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第五話 生徒会役員

 翌日、いつもより早く起きてしまう。

 なぜなら、昨日の出来事が頭の中でずっと回り続けているからだ。

 あの後、すぐには思い出せなかったけど、時間が経つ毎にじわじわと思い出してきた。

 『LOVE&PEACE』をお披露目した後、あまりの恥ずかしさで頭が真っ白になった僕は、奇声だか悲鳴だかを挙げながら学園を飛び出して行ったのだ。

 ・・・・・・ダメだ、今日は学園に行けないよ。

 恥ずかしすぎて、誰にも顔合わせられない。

 全部、会長のせいだ。

 いやまあ、賭けの内容は僕が決めたので、ほぼ悪いのは僕なんだけど。

 とりあえず、今日は布団に包まったままグダグダして、先生には適当に仮病使おう。

 そう思い、布団を頭まで被った。

 窓の外からは、朝の気持ちの良い潮風と、鳥たちのさえずりが聞こえる。

 だんだんと押し寄せる心地の良い眠気。

 それを邪魔する、一つの無粋なチャイムが家中に鳴り響いた。

 こんな時間に一体誰だ? どうせタチの悪い宗教の人たちだろう。

 僕は微動だにしない。

 もう一回チャイム。無視。

 父親は仕事でしばらく帰ってこないから、今家の中にいるのは僕だけ。

 よって、玄関に掛け寄り、ドアノブを握る者は誰もいない。

 今度は二回続けてチャイム。無視。

 タチの悪い宗教への勧誘は、何かとしつこい。

 通い詰めれば、根負けすると思って、味を占めてやがるのだ。

 だが、僕はそんなものには屈しない。

 今日、僕は断固として玄関のドアノブを握ることはないだろう。

 今、誓った。

 すると、今度はチャイムを使ってなにやら、音楽を刻み始める。

 このアップテンポで懐かしいリズムは聴いたことがあった。

 お、ドカンに入ったか。

 ・・・・・・って、これ、赤い帽子被ったスーパーMおじさんのテーマじゃん。

 いや、この言い方だと、スーパーな勢いで変態なおじさんになっちゃうな。

 ていうか、うるさいっ!

 まだ、続けてるんだけど。

 僕は耳に指で栓をして、全く動く気はない。

 しばらくして、チャイムは鳴り終わった。

 どうやら、諦めてくれたらしい。

 僕は安堵して、目を閉じ、再び眠気を召喚し始める。

 しかし、静まり帰った家の中に、ふとガチャッという聞き覚えのある音が聞こえた。

 僕の耳がハンデを背負ってないのであれば、間違いなく玄関の鍵が開く音だ。

 ・・・・・・いや、まさかね。

 そう思ったとき、突然玄関のドアが閉められる音がした。

 気のせいか、階段を駆け上がる足音が近づいている気がする。

 え? もしかして、泥棒?

 いや、落ち着け。多分、父親だ。

 僕の父はいつ帰ってくるか分からないし、帰ってくる時間帯もバラバラだ。

 だから、今、父親が帰って来たに違いない。

 そして、近づく足音がやんだと同時に、僕の部屋のドアがゆっくり開く。

 とても上品な甘い香りが僕の鼻先をかすめた。

 どこかで匂ったことのある香りだ。

 不意に僕の被っている布団が、何かに掴まれる感覚がした。

 その次の瞬間、微かな抵抗も虚しく、僕の装備ふとんが引っぺがされる。

 とても仲が良い上と下の瞼の仲を引き裂き、ゆっくりと開いた。

 派手でもなく地味でもないとても雰囲気の良いチェック柄のカーテンだと、思った。

 しかし現実問題、僕の部屋にあるはずのカーテンは、僕には似つかわしいくらいの爽やかな黄緑。

 さらに、そのカーテンの下からは二つの太くきめ細かい黒い棒が伸びていた。

 何だこれ?

 僕は自然とその黒い棒を指でつついてた。


「んっ」

「・・・・・・ん?」


 僕はその声のする方へと視線を上げる。

 とても見覚えのある、美人さんが僕に微笑みかけていた。


「おはよう、リンペーくん? 私よりも先に私の太ももへの挨拶はもう済んだかしら?」

「・・・・・・」


 意識は一気に覚め始める。

 僕の口はパクパクと言葉を探す。

 人間思いも寄らぬことが起きると、本気で言葉を失うらしい。

 そうして、やっと見つけた言葉を僕は何のフィルターも掛けることなく、言い放っていた。


「や、柔らかいですね」

「デリカシー」


 会長は微笑んだまま、神経の通った眉間にデコピン。

 完全なる目覚めの一撃であった。



 僕と会長を快適に学園へと運ぶのは、なんと真っ白なリムジンだ。

 まさか僕の人生で、リムジンなんて大それた高級車に乗る日が訪れるとは、夢にも思っていなかった。

 何となくお嬢様なような気がしていたが、本当にお嬢様だったなんて。

 会長は脚を組み、横髪を手ぐしで解いている。

 話す話題もないので、とりあえずジャブとして謝っておくとする。


「あの、さっきはすいませんでした」

「キミはなにに謝っているのかしら?」


 会長は悪戯っぽく笑い、僕を見た。

 僕は少し返答に困る。

 太ももをつついたことは、謝らなければいけないことかと問われれば、実に微妙なところだ。


「まさか、リンペーくんが脚フェチだったとは思わなかったわ」

「いや、あれは寝ぼけてて・・・・・・」

「潜在意識の中でも脚に執着するなんて、大した変態さんだこと」


 僕はぐうの音も出ず、頬を掻く。

 確かに、そう言われてしまえば反論できない。

 ・・・・・・いや待て、なんか僕が一方的に攻められているけど、明らかにおかしいことが起こったことを僕は忘れていた。


「ていうか、会長がなんで僕の家に来たんですか?」

「そんなの決まってるじゃない。ものの見事に羞恥をさらしたリンペーくんが、寝込んで学園をサボらないように来たのよ。感謝なさい、こんな美人に朝起こされるなんて、世の男の子の夢なんだから」

「いやまあ、僕にとってはありがた迷惑ですけど、不法侵入ですよ?」

「何を言ってるの? 人の心に脚を踏み込むことが不法侵入なら、世の中の恋人はみんな不法侵入者じゃない」

「んー、うまいけど、うまくないです。誤魔化さないでください。僕の家の鍵持ってましたっけ?」

「笑わせないでくれるかしら? 鍵穴なんて所詮はパズルみたいなものよ。あの程度の鍵穴なら私のピッキン・・・・・・コホン。魔法の鍵でイチコロよ」


 会長はそれが何か? とでも言いたげな表情だ。

 犯罪ですよ、それ。しかもピッキングって言おうとしてたよね。

なんで、アンタがそんな高等技術持ってるの?


「それに、昨日は結局、決着が着かなかったじゃない」

「え、決着? 賭けの決着なら着いたじゃないですか。僕はその場から逃げ出しましたし、会長は僕が男であることをその場で証明したじゃないですか」

「でも私は、回答してないのよ」

「・・・・・・え? 回答」

「あの賭けはキミが男か女かを答えた上で、証明しなければいけないルールだった。でも、私はキミが男か女か答えてないのよ。だから、キミのファンキーな下着を生徒たちにさらしただけの悪質な悪戯になった」


 会長は悔しそうに親指の爪を噛んだ。

 悪質な悪戯か。

 僕が思っているよりも会長は、自分に厳しい人なのかもしれない。


「そう、あのセンスが光りすぎて逆に痛い、ファンキーピンクを」

「うぉいっ」


 なんで二回言った。

 しかも、二回目さらに詳細になっちゃってるよ。

 折角、見直していたのに。


「でも、キミは本当にいやらしい人間よね」


 会長は脚を組み直す。

 きわどい角度で繰り出される色気に、僕は目を逸らした。


「えっと・・・・・・それはどういう意味ですか?」

「まあ、あの下着もそうだけど、与えられた権利を余すことなく自分の勝利のために使えるあたりかな」

「あの下着は父が誤って買ってきて、昨日は着ていくものがそれしかなかっただけです。まあ、賭けの内容に関しては・・・・・・ちょっとやり過ぎたかなって」

「いいのよ。それで」


 会長は窓の外に視線を向けた。


「勝利。つまり、結果を出す上で感情なんてただの重りにしかならないものよ。実はね、屋上でキミが賭けを承諾した時点で私は勝ちを確信していたの」

「・・・・・・え? な、なんで?」


 僕は妙に乾いた喉から、震えを押さえるように訪ねる。


「賭けは、最高に冷酷で寛大な取り引き。お互いの利害が一致した上で、納得したのであれば一切の相手に対する感情を殺せる。だから、賭けを提示した側は相手を賭けに乗せることが本当の賭けになるのよ。考えてみたら、分かるでしょ? 相手を賭けに乗せるということは、いかに相手の欲する利益を選りすぐり、見極め、吟味し、賭けの代償にするのか。それで相手が賭けに乗れば、どっちの方が優越かなんて明らかじゃない」


 僕は喉の奥に張り付いた、ねっとりしたものを流し込む。

 この人は、僕の想像以上に考え方が鋭い。

 切れ味が良すぎて、むやみに触れられない。

 僕が初めて会ったときの、ほんわかしたイメージは完全に崩れ去った。

 それと同時に、会長の奥にある冷たいものを見てしまったような感覚。


「まさか、リンペーくんがあんなにいやらしい方面に頭がきれるとは正直思ってもいなかったわ。単純にじゃんけんでもして終わると思ってた。将来は詐欺師にでもなれるわよ、きっと」

「いや、嬉しくないですよっ」


 会長はすっと、僕の鼻先に指を当てる。


「ここまでのキミの評価はおしまい。本題に入るわ。・・・・・・リンペーくん。今回の賭け、引き分けにしない?」

「引き分け?」

「そうよ。あの場を逃げ出したキミとルールを破った私。どちらも敗北したのであれば、引き分けにしましょう」

「・・・・・・引き分けにしてくれるなら、それはそれで有り難いですけど。じゃあ、どうなるんですか?」

「お互いの利益だけを呑むことにしようと思うわ」

「利益?」

「キミの利益は、一度のみ私の私的利用よ」


 その言い方は少しこそばゆい。

要は、会長が僕の言うことを一度だけなんでも聞くという、肩たたき券みたいなものだ。

 僕は頷く。


「ご利用は計画的にすることね。そして、私の利益は―――」

「僕が生徒会役員になること」

 

 会長は驚いたような表情をする。


「あら、随分と協力的なのね」

「・・・・・・」


 僕だって、まだ入ると決めたわけじゃない。

 実際今だって、僕はどうにかできないかと逃げ道を探しているのだから。


「でもね、キミはもう生徒会役員に入ることは避けられなくなったわ」

「・・・・・・は? どういうことですか?」

「あの後、思わぬ収穫があったのよね」


 会長はポケットから携帯を取り出すと、その画面をこちらへと向けた。

 画面の中に写っているのは、僕。

 そのお尻には、愛と平和を唱えた金色の刺繍がほどこされている。

 僕の口は、酸素を欲する魚のようにパクパク。

 本日二度目。僕は言葉を失った。

 でも二度目はさらに酷く、胃のあたりがすごく締め付けられ、とても冷めた変な汗をかいている。


「世は情報社会。ありとあらゆる情報がネットワークを伝って流出し、保管される。まさに情報の運河。もしその流れにこの画像をそっと置いてみたら、随分と愉快なことになるとは思わない?」


 そんなことを言う会長の微笑みは、まさに悪魔だった。


「安心して、この写真を持ってるのはこの世界で私だけだから」 


 たらりと頬を伝う、汗。全く安心できない。

 僕はまるでクモの巣に引っかかった、獲物のようだ。

 これは非常にまずい。弱みを握られるなんて。

 僕らを乗せたリムジンは目的地に到着したのか、エンジンを停止させた。

 ドアが開き、僕と会長は外に出る。


「と、いうことでまた放課後、生徒会室で待ってるわ」 

「・・・・・・」

「来ないと、社会的に死刑だから」


 会長は全異性を虜にするであろう、破壊的なウインクをする。

 僕にとっては致命的な脅し文句と一緒に。



 時間とは不思議なもので、来ないで欲しいと思う時間は、願えば願うほど加速して、いつ間にか訪れてしまうものだ。

 ・・・・・・放課後が訪れた。

 思えば、今日はすごいやりづらい一日だった。

 委員長には朝っぱらから、すごい勢いで絡まれたし、行く道行く道なにかと視線を感じるし、ヒソヒソと話されるし、変に目立っていた。

 理由は昨日の屋上での出来事に間違いないのだろうけど、それにしても昨日の今日でこんなに広まってしまうものなのか?

 まあでも、人の噂も75日って言うしね。

 ・・・・・・二ヶ月半は、長いな。

 まだ、役員になることは決めてないけど、とりあえず行かなきゃ僕の社会的な死が来てしまう。

 それだけは避けねば。

 そうは言っても足取りは重いわけで、僕の上っているこの螺旋階段も無駄に長く感じる。

 委員長の話だと、生徒会室は本校舎の西側に位置する、中世の欧州染みた特徴あるガラス張りの塔の中にあるのだと言う。

 実際目の当たりにすると、それはまるで教会にあるステンドグラスのように、色彩鮮やかで幻想的な塔だった。

 この塔そのものが、生徒会のためだけにあるなんて信じられない。

 そう、この塔は生徒会専用。

 それを聞いたとき、耳を疑ったが、そこまで来ると返って清々しい。

 僕はとんでもないところに転校したらしい。

 今更だけど、そう思う。

 『生徒会室』という豪快な白文字の、扉の前に来てしまった。

 僕の身長の二倍ほどの扉からは、妙な威圧感がある。

 この扉の前に来て、脚がすくまない人間は、きっと人間としても質が高く豪快な人間に違いない。

 なぜか、会長の姿が思い浮かんだ。

 確かにあの人は、人間としてレベルも高く何気に性格も豪快で度胸もあるが、僕の思っているエレガントなイメージとは少し違う気がする。

 何が違うのかと問われてしまえば、うまく説明はできないけど。

 ここに立ち呆けていても始まらないので、一度深呼吸すると、扉を二回叩く。


「はい、どうぞ」


 中から爽やかな男の人の声が聞こえてきた。

 そうか、生徒会役員は会長だけじゃないから、男の人だっているか。

 僕はためらいがちに声を出す。


「し、失礼しますっ」


 やけに重量感のある扉をゆっくり開いた。

 高級感のある、品の良い香り。

 室内は想像通り広く、テニスコート半分くらいの広さはあると思う。

 部屋の周りには本棚と、その中には書類や本などの書物が詰め込まれ、部屋の真ん中には応接用なのかテーブルに革張りのソファが置いてある。

 そのテーブルの奥、三つの大きめのデスクが一定の間隔を開けて並んでいる。多分、その上で業務を行うのだ。

 左のデスクにはやたらとニコニコとこちらを見て微笑む、さらさらとした茶髪の爽やかなイケメン。さっき返事をしたのはこの人だろう。

 右のデスクは異様で、無数の這うコードがデスクに巻き付き、それらはデスク上のやけに高性能そうなパソコンに全て集約されていた。

 その持ち主は忙しそうにマウスとキーボードを操作し、青白い画面に視線を見つめるメガネを掛けた小柄な少女。

 頭を覆うウサ耳付きのフードのせいで、顔はよく見えない。

 そして、真ん中にいるのは悪の権化、組んだ両手に顎を乗せ、僕を惑わすような笑みを浮かべる会長。


「生徒会室へようこそ、天使 倫平くん。逃げずに来たのね」

「退路を塞いだのは、会長じゃないですか・・・・・・」


 会長は「そうだったかしら?」とシラを切る。

 僕を若干苛立ち混じりの視線を向ける。


「そう睨まないで頂戴。私だって悪気はないのよ? ちょっと茶目っ気があるだけよ」


 何が違うのだろうか。


「何はともあれ、こうして新しいメンバーが加わったわけだし、自己紹介してあげないとね」


 そう言って会長は立ち上がった。それにつられて隣のイケメンも立ち上がる。

 二人は真ん中のテーブルまで行くと、僕を手招きした。

 二人がソファに座ったので、僕もその向かい側のソファに着く。

 すると、イケメンが口を開いた。


「初めまして、俺は九十九つくも れん。二年生で、一応副会長をやってるよ。女性のタイプは年上。よろしくね」


 歯磨きのCMに出ても可笑しくないほどの、真っ白な歯を見せながら笑う。

 この人の第一印象は、なんというか、眩しい。

 なぜか僕が若干、罪悪感を覚えるほど。

 そういえば、委員長も絶賛していたな。

 ていうか、自己紹介で女性のタイプはちょっとハードル高くないか。


「は、初めまして、天使です。女性のタイプは・・・・・・脅迫しない人です」

「遠回しに愚痴らないでくれるかしら?」

「君がリンペーくんだね。ユリから話は聞いているよ。何でも性格が随分捻くれてるらしいじゃないか。人を騙すことに関してはユリも認めるほどの逸材だとか」


 九十九先輩は、爽やかにそんなことを言ってのける。

 僕はちょっと傷ついた。

会長は一体何を話したんだ。


「いや、それは僕に対する会長の悪口ですよ。それじゃあ、僕がまるで詐欺師みたいじゃないですか」

「え? 将来が有望な詐欺師って聞いてるけど?」


 僕は会長を睨む。

 会長はぷいっと違う方向を向く。

 こ、この人は、まったくっ。

 大体、人を騙すって言ったって、僕はまだ誰も騙してない。


「何はともあれ、新しいメンバーが増えてくれたのは本当に嬉しいよ。男は俺一人だけだったから、心細かったんだ」


 その少年のような笑みに、男の僕も少しドキッとしてしまう。

 委員長が絶賛していた理由も分かるな。

 決して、僕はそっち系ではないけど。


「ふっふ~ん、リンペーくん。レンのこの笑顔に騙されたらダメよ」

「・・・・・・へ?」

「コイツは、世に言う、『ヒモ』なのよ」

「ヒモ? ヒモって・・・・・・」

「そう、最低のクズ人間なの」

「ちょっと、ユリ。あまり大きな声で言わないでよ。俺だって、メンツっていうものがあるんだからさ。 あれ、リンペーくん、大丈夫?」

「え、いや、少し驚いただけです」


 この爽やかな甘い声で僕に心配そうな顔を向ける、好青年がヒモ?

 いや、そんな訳があるはずない。

 だって、ヒモって言ったら、女の人を働かせて自分は何もせずにお金をみつがせる、男として最低でどうしようもないゲス人間のことだよね。

 こんな誠実そうで、学園の副会長もやってる人気者が、ヒモだなんて―――。

 その時、九十九先輩の方から着信が。


「あ、マミさんからだ。ごめん、少し席外すね。アケミさんのこと誤魔化さないとな・・・・・・」

「・・・・・・」


 九十九先輩は生徒会室から出て行ってしまった。

 うん。外見と性格が正反対なんて、よくあることさ。

 ・・・・・・残念だけど。


「まあまあ、リンペーくん。そう落ち込まないでよ。そう言う人もいるわよ。・・・・・・人間だもの」

「あの、安くなっちゃうので、その言葉使わないでくれます?」

「ま、レンのことは置いておいてっ!」


 会長は勢いよく立ち上がる。


「今度は、お待ちかねっ。コトネちゃんの紹介よっ!」

「こ、コトネちゃん?」


 会長はソファから、サイバーチックなデスクの方へとバレーのステップを踏みながら行ってしまう。

 それから、小柄の少女の背後に立つ。

 結構、大胆な動きをしているのに、小柄な少女は画面に釘付けのままで、会長に気付いてないように見える。

 それから会長は両手を自分の顔の横まで持ってくると、指を関節が何個もあるんじゃないかと思うほどのスピードとしなやかさで動かし始める。

 この人、何する気だ?


「ふふふっ、コ~ト~ネ~ちゃんっ!」

「―――っ!」


 襲いかかる会長の手は、少女の控えめな胸のあたりを見事に捕らえていた。

 何度も何度も少女のブレザーが、会長の手の形にしわが着いたり消えたりしている。

 そのあまりに激しい動きに、ふと被っていたフードがずり落ちる。

 会長に負けないくらいの綺麗な長い黒髪、前髪は昔話のお姫様のように切り揃えられている。メガネからは愛くるしい大きな瞳が覗いていた。

 ヘッドホンをしているので、多分そのせいで会長に気づけなかったのかもしれない。

 会長はヘッドホンをずらし、その小さな耳に息を吹きかける。


「―――んっ・・・・・・」


 少女は甘い声を漏らし、頬は桜色にほんのりと染める。

 こ、これはっ。

 僕は目のやり場に困ってしまう。

 そういえば、会長は美少女好きだった。

 確か僕と同じ一年生でスカウトされた子がいるって、言ってたな。

 もしや、この外見だけでスカウトされたのか。

 そして、偶然にもその少女と目が合ってしまう。

 見る見るうちに耳まで真っ赤にした少女は、唇を震えさせる。

 これは、まずいな。


「や・・・・・・やめて・・・・・・っ!」


 その羞恥の限界を突破した叫びは、少女の後頭部に宿り、会長の鼻を見事にクリティカルヒット。

 会長は何が起こったか分からないまま、綺麗にノックダウン。

 少女のKO勝ちだった。


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