表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/43

02.梶本くんは機械人形(オート・マタ)



「あのね、梶本くん?色々ありすぎて、かえって冷静なんだけど。どういうこと?ここどこ?」



梶本(かじもと)(てつ)は内心、驚きと落胆が入り混じっている。

他ならぬ自分が目の前の少女…(たちばな)生三(おみ)を強制的に交錯点(こちら)側へ連れてきたわけだが、予想に反して彼女は動じていなかった。


本当はもっと、泣き喚いて暴れられると予想していた。…そのための防衛策として仕方なく布をかぶせ、手足を縛って引きずっていたというわけである。


もちろん、橘生三も連れてきた当初こそ軽いパニック状態にはなっていたが、ここが今まで住んでいた地球…ましてや日本の地ではないこと、そして梶本自身が人間ではないことを告げると冒頭のとおりの質問へと至った。


「ここは交錯点という、夢と夢が重なり合ってできているところです。空をご覧ください」

二人は砂漠の真ん中で、互いに向き合って正座する。


言われるがままに、生三は顔を上げた。






空には雲が流れていて、その間を星々が低空遊泳している。

星にははっきりと形があって帯がついており、飛行機雲のように空へ動線を広げていく。

雲の上の空には無数の星…地球で見たような星々が瞬いている。

けれど、暗くはなかった。夕暮れでも、早朝でもない。

昼間のように青くも見えれば、遠くのほうで紫や緑色が混ざり合ったような、オーロラのような色の空。

太陽もなければ、月もない。

風はあるし、重力…もあるのだろう。けれど、寒くも暑くもない。乾いた砂の匂いがする。

地平線が見える。遠くまで砂漠が広がり、今のところ植物の存在は見つからない。

浮遊感があるような、地に足がついていないような感覚がする。

けれど、しっかり砂の感触は肌にしみる。

挿絵(By みてみん)


ここが異世界だということを、私―――橘生三は否が応でも実感させられざるを得ないのだ。


「なんで、私を連れてきたの?」


と、ようやく私はここで疑問を口に出せた。

「"星の夢"が望んだからです。」

梶本くんが平然と(しているのかわからないが)答える。

「上空を、星の形をしたものが流れているでしょう。あれらが"星の夢"と呼ばれるものです。」

「星の夢?」

梶本くんはシュプールをつけながら低空遊泳している星々を指した。

「正確に言うと、数ある星の夢のうちの一つでありながら、交錯点の主である"星の夢"が望んだのです。貴女は覚えていないでしょうが、以前夢の中で貴女はこの"交錯点"に迷い込んだことがあるんですよ」


夢の中で出会った?何それ、運命的。

けれど残念ながら、私は夢見が悪い方なのだ。

頭をこねくり回して記憶を辿っても、こんなへんちくりんな異世界に来た覚えはない。

「うん、覚えてない」

梶本くんは動かなかった。

呆れているんだろうか、それとも、面倒くさくなったのか。

「…その時、貴女は主星と出会い、気に入られました。」

後者のようだ。ありがたいことに、それ以上の追及をやめてくれた。

追及されても答えられないし。



――あの子を連れていらっしゃい、カジモド。


それがどんなに嫌なことでも、難しいことでも。

主である星の夢が願ったのなら、梶本くんはその願いを叶えなくてはいけない。

それが交錯点で生まれたくず(・・)…機械人形たちのルールなのだそうだ。

梶本くんは、その中でもかなり機能的に優れた機械人形(オート・マタ)らしい。


「そんな、くずだなんて自分を卑下しなくても」

「卑下しているわけでは…」

梶本くんが説明を続ける。

その強大で我侭な星の夢が如何にして生まれたか、だ。


交錯点には、夢のかけらが沢山落ちてくる。

夢のかけらが集まると、そこからくずが生まれる。

くずたちは、交錯点を徘徊する。

生まれたてのくずは特に意思もなければ、生まれてくる意味もないらしい。

ただ『集まったから』できる。

それが徘徊するうちに自我が生まれ、やがて"あるひとつの願い"を抱えるようになる。


"星になりたい"。


願いを抱えたくずは交錯点の中にある無数の大きな穴"くずかご"を目指すようになる。

くず同士で集まり、一番強く瞬く願いを持ったくずを核にして星の夢へと昇華する。

星の夢とは、くずたちの"星になりたい"願望の結晶だった。


要するに、くずたちの集大成。


そうしてできた星の夢はくずたちに希望という力を撒きながら交錯点を一周し、星になるために空へ昇っていく。

集まったくずの願望の強さが、そのまま星の夢の強さ(大きさ)へと変わるのだそうだ。


「えっと、これは…つまり、どういうことだろう?ただ『星になりたい』っていう願いで生まれた星の夢より、『めっちゃすごくきれいな星になりたい』っていう星の夢の方が強くて大きいってことかな?」

「まあ、その解釈でだいたいあってます」

「わー。アバウト」

あれだ。思いの強さが力になる!…的な。

「ですが、それだけでは星になれません。あくまで星に限りなく近い、"星の夢"なのです」

「ふぁーん」

思わず、欠伸と相槌が重なった。

「ですので、星の夢は、その身に他の夢を巻き込むのです」

「願いを巻き込む?」

おっと、意味わかんないぞ。

「はい。星になりたい、という願いを半ば叶えたくずは、さらに光り輝くためには新たな願いを探さないといけません。願いは力ですから」

混乱していると、梶本くんが補足してくれる。けっこう律儀だ、この人。いや、人形。

「その力を求めて、星の夢は天へと昇るのです。交錯点を抜け、多次元に身を置き、あらゆる夢の世界から願いを集めて力を蓄えていく」

「それは私たちがみる夢ってことなのかな?ここが夢と夢が重なってる場所だって、さっき言ってたね」

「はい。星はあらゆる夢の世界に干渉し、その夢の願いを叶えることができるのです」

「星すごい!」

「凄いです。ですので、交錯点は星を敬い、人々が夢を叶え終えて光る星々に、祈りを捧げるんだと俺は勝手に思ってます」

勝手に思ってるのかー。

「そこは事実を教えてよ」

「機械人形が、くずが、人間の思考の粋まで辿り着くことは難しいので」

「はー。まあ、どっちかっていうと人間はこれから叶えて欲しい願いを星に祈るんだけどね」

ちらりと梶本くんを見るも、真っ赤なマスクのおかげでどういう表情をしているのかさっぱり分からない。が、不快そうにしている空気は感じ取れなかった。

「その願望は夢を通じて天に向かう星の夢に届きますから、似たようなものでしょう」

「機械人形のくせにアバウト」

「高性能なんです」

「なるほど」

突っ込むのはよしとこう。


強く沢山の願いを抱えた星の夢が天へ昇りきったとき。

星として<生まれる>事ができたとき、星は自ずと光りだし天へその力を放出する。

放出された力は交錯点だけでなく他の夢の世界にも影響を及ぼすエネルギーとなり、

それは無から有を生み出す力へと変わり、巻き込んだ願い、祈りが届けられる。

星はただ静かに強く輝きながら、ゆっくりと己に託された願いの元へ、力を送り込む。


誰かが、何かが星に願うとき。

その願いを糧として、星の夢も星へと生まれ変わる。


それ故に、星には人の願いを叶える力があり。

星の夢にはくずが望む力があるという。


「あれだ、元〇玉だ!みんなの願いや祈りを集めて、それを力に変換する感じだ」

色とりどりの夢がどっさりじゃん。世界で一等なんちゃらな奇跡じゃん。

「…?それが何かはわかりませんが、後半はあっています。夢の世界では、それが実現する。そして、夢の世界で実現することは、現実世界のあなた方に影響を及ぼします。それらを可能にするのが、"星の夢"です。」

「星の夢すごい!」

「はい、凄いです。ですから、交錯点では何よりも星の夢が敬われ…大事にされるのです」



ところが。


ある時、異質な星の夢が誕生した。


本来、沢山のくずが集まった末に自我が消えるはずの星の夢。

けれど、自我を持ったまま、強く強大な願いを抱えた星の夢が生まれた。


その星の夢は空へ昇らず、ただ交錯点を自由に周回し、扇動するようにくずたちを生み出していく。


<自我が欲しければ、相手を砕きなさい。>

<星になりたければ、希望を求めなさい。>

<生きたければ、わたくしに従いなさい。>


ほどなく異端な星の夢はくずたちを、交錯点を支配していき、砂上の城を作り上げた。


<わたくしは星の夢、星になんてならない!わたくしは、わたくしの願いを叶えたい!>


その強い願いは、交錯点を歪ませていく。

誰かが星の夢を止めなくては、交錯点が壊れてしまう。

それを危惧した"交錯点の管理者"である"複雑機構(コンプリケイション)機械人形(オートマタ)"たちは星の夢に仕える傍ら、彼女を止める術を模索している。

彼女の機嫌を損ねないように、慎重に。


交錯点を壊すわけにはいかない。

それが複雑機構たちに課せられた役目だから。


複雑機構の一体、梶本鉄…"カジモド"。

目の前にいる、灰色ローブの全身赤タイツマスクは、交錯点を管理する機械人形の一体。


「とりあえず、俺の傍からは離れないでください。俺が必ず、橘さんを無事に元の世界へ送り届けます」


表情も分からない、人間ですらないその不気味な見た目の機械人形。

この広い異世界の中で、助けてくれる宛もない。彼がどういう人…人形なのか。

管理者とは一体なんなのか。…おいおい聞いていけばいい。


私もとりあえず彼…梶本くんを信じることにした。

他に手立てがないというのもあるし、一人でこの砂漠に置いてかれても困るし。


それになんとなく、梶本くんは悪い人形ではなさそうに思えるのだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ