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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある聖女の独白

作者: 春風偲

この物語はあくまでフィクションです。




天に()します我らの父よ。


一匹の子羊が、あなた様の御許(みもと)へ参ります。


主よ。どうか私を――






"声"を聞いたあの日から、私はあなた様に従い動いて参りました。


譬え(たとえ)それが(いばら)の道でも、譬えこの身が血に染まろうとも、


我が祖国のため、主の御言葉(みことば)のままに尽くしてきたつもりです。


ここで私が刑に処せられるのも、恐らく神の思し召し(おぼしめし)なのでしょう。


ですから怖くはありません。


(おそ)れることはありません。


裁判にかけられた(おり)も、私は事実を告げたまで。


自分が神の教えに背いているとは思いません。




男装が神の教えに背くというイングランドの人々。


確かに男は男、女は女であることを望まれし御方(おかた)です。


それならばと女らしく整えたとて、彼らは私を襲ってきました。


あれこそ教えに背くのでは。


……私はあのような行いをもう二度とされたくありません。


同時に服装も男性用(もとのもの)しかなくなりました。


そこで男の装いをすると異端だと言われます。


きっとこれがイングランドの目的だったのでしょう。


聖女と(たた)えられ王子を支えた者が、実は異端者――魔女だとすることでフランス軍の士気を下げられると。


我が祖国は私を助けないでしょう。


もう私の役目は終わっているのですから。


だからこそ、この地でかような目にあっているのでしょう。




一時期は(なげ)きもしました。


『何故私がこのようなことに』と。


けれど慨嘆(がいたん)することなどなかったのです。


何故なら私の信仰する神は、信ずる者をお見捨てにならない慈悲深き御方。


艱難(かんなん)さえも、それは導きであり、必要なものなのだから。


ええ、今までと同じように。


そう気づいた瞬間に、憑き物(つきもの)がおちたように感じました。




司祭は問いました。


『神の恩寵(おんちょう)を受けていると認識したことがあるか』


そんなこと、誰にもわかりません。


『恩寵を受けていないのであれば神が私を無視しておられるのでしょう。


恩寵を受けているのであれば神が私を守ってくださっているのでしょう』


そういうものと私は思えます。




……もう最期(さいご)の時が迫っているのですね。


主の御許に参る時が。


「お願いします……どうか、私の前に十字架を(かか)げてはくれませんか?」


十字架を見ながら逝きたいのです。


二人の立会人はその言葉にそっと(うなず)き、小さな十字架を作ってくださいました。


嗚呼、なんと心優しき方……!


「ありがとうございます……ありがとうございます……」


この御恩(ごおん)、決して忘れることはないでしょう。




「Death to the heretic《異端者に死を》!」


「国と人々を(たぶら)かし、イングランド国民の血を流させた魔女に死の報いを!!」


喧騒(けんそう)の中、執行人が声を張り上げ手をあげます。


同時に兵士たちが私の足元に火を()べました。


すぐにのぼっていく(ほのお)


燃えていく私の(からだ)


「神様、神様……っ」


(アツい、躯を(つんざ)かんばかりの痛み)


視界はすべてアカに染まり、もうなにも見えなくなりました。


けれど感じられます。


信じている限り、此処(ここ)に主はいらっしゃると。




主よ。我らの父よ。


この世で唯一の我が信ずる神よ。


少々お尋ねしても宜しいでしょうか。


私はなすべきことをしっかりできていましたか。


確り(しっかり)と私は道を歩むことができていましたか。


……なんて、弱気になってはいけませんね。


聞かずともわかることなのですから。




焔に包まれる肢体(したい)に、煙で充満する己の肺。


肌を刺す程の痛みさえ何もわからず、頭も回らなくなっていきます。


これが本当に最期……


そう感ぜられると、自然と湧き出てくるものがありました。


それは声にならぬ声となって、零れでていきます。




天に坐します我らの父よ。


キリスト(御子)の御名によって忍耐と慰めたる神を(あが)めさせてください。


望みと平和の神が聖霊によって我らに望みを溢れさせ、平穏を与えてください。


あなた様の恵と平安とが、皆に等しく降り注がれますことを。


どうか、我が主よ。


天におられる愛しきお父様よ。


こう徒然(つれづれ)と申し上げはしましたが。


どうか、どうか。


「全てを委ねます」


あなた様が全てよきように計らってくださると信じています。






こうして彼女は息絶える。


その身は灰になるまで焼かれ、またその灰は川に流されたという。


――これは神の"声"を聞いたとある聖女(オルレアンの乙女)の独白である。

元はあるゲームの二次創作で書いたものです。

二次にあたる部分を消し、今の自分なりにリメイクしたものになります。

それ故に一部蛇足のように感じるところがあるかもしれません。


また、以前書かせてもらった際、彼女に関する伝記を少し読ませていただきました。

そこで男装が罪とされたなど、一部は書かれていたことを使わせてもらっています。

が、如何せん昔のことですし、自分も深く調べたわけではないので、史実と異なるところもございましょう。


あくまでフィクションとしてお楽しみください。


おそらくいつも以上に読む方を選ぶ作品となっています。

気分を害されました方はすみません。


この作品を受け、何かを残すことが出来ましたら、考えていただける機会となれば。

それだけで私は嬉しいです。


ここまでお読みくださった方、誠にありがとうございました。

誤字脱字、感想などございましたら、送っていただけると幸いです。


長文乱筆、失礼致しました。

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