねえ、聞いてんだけど?」
返事がないことに苛立ち、トゲを隠しきれない。
だいたいさ「お早う」くらい言いなさいよね。
「あー、新開さん? 僕は図書委員で、しかも今日は当番なんです。だから図書室に行くんですが、それがなにか?」
少々不満そうな顔で彼が答えた。ワタシは「説得力なさすぎ」と心の中でダメ出しをする。
中3の時、くじ引きで風紀委員になってしまったことがトラウマなのかな。今回はそうなる前にと図書委員に立候補したのだろう。サボることを前提にしていたのがミエミエ。
ただ、彼は判断を誤ったと言える。それぞれの委員には誰かしら立候補していたし、くじ引きも担任指名もなかったのだ。
何もしなければ、何にもならずに済んでいたはず。
ほんとバカなんだから。
「だからあ、なんでそんなに真面目になってんのって聞いてるんだけど?」
不真面目というわけではない。けれど、そういう活動にいそしむような人ではなかったはず。疑問に感じるのも当然だと思う。
「いやいや、そんなことはないので安心してください。不真面目さだけが僕の取り柄ですから」
ワタシがせっかく心の中でフォローしたというのに、それをいきなり無駄なものにする彼。
しかも何その話し方? なんか腹立ってきたな。ばれていないとでも思っているの?
「知ってんのよ。先週も、それに昨日も図書室行ってたよね。それも当番?」
あ、いけない。
ワタシの言葉に彼が怪訝そうな顔を向ける。
「オレが図書室に行ってたこと、なんで知ってるの?」
う、言えない、後つけたなんて言えない。
えーい、強行突破だ!
「そんなことどうだっていいでしょ!」
追及を避けるため、ワタシは黒板に向き直り一方的に会話を終了させた。
あっぶな! 藪蛇になるところだった。