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New Age  朱猫編  作者: えんじゅ
本編です。
4/10

まずはパーティーを組みましょう。そのいち

 MMORPG《New(ニュー) Age(エイジ)》が公式サービスを開始して、もうすぐ半年が経とうとしていた。

 既に三度の大型アップデート《レギオン》《コロセウム》《アセンション》の実装が試行され、ユーザー数の月間増加数は、オンラインゲーム業界の頂を独走している《Chronicle(クロニクル) Contact(コンタクト)》に迫る勢いを見せている。

 しかし、なぜ《New Age》が順風満帆な成長を遂げているのか、実のところ、誰にも納得できる解答が導き出せていなかった。様々な専門家の分析をまとめても、不可解さが散見されるのみだ。

 代表する不可解さを並べてみると、

 まず初めに、仮想軍属疑似戦争(レギオン・システム)と呼称されし第一の大型アップデート《レギオン》の撤退。僅か一ヶ月で削除(アインストール)という末路を迎えた。当然、これには反感や批難による悪評が追随した。

 次点に宝星具(ブレイズ)がある。多人数参加型のオンラインゲームにおける一視同仁の姿勢を嘲笑うかのような均衡崩壊要素(バランスブレイカー)。《New Age》の世界にて、それぞれ一つずつしか存在しない稀少具の総称だ。入手難易度は実力よりも確立に偏っており、また要求されるレベル、ステータス値、職など一切の制約も掛けられておらず、入手さえしてしまえば誰でも装備可能だった。しかも、ユーザー側から指摘されるまで、宝星具の存在自体が非公表だったのである。

 宝星具の一件により、《New Age》の運営会社はユーザーからの信頼を大きく失った筈なのだ。凋落の一途を辿っても、なんら不思議ではなかった。

 だが、当時から現在にかけて些か売上高が衰えただけで、まだまだ健在だと言えた。

 目立つ不満点はまだある。無慈悲なPK(プレイヤーキラー)行為も度々、批難の的となっていた。新規参加者が降り立つ統治国Nanokeria(ナノケリア)でも、卑劣な初心者狩りが横行している現状だ。元々、PK行為を限定化する為に不可侵領域(アストロロジカルエリア)と呼ばれるスキル使用不可、魔物侵入不可の定められたエリアが設けられていたが、それはつまり、個人やサーバーなどではなく、座標にのみ設定されたものだ。

 MMORPGにて、クエストなどの過程上、一定の場所に留まり続ける事はほぼ不可能だ。ゲーム自体の主旨と噛み合っていない。なぜそのような救済処置を取ったのか? やはり、ユーザーの指弾は集中した。

 ちぐはぐな対処や実装が、ユーザーの不信感を煽っていたのは事実だ。とはいえ、まだサービス開始から半年。目新しさが、悪評より勝っていたとすれば、それほど邪推すべきものでもないのかもしれない。

   

━━朱猫編。


 サービス開始と同時に《New Age》を始め、すぐに《意識混濁性消失障害(ロストボディ)》としてゲームの世界に囚われた少年は、後に《朱猫の魔術師》という通り名で知れ渡る。

 が、その少年も《レギオン》にて絶命した。今は残滓を復元させただけの、《New Age》の歪みを修正する《葬儀人》の一端を担うだけの、現実から忘れ去られたまま命を散らせてしまった不憫な少年を模造しただけの。

 ただのデータに過ぎない《朱猫の魔術師》が、後に本編にて、空気主人公とその仲間達に出会うまでの空白を埋める物語。

 時系列は2011年9月。舞台は円錐階層都市Bnburio(バンブリオ)



 Bnburio(バンブリオ)の都市は錐状に聳え立つ岩山を削る事で築き上げられており、斜面は幾つかの階層を成していた。

 宿泊所や各種装備の専門店、工房、紋様屋など冒険者達にとって欠かせないコンテンツが密集する第三層の雑踏に紛れるようにして、《朱猫の魔術師》ことマオの姿はあった。

 (クラス)魔術師(エレメント)》にしては珍しい身動きを重視した軽装。黒く地味な色合いをした服装の節々に朱色の魔術紋様が縫われている。ショートパンツにより、ふとももから足首まで白い柔肌を露出していた。

 燦々と日の光を浴びたオレンジのように鮮やかな頭髪はさらりと耳元を覆う程度まで伸びており、頭部からはぴょこんと愛らしい黒い猫耳(課金衣装(アバター・コスチューム))が突出している。

 全体的に丸く整った顔立ちは、幼さと中性さを強く主張しており、燃え盛る紅蓮の大きな瞳は、いかにも幻想(ファンタジー)らしい魅力を秘めていた。

  

「ふぅん、それで? 僕は《ハンプティ・ダンプティ》の姫様と接触すればいいの?」


 《朱猫の魔術師》が詠唱以外で紡ぐ声は、声変りを終えたのかすら定かでない、より性別を曖昧にさせる可愛らしいものだった。

 マオは右手に持っていた棒付き《林檎飴(キャンディーアップル)》を口に突っ込む。それこそ林檎のようにほんのりと赤みを帯びている頬がぷくっと丸く膨らんだ。

 会話の相手は、《New Age》にて、歪みを(ただ)す管理者のような役目に準ずる《葬儀人》仲間の一人。バイオレット・フィズだ。

 ただし、フィズの姿はマオの近くには見当たらない。マオも視線を前方に固定したまま端然と歩いている。

 異世界転移に等しい《意識混濁性消失障害(ロストボディ)》同士の交信(チャット)手段は限られていた。詳細は割愛するが、四六時中、どこでも誰とでもは不可能だった。

 ただし《葬儀人》は、各自、ゲームのプログラム自体に干渉、改竄を施せる《強制書換(ブレイカー)》なる仕様外のスキルが与えられていた。だが《強制書換》は便利なようで酷く難解なスキルでもあり、複雑な干渉を起こすには、それなりの読解力が求められた。フィズは《レギオン》以降《強制書換》の研究に没頭しており、独自の通話機能の開発もまた、彼が成し得た偉業の一つであった。


『あぁ。メリーベル・アン・ラズベリーの噂の真偽を確かめて貰いたい』


 遠く、隣国Nanokeria(ナノケリア)の辺境に住処を構えるフィズの声量は、離れ過ぎている所為か、細々としていて聞き取り辛かった。


「ほふひほりで?」

 僕一人で? マオは飴をしゃぶったまま尋ねた。

『友人の雨頃(あまころ)仔百(こもも)に協力を頼んである』

 マオは頬張っていた飴を引っ張り出して、溜息交じりに呟いた。

「えぇー。僕、あの子は苦手だよ」

『……ならアークを送るか?』

「うーん。もっと勘弁。ねぇ、リリアは?」

『彼女はいまWelzNeil(ウェルズニール)だ』

「そっかぁ、ざんねん」

 マオとしては《葬儀人》の中でリリアが最も取っ付き易い相手だった。同時期に復元された故の仲間意識だろうか? ただ、曖昧だが、マオはもっと近い温情のようなものをリリアに対して抱いていた。


『とにかく、雨頃仔百と合流しろ。彼女は《風の通り道》で屋店を開いている筈だ。今日中に合流しておけ。いいな?』

「はーい」


「《ハンプティ・ダンプティ》かぁ……」


 実装順としては三番目に該当し、MMORPG《New Age》としては最も新しい国であるBnburio(バンブリオ)。となれば当然、周囲の魔物のレベルは高くクエストの難易度も高い。故に拠点(ホーム)を敷くギルドの面子は、まだ、戦闘などを重視する過剰稼働者(ヘビーユーザー)が大多数を占めていた。

 《ハンプティ・ダンプティ》はBnburio(バンブリオ)が実装されし後に結成された小規模ギルドだ。だが、知名度で言えば上位五番以内には数えられるだろう。

 主な原因は、最強の矛と盾に称されるギルフォート兄弟と、そんな双子を従えるお姫様ことメリーベル・アン・ラズベリーだ。

 そのメリーベル・アン・ラズベリーについて、数日前から奇妙な噂が囁かれていた。

 

「天使がその身に舞い降りた……ね」


 天使が宿り、ただ一つのスキルを授かったのだとするとんでも話を拾ったフィズは、マオにその真偽を確かめてこいと命じたのだ。

 マオは、《葬儀人》らしく、本来の仕様を逸脱した存在を見過ごせないとするフィズの姿勢は立派だと思う。


「けど、やっぱり納得できないよね。僕達だってさ」


 《葬儀人》の責務を誇るつもりなんてないし、準ずる気概も低いマオ。それこそ朱猫の二つ名通り、気まぐれで裏切ることに後ろめたさなんて感じないだろうと自覚していた。

 

「それにしても《お転婆菓子職人》と一緒に行動しなきゃいけないのかー。はぁ」


 一度だけ面識のある雨頃仔百の素行を思い出すと、マオは憂鬱に成らざる得なかった。

 基本、誰にでも愛想よく、人懐っこく接するマオが、会うのを躊躇う相手。


 当時の雨頃仔百は、まだギルド無所属であり、お姫様とも面識がなかった。




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