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人間って伝説の魔物らしい  作者: PAPA
~第一章~人間、頑張る
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第九話:絶望の中にも希望があると信じたい

結構、書き直している内に最初と随分、違った話になってしまった。


世の中うまくいかないもんだ……。


「てめえらしいな……。オレの後輩をやってくれたのは」


寂れた空き地。

一人の中学生ぐらいの少年が棒きれを持った人相の悪い四人の高校生たちに囲まれていた。

離れたところにはその高校生たちの後輩らしき中学生もいる。


「…………」


「何とか言えや、コラァ!!」


少年は気だるそうに欠伸をする。


……中坊の喧嘩に高校生が出てくるかね、フツー。

大人げないにも程がある。

しかも四人。

プライドというものは彼らにはないらしい。


「ケッ、スカしやがって。何が『無敵』の神崎だ。中坊のくせに調子こきやがって」


そう思うんなら一人で来いよと少年は思う。


まったく……。

どいつもこいつもムカつくヤロウばっかりだ。


少年は心の中で吐き捨てる。


「俺たちに目をつけられたことを後悔すんだな……!」


あんまりな三下の台詞に思わず少年はため息をついた。


「どーでもいい御託述べてねーで早く来いよ」


少年は指先で軽くコイコイと挑発してみる。


「クッ、こんのガキ――!!」


一人の男が棒きれを振りかぶって、少年に襲いかかる。


―――が、少年は全く動じることはなかった。


流れるような動作で振り下ろされる棒きれをかわし、その顔面に素早く拳を突き入れる。


「カッ…!?」


続けざまに髪の毛を掴み、引っ張ると同時に顔面に強烈な膝蹴りをぶちこんだ。


そのたった二発で男は地面に倒れる。


「何だ、高校生ってのもたいしたことねーな」


少年が心底、呆れたという風な素振りで言う。


「ナ、ナメてんじゃねーぞ!! このクソボケが―――!!」


それを見て、残った三人が一斉にかかってくる。










棒きれがカランと音を立てて地面に落ちる。


「ガハッ……!!」


最後の一人が膝から崩れ落ちた。


「話にならねーな」


少年は周囲を見渡し、倒れ伏す高校生たちを鼻で笑う。


「……さてと、んじゃ、このザケタ奴等を呼んだボケにも制裁を加えないとな」


「ひいっ!!」


少年は逃げようとする中学生を後ろから掴んで、引き倒す。


「ザケたことしてんじゃねーよ!!」


今までのイライラを一気に叩きつけるかのように、そのまま思いっきりその顔面を踏みつけた。

その一撃で中学生は大人しくなる。


「チッ、ホントどいつもこいつも一発でやられやがって。もっと根性ある奴はいねーのか?」


少年は愚痴りながら、中学生のポケットから財布を抜き取る。


「カーッ、ニ千円しか持ってねえよ、こいつ」


さらに財布から金を抜き取ると、その財布を投げ捨てた。


高校生(バカ)どもの方はどうかなー?」


さらに高校生たちの財布も確認して札を抜き取る。


「おうっ、さすが高校生。リッチだな」


少年は抜き取った札をポケットにしまい込んだ。


「ホント、ザコばっかりだけど、いい金ヅルにはなるな」


「またやってる……!!」


甲高い声。

少年が振り向くと、セーラー服を着た小柄な少女が少年に近寄ってきた。


少女の顔はどうしてか、うまい具合に陰ってよく見えなくなっている。


「お金返しなさいよ!」


「うるせえな、てめえにゃ、カンケーねーだろーが」


少年は声に凄みを効かせて、少女に答える。


「ねえ、いつまでこんなことを続けるつもりなの?」


少女は少年の凄みを効かせた声に全く怯むことなく、心配を含んだ声で少年に訊ねる。


少年は思わず心の中で舌打ちをする。


「高校生にまで喧嘩売って……。ナオがスゴく喧嘩強いのは知ってるけど…」


「喧嘩売ってきたのはあっちだ、ボケ。それに俺の強さ知ってんだったら、俺がこんなやつらにやられねーことぐらいわかんだろ」


「そういう問題じゃないの!!」


「じゃ、どういう問題だよ!」


少女の説教のような問答に少年は再びイライラし始める。

少女はそんな少年の様子に全く気づかず、問答を進めていく。


「自分が何て呼ばれてるのか知ってる? ………すんごい不名誉な通り名いっぱいなのよ。嫌じゃないの?」


「ハッ、そんなの周りが勝手に言ってるだけじゃねーか。それにあながち間違ってるわけでもねえし。何にせよ俺の知ったことじゃねーよ」


自嘲するように少年は薄く笑う。


「もういいだろ? いい子ちゃんはとっとと家に帰って勉強でもしてろ」


「……お願いだから、ちゃんと私の話を聞いてよ、ナオ―――」


「うるせえな!! いい加減にしろよ!! さっさと帰れって言ってんだよ、ボケが!!」


少年のイラついた怒鳴り声に少女はびくっとする。


「俺がどんな人間か、知ってんだろ? マジでさっさと帰らねえと後悔すんぞ?」


「……ナオはホントは優しい人だから大丈夫だよ」


「……勝手にほざいとけ」


呆れ果てた少年は寂れた空き地から去って行った。


「ナオ……!」


少女の呼び止める声に振り返ることなく。










そしてプツリと電源が落ちるかのように何もかもが一瞬で闇に包まれる。










「…………」


目を開けると、木造の天井が目に入った。

某新世紀の有名な台詞が思い浮かぶ。


「ここは……」


俺は積まれた干し草の上で寝ていた。


何か夢を見ていた気がするんだが……。

いったいどんな夢……。


「うっ……」


思わず口に手を当てる。


気分が悪い……。

吐きそうだ………。

ダメだ、どんな夢か思い出せない。

思い出そうとすればすれほど気分が悪くなっていくような気がする……。


「…………」


しばらく何もせず、じっとしていると吐き気は収まり、気分もだいぶ良くなってきた。


……どんな夢だったか気になるが、恐らく気分が悪くかるほどの悪夢だったんだろう。

無理に思い出すこともないか……。


それより確か俺はあのエルフ女と美青年(クソヤロウ)から逃げ切ったんだ。


その先で誰かにまたあの指輪を向けられて――――。


……ダメだ。

そこから先が思い出せない。


上半身を起こす。


「あ……」


自分の体を見下ろすと全身のいたるところに包帯らしきものが巻かれていた。


服も下着以外は全部脱がされて、干し草ベッドの脇に畳まれている。


誰かが手当てしてくれた………?


周りを見渡してみる。


どうやら木造の六畳くらいしかない小さな小屋のようだ。

窓は二つあり、そこから日の光が部屋の中に射し込んでいる。


家具は小さな机とその上にあるランプらしきものだけだ。


……てか、何で俺は手当てもされて干し草ベットなんかに寝かされてんだ?


誰かに助けられたってことか?


あのエルフ女の言葉を信じるんだとすれば、人間はこの世界じゃ魔物扱いのはずだ。

普通に考えて魔物を助ける物好きなんているわけがない。


現に俺は最後の時も誰かにあの地獄の指輪を向けられたじゃないか。

指輪を向けた奴が助けてくれるわけがないし。


俺に味方なんていないはずだ。


じゃあいったい誰が……。


「…………」


……じっとしていても仕方がないか。

とりあえず動いてみよう。

小屋の周囲ぐらい探っても(バチ)は当たらんだろう。


そう思い、足に力を入れる。


「ぐっ……!?」


激痛が走る。

そういえば足は折れてたんだっけ……?

迂闊だったな……。

こりゃ、当分は動けなさそうだ。


ならばスキルだ。

せめてスキルを使って、周りの安全くらい確認したい。


俺はスキルの警戒を発動させて、周囲の気配を探る。


「ふーむ……」


魔物の気配を感じることはなかった。

ここがどういう場所なのかわからないが、今のところは安全そうだ。


あ、そうだ。

しばらくステータスも見てなかったから、ついでに確認しておこう。


【名称】神崎直人

【Lv】11

【種族】人間

【職業】魔術師

【ユニークスキル】

人の知恵 掌の欲望 ???

【スキル】

魔力泉転移 魔力解放 生存本能(トランス) 翻訳能力 警戒


【スキルスロット】


【魔術】

火魔術Lv6 水魔術Lv1 土魔術Lv1 風魔術Lv1 雷魔術Lv1 光魔術Lv1 闇魔術Lv1

【補助】

超魔力 洞察



驚いたことにLvが上がっていた。

あの魔物集団を倒したからだろうか。

どういう理屈でLvが上がったのかは知らんが、とにもかくにも上がったならよしとしよう。

装備スキル欄が一つ増えて、五つになってる。

Lvが上がったからだろうか。

俺を助けてくれたスキルだろう、生存本能(トランス)、魔力解放、魔力泉転移もしっかりある。

まあ、でも今は必要ないだろう。

今の俺にとって、これらのスキルは切り札たりえるものだ。

ここぞという場面で装備すべきだろう。


【スキル】

洞察 警戒 超魔力 翻訳能力 火魔術Lv6



まあ、今はこれでいいだろう。

何気に火魔術もLvが上がっているようだ。


しかし、認めたくないが魔物である人間の俺を助けるなんて何がしたいんだろうか。

もし何か企んでいる悪い奴だったりしたら、今の状態じゃ逃げるどころか、まともに抗うことすら不可能だ。


いったい何でこんなことに?


……まあ、魔物の扱いの人間を助けるような奴なんだからいい奴であると信じたい。


でも、ただの親切ってのはありえないだろう。

何にせよ、何か目的があるに違いない。


……だからと言って、どうしようもないし、後は野となれ山となれだな。


「ふう………」


力を抜いて、干し草ベッドに倒れ込む。


「…………」


……あんまり気にしないようにしてたけど、よく考えると干し草ベッドってなんか扱い悪くねーか?


普通のベッドに寝かしてくれてもいいよな。


………ん?


あ……、そうか。

そりゃ、魔物をベッドに寝かせる奴なんていないか……。


「はあ――…」


思わずため息がでた。


……いや、こんなしょーもないことを考えていても仕方がない。


この世界で気になっていることを今の内に整理しておこう。


まずは奴等がつけていた指輪だ。


あの指輪はいったい何なんだろうか。

地獄のような痛みを与える魔物用拷問道具?


………奴等、嬉々として俺に向けてきやがったよな。

魔物を拷問すんのが、好きなのか?


……最悪だな、それ。


はっ!!

もしかして俺は変態拷問野郎に拉致されたのか!?


いやだー!!

まだ死にたくねー!!


……いやいや、マジで魔物拷問好きだったら何であの美青年(クソヤロウ)含めた魔物どもが言うこと聞いてるのかわかんねーじゃねえか。

もし仮にそうだとしても、あいつらだったら普通に反抗できると思う。

間違いなく。


ちゃんと真面目に考えよう。


そう思った刹那、外から足音が聞こえた。


「!!」


どうやらついに来たらしい。

十中八九、俺を治療してくれた奴だろう。

治療してくれた奴を警戒するってのも何だけど、どーも目的を疑わずにはいられない。


足音はとうとう小屋の前にたどり着き、その足音の主であろう人物が小屋の扉に手を掛けたのか、扉は軋めくような音を立てながら開き始めた。


「!!」


開け放たれた扉の前に立っていたのは煌めくような蒼い髪を持った青年だった。

手には美味しそうな果実が入った籠を持っている。


そして当然と言うがの如く、整った顔をした、所謂イケメンだった。


まるっきり二次元の世界の住人じゃねーか。

さすが異世界。


「……目が覚めたらしいな」


目の前の蒼髪イケメンが話しかけてきた。

言葉は分かる。

翻訳能力はしっかり機能してくれているようだ。


「………ああ」


「ほう! 本当に言葉を解するようだな。あのリングすらも破壊するのだからこれぐらいは当たり前か。さすが伝説の魔物、人間だ」


俺が返事をすると、感心したという表情で蒼髪イケメンが軽く拍手する。

俺が魔物と分かっているのにもかかわらず、どうやらまともに話をする意思はあるようだ。

どういう思惑があるのか知らんが、いきなり襲いかかってきた金髪エルフ女よりはマシか。

でも魔物って言う前に伝説って聞こえたのは気のせいだろうか。


……気のせいだな。

うん、きっとそうに違いない。

てか、そうであってほしい。


「……で、魔物である俺を助けてくれたあんたの目的はなんだ?」


「……話が早くて助かる」


やはり目的があったらしい。

さあ、いったい俺に何を求めるつもりなんだ。


蒼髪イケメンは手に持った籠を部屋にある小さな机に置くと、何かを秘めた目で俺を見据えた。


「単刀直入に言おう。………私と取引しないか?」




ようやくお話の本番。


こっから物語が始まります。


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