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10.幕間

「待って、くちなし。待って」

小さなくずが口を開いた。懸命に、自分の後を追ってくる。

「どうしたの」

さらりとした髪の毛の、人間によく似たくずが微笑んだ。

「アンチモ二―がいうんだ。おまえはやくたたずだって」

「まあ」

驚いたあと、くすりと柔らかく笑う。

「大丈夫よ。アンはあなたのことがきらいで言っているのじゃないのよ」

「でも…」

小さなくずは俯いたまま、顔をあげない。

「あなたには、あなたにしかできないことがあるでしょう?大丈夫、あなたは役立たずなんかじゃないわ」

「でも、おれは鐘をならすしかできない」

「素敵なことじゃない」

「みんな、おれの音がきらいだ。きらいな音しかならさない。だから、みんなおれがきらいなんだ。おれも、みんなのいやがる音しか出せないおれがいやだ。どうしておれなんか、生まれたんだろう」

「私はあなたのことが大好きよ」

「うん。くちなしだけは、そう言ってくれる。おれも、みんなも、くちなしがだいすきだ」

「うふふ、ありがとう。でもね、私も最初は嫌われていたのよ」

小さなくずが驚いて顔を上げる。漸く顔が見えたと、人間に似たくずが微笑む。

「うそだ。くちなしを嫌いなやつなんて、いない」

「いいえ、本当よ。だから、大丈夫。いつかきっと、みんながあなたを好きになってくれる。」

「そんなの」

「あら、私が嘘を言ったことがあったかしら?」

「ううん。…ない。くちなしがそういうなら…」

「良い子ね。大好きよ、タンタル」




夢と夢が混ざり合う交錯点。

誰かの願いが、祈りが、叶えられなかった想いが塵となってつもる世界。

夢の中で眠ったら、夢を見る事ができるだろうか?その夢はどこにあるのだろうか?

その夢は、繰り返し、繰り返し、延々と、夢の中にいる夢見る私は、いったい誰?

交錯点ではただ、誰かの夢が積もるだけ。

叶った願いは、星になるから。

叶わなかった願いの、なれの果てで。

叶えたいと願う、叶わない夢が蠢き、飲み込みあって、星になるべく争っている。




無作為に現れたくずは、互いにくずを飲み込んで大きくなり、暴れまわる。

膨れ上がったくずの周りを星の夢がくるくると回り続ける。

暴れまわっていたくずは、星の夢の光を追いかけ、飲み込もうとした。


星の夢の帯を捕まえ、大きな口を開く。


しかし、くずは星の夢を飲み込むことはできなかった。

開かれた大きな口が、真っ二つに分かれたからだ。

離された星の夢はそのまま、二つに割かれたの間をすり抜けて、再び雲に紛れるように流れていく。

あの星の夢は、やがて天に向かうだろう。


「…くずのくせに、過ぎた大望は抱かないことだ。大望を抱きたければくずかごの中で証明するがいい。

きさまの核は、責任もって私がくずかごまで連れて行く」


くずの背中から、灰色のローブを纏い、黒いタイツを履いた青年がつぶやいた。

持ち手が横になっている剣を両手に携えている。


「やれやれ。…あのおみとかいう人間のおかげで、欲深なくず共が増えた」

くずのかけらをローブにしまい、ため息をつく。

「それもこれも、全部あの役立たずの鐘鳴らしのせいだ」

風に乗りながら、くるりと回って空を昇っていく。

『トゥールビヨン』の管理人形ウォルフラムは静かに苛立っていた。

「主星は何故あんな役立たずにばかり構うのだろう」

彼女が星の夢になる前からそうだった。

嫌われ者のリピーターに相応しい名前を与えたのも彼女だ。

管理者は、あくまで交錯点を管理する権限を持つくずに過ぎない。

強い願いを抱いたくずが生まれればくずかごに集め、星の夢を送り出す。

管理者にとって、くずにとって、星の夢は己が諦めた夢を叶えてくれる存在。

だからこそ、管理者は星の夢を大切にする。

その星の夢自身が、交錯点を支配すると言い出したのだ。

己の願いを叶えるために、と。

それならば自分は、管理者は星の夢の力に尽力するのが当然。

風を起こし星の夢と共に流れるトゥールビヨンは、

他のどの管理者たちよりも、ずっとずっと、星の夢を想う気持ちが強い。

「カジモドめ…!次に会ったときは、必ずあの腹立たしい面をへこませてやる!」

そう心に強く決めたときだった。


己の場所から最も近しい管理者の信号が2つ、揺れている。

1つはわかる。定期的に途絶える信号は『インジケーター』の管理者5164のものだ。

すぐに再起動し、また信号が現れる。座標板から座標板へ、体を乗り換えたのだろう。

これは通常通り。

けれど、もう一つは?

直近で出会った管理者は、ただ一体。

近くで人間特有のあの非常に複雑に交差する信号も発している。

だとすれば。


「なんだ…まさか、あいつ?」


丁度考えていた矢先に、その信号が途絶えるのを聞いた。


思わず、体が浮いていた。





「砂の中でソナーが踊る。輪をかいたトンネルは常に先回り」

ベリリウムは空を見上げて、にこやかな笑顔を浮かべて歌う。

「矢印の嘘は月面を揺らし、黒い涙は海の上を歩く」

歌いながら、地平線を目指す。

「星と星ぺったんこ。ぐるぐるまわって、雨になれー」

突然、ベリリウムの頭の中から、ちかちかと光っていた信号が消える。

「風が錆びていく、大地は空を見下ろして高笑い」


[―素敵な歌ね、ベリリウム]

空から声がした。

星の夢がひとつ、頭上でぐるぐる回っている。

「星の夢はご機嫌ななめそうだね?それとも、まっすぐ?」

ベリリウムはふあ、とあくびをする。これはかつて交錯点に迷い込んだ人間に教わった動作で、どういう意味かは分からないが気に入っている。

[ええ、あなたがまっすぐにしてくれたわ。うまくカジモドを誘導してくれたのでしょう?]

「誘導するのはレニウムだよ…ああ、今の名前は数字だっけ?」

[ええ。5164(あの子)は数字が大好きだから、あの子の好きな数字で呼んであげることにしたの]

「それは迷惑だね、レニウム以外が」

またいつものにこにこ顔に戻る。

[うふふ。貴女が進路を示してくれたおかげで、大きくそれていた軌道が修正されたわ。ご褒美をあげないとね。何がいいかしら?ベリリウム、貴女の望むものはなに?]

ベリリウムはにこにこ笑ったまま動かない。

[…そう、そうね。貴女はずっと、そうやって笑っていられればそれでいいのよね]

「カジモドの信号が消えた」

歩いてきた道を振り返る。星の夢も頷く。

[ええ…きっと5164の仕業だわ]

「そっか。それはきのこの毒」

[貴女もくずかごにおいでなさい。素晴らしいものが見れるわよ]

「走るのに飽きたらね」

くるりと回転して"デリリウム"は明後日の方向へ、のんびりと歩きだす。

「働きものはつらいのだー!」

その様子を眺めながら、星の夢も微笑んだ。

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