第五話:Lv1の魔物は蹴散らされる運命らしい
どうも、皆様お久し振りです。
更新遅れてすみませんでした。
リアルが異常に忙しかったもので……。
受験勉強とか試験勉強とか……。
これからも多々、更新が遅れることがあるかもしれませんが、見捨てないでやってくれると嬉しいです。
「うーっ、さぶっ」
現在の俺の格好はパンツ一丁である。
「でも焚き火があるだけマシかな」
俺は濡れた服を脱いで、焚き火を囲っていた。
濡れた服は近くの木の枝に干して、その下に俺が囲っている焚き火とは別に、もうひとつの焚き火を作って乾燥待ちである。
「しかし、やっぱり便利だなー、魔術というものは」
最初に発動した時の火はめっちゃしょぼくてへこんだけど、道具いらずのライターだと考えれば、すこぶる使い勝手がよかった。
火をつけるのはお手のものだし、魔力を流し続けている限り、水をかけられたり、どんな強風に煽られたりしても消えることなく灯り続けていられる。
しかも魔力が切れない限りはいつでも使い放題なので、実質的に燃料は無限だ。
それによくよく考えてみたらそもそも魔術が使えるというだけでもすごいことなのだ。
以前じゃ、絶対に考えられないことだ。
いくらなんでもいきなり遠距離無双は欲張りすぎたな。
まずは使えることに感謝しよう。
しかし、俺が覚えたこの火魔術はどうやらスキル扱いでLv制らしい。
Lvが上がっていけば魔術の威力も上がっていくのだろう。
さっき何度か火魔術を指パッチンでつけたり消したりして遊んでいると、急にライター程度だった火が目に見えて分かるぐらいに大きくなったのだ。
とは言うものの微々たるものだが。
ステータスを見てみるといつのまにか火魔術Lv1が火魔術Lv2に上がっていた。
意外と上がるの早いらしい。
遠距離無双の夢はそう遠くないかもしれない。
そして現在のステータスはこうである。
【名称】神崎直人
【Lv】1
【種族】人間
【職業】魔術使い
【ユニークスキル】
人の知恵 掌の欲望 ???
【スキル】
洞察 警戒 超魔力 火魔術Lv2
ついに無職から抜け出せた。
これでようやく俺も自立した一般人だ。
──冗談はこの辺で、ステータスについても新たな事が分かった。
ステータスを見て、分かるだろうが、俺の【スキル】欄から翻訳能力が消えている。
実はどうやら【スキル】は現時点では四つしか装備できないらしく、人と出会うまでは役に立たなさそうな翻訳能力をはずして、押し出しで欄外に消えていた火魔術を装備することにした。
もし仮に戦闘──戦うことが避けられない事態に陥った場合に、あんなショボい火でもないよりはマシだろう。
無論、そんなことにならないように最大限の努力はするが。
それともうひとつ、ステータスについて分かったことがある。
押し出しで欄外に消えていた火魔術や外した翻訳能力は決して消滅したわけではない。
むむっと念じて見ると、ステータスの下にもうひとつの欄が現れる。
【スキルスロット】
【魔術】
水魔術Lv1 土魔術Lv1 風魔術Lv1 雷魔術Lv1 光魔術Lv1 闇魔術Lv1
【言語】
翻訳能力
【スキルスロット】。
どうやら装備していないスキルはこのように分類されて、別に存在しているらしい。
ちなみに粗方、ありそうな魔術は全部可能か、試してみたおかげで今のような状態になった。
うーむ、この世界の魔術の常識がどういうものかは知らないが、これはだいぶ反則なんじゃないだろうか。
いくらLv1だろうと、こんだけ多彩な魔術が使えたらかなり凄いと思うが
一応これで魔術は全部だと思うが、もしかしたら他にもあるかもしれない。
まあ、今の状況じゃ何とも言えないか。
翻訳能力が分類されているのは【言語】だ。
まあ、そのまんま【言語】に関するスキルが分類されると思うが。
うーむ、それにしても【スキル】が四つしか装備できないとは。
増やす方法はあるのだろうか。
まあ、普通に考えるならLvアップか。
Lvアップすると言えば戦って経験値をためるのが定石ではあるが。
ふと、食べるとLvアップするアメみたいなのが、あればいいのにと詮無い事を考えてしまう。
世の中そんな甘い事はないか、と俺は焚き火に薪を足しながら、そう思った。
ギルタの森の入り口前。
本来であれば初々しい新人マスターが多く集っているはずの場所。
そこにはギルドの職員たちの他に、Aランクの魔物使いたちが集まっていた。
いずれも全員がこれから行われる作戦を聞いているのか、その顔は緊張で引き締まっている。
無理もない。
何故ならこれから相手にするのは前代未聞の魔力を持った正真正銘の化け物なのだから。
集まった者たちを見回してギルドマスターは髭を弄りながら、そう思った。
そんなギルドマスターに一人のエルフの職員が駆け寄る。
「ギルドマスター! 現時点で召集できるAランカーたちはこれで全員です! ギルド本部からの増援は明日の明朝に到着する予定だそうです!」
「うむ、ご苦労。しかし、本部がすぐに増援を送ること決定するとはのう。あまり期待はしていなかったのだが、やはりやつらも感じ取ったのじゃろうな……。あの膨大な魔力を」
そう言ってギルドマスターはギルタの森を見据える。
森は見る限りではいつもと何ら変わりない。
そんな森から放たれた、あの膨大な魔力。
やはりあの伝説の人間なのだろうか。
召集した者たちをざっと再び見回す。
ここにいる全員が揃いも揃ってかなりの実力者である。
召集したAランカーは言わずもがな、ここにいるギルドの職員ですらもフリーの時代ではそれなりに名の知れた魔物使いなのだ。
これだけのメンバーであれば、大抵の魔物は苦戦することなく対処できてしまうだろう。
しかし、相手は全く得体の知れないものなのだ。
最悪、全滅の危機すらありうるかもしれない。
後に来るであろうSランカーで魔王持ちの孫娘、エカテリーナとてその例外ではない。
やはり明日の増援を待つべきだろうか。
思考に耽りながらふと、地面に目を落とした。
「……?」
地に伸びるは日に当たって映っている自分の影。
その影が不自然な形をしている。
何故か影の、ちょうど胸にあたる部分が盛り上がっているのだ。
決して地面が盛り上がっているわけではない。
影だけが盛り上がっているのだ。
次の瞬間、影の盛り上がっていた部分から音もなく人型の何かが頭から垂直に上がってきた。
「おじーちゃん、久しぶりー」
その何かは孫娘のエカテリーナを抱えていた。
エカテリーナは抱えてくれていた〝それ〟にもういいよと合図を送って、地面に下ろしてもらった。
「リーナよ。もう少しまともな現れ方をしてくれかのう。あまり年寄りを吃驚させんでおくれ」
ギルドマスターは孫娘を愛称で呼びつつも、注意した。
ギルドマスターの影の中から現れるという登場の仕方をしたエカテリーナに場にいる者たちも呆気にとられる。
「あれがギルドマスターのお孫さんでSランクの……」
「隣にいるのが魔王か……」
「ていうか、普通に美人だ……」
エカテリーナはそんな周囲の様子を微塵も気にすることなくエルフ特有の長い耳をぴこぴこと動かし、口を尖らせた。
「だって普通の現れ方じゃ面白くないじゃん」
「相変わらずじゃのう」
どうも昔からこの孫娘は何をするにも面白いことが前提で、面白ければどこまでものめり込んでいくが、面白くなければ全く興味を示さない極端な子だった。
そして、たまたま孫娘の興味が魔物使いに向いてしまい、恐らく彼女的にすごく面白かったのだろう。
いつのまにかSランクで魔王持ちという世界で有数の魔物使いになってしまった。
そんな孫娘の隣にいる何か───魔王はよく見ると何故か燕尾服を着ていた。
「のう、エカテリーナよ。何でおぬしは魔王に服なんか着せとるんじゃ?」
「え? 格好よくない?」
いくら人型だからって普通は魔物に服なんか着せない。
「ぶー、何でみんなこの良さが分からないかなー。ルシファーは気に入っているよね」
魔王は静かにうなずいた。
魔王ルシファー。
それがエカテリーナの持つ魔王の名である。
魔王というのは始まりの魔物である人間から最初に派生した七種族の魔物で、スライム族、魔獣族、魔植物族、魔鉱族、悪魔族、不死族、竜族、その七つの各種族の頂点に君臨する魔物である。
かつてはこの地上に野生で存在したようだが、現在はエカテリーナを含めた五人のSランカーたちがそれぞれ所持しているスライム族、魔獣族、魔植物族、悪魔族、竜族以外はその存在を確認できていない。
つまり、今の時代になるまでに魔王たちは何らかの理由で滅びてしまったのだ。
ならば何故、彼等Sランカーたちは魔王を所持しているのか。
それはある特殊な方法で入手したからである。
いや、今となってはその方法でしか魔王を入手することはできないが──。
「おじーちゃん、なに難しい顔してるの?」
「ぬ?」
物思いに耽っていたギルドマスターがふと気づくと、エカテリーナが彼の顔を覗き込んでいた。
「心配しないでいいよ! 伝説の人間だろうが得体の知れない化け物だろうが、あたしとルシファーが負けることはないもん!」
ね、と同意を求めたエカテリーナに魔王ルシファーがまた静かに頷く。
孫娘のエカテリーナが持つ魔王ルシファーは悪魔族の魔王である。その容姿は悪魔らしく、頭には左右に大きな角が二本あり、顔は魔性の美を持った青年といった感じだ。そんな容姿でありながら、魔術を超越した魔法を自由自在に使いこなす恐るべき魔王だ。
並みの魔物なら敵対した瞬間に文字通り、消滅するだろう。
魔王を手に入れられる唯一の方法、それは魔物の進化である。
進化とは言うが、それはいわゆる先祖返りなのだ。
学者たちによると、今いる野生の魔物たちはかつて存在していた魔物たちが退化したものなのだそうだ。
かつての時代に比べて平和になったのが原因だと言われている。
そして何故か魔物のLvが上がると先祖返りするのだ。
これは魔力の質がLvが上がったことにより、よくなったからとか、かつての時代の闘争本能が呼び覚まされていくからなど様々な意見があるが、依然として分かっていない。
ただLvが上がれば上がるほど、育てれば育てるほど強力な先祖に返っていく。
これだけは確かである。
ならばその先祖返りの終着点はどこか?
それが魔王なのだ。
各種族ごとに始まりは違っても行き着く先は必ず、その種族の魔王である。
だが魔物を魔王にまで育てあげようとすると、気の遠くなるような手間と時間と金がかかるのだ。
さらに魔王に先祖返りする条件は未だに詳しく分かっておらず、ただLv上げればいいというものでもないらしい。
故に運も絡んでくるため魔王を手にできるのはSランカーのような本当にほんの一握りなのだ。
エカテリーナですら四歳の時に初めて手にした悪魔族の最弱魔物である目玉オバケから魔王ルシファーに育てあげるまで、実に22年の歳月をかけたのだ。
これでもまだ早いほうで、Sランカーの中には魔王に育て上げるまで50年かかった者もいる。
魔王を手に入れるのは並大抵のことではないのだ。
その分、見返りは大きく、いずれの魔王も絶大な強さを誇るが。
「ねー、おじーちゃん。行かないの?」
「む?」
また物思いに耽っていたギルドマスターは孫娘の声で覚醒する。
「ギルタの森だよー。もう行ってもいいでしょ?」
「むう、本部からの増援を待ってから行こうと思っておるのだが」
「えー、大丈夫だよー。今いる人たちでも十分いけるよ」
「しかしのう…、リーナも感じたじゃろう? あの非常識なあの魔力を」
「あー、あの程度の魔力なんて魔界に行ったらゴロゴロいるよー」
「おぬしはいったいどんな場所にいるんじゃ……」
「ふふふ、おかげで今のルシファーはLv794なんだ」
はっきり言ってむちゃくちゃである。
その場にいる全員が聞いたことのないようなLvに息を飲んだ。
ギルドマスターは考えを纏め直す。
Lv794。
これだけのLvならば、どんな不測の事態にも対応できるだろう。
増援を待ちたいのが本音だが、時間がないのもまた事実。
「うむ。ならば偵察に行ってもらうことにしようかのう」
「偵察? 戦っちゃ駄目なの?」
エカテリーナはいかにも不服といった感じの表情をする。
「余裕を持って勝てそうならかまわんが、できることなら様子見だけにしてほしいのう」
「ふーん、分かった」
「よし、おい誰か!!」
ギルドマスターは職員を呼ぶと、その職員にAランカーの中から選りすぐりの魔物使いを9人選んでエカテリーナを中心とした偵察隊を編成した。
「エカテリーナ、無理だけはしてはならんぞ。お前たちもな」
ギルドマスターの言葉に偵察隊のメンバーの各々が頷く。
「あ、そうだ。おじーちゃん」
エカテリーナが何かを思い出したかのように手を打った。
「何だ?」
「ありえないと思うけど、もし人間だったら捕まえちゃってもいいんだよね?」
エカテリーナの第二の爆弾発言に再び周囲が息を飲む。
「……もしも、万が一可能ならかまわんが、何故じゃ?」
「伝説らしいし、倒すのも勿体ないかなーと思って」
何とも暢気な理由だった。
ギルドマスターは大きな溜息をついた。
「もう何も言わんよ」
孫娘の暢気な言葉にギルドマスターは呆れざるをえなかった。
しかし、当のエカテリーナはまるで気にせず、そこはかとなく期待に満ちた表情でギルタの森を見つめていた。
「未知に挑むっていうのはいつになっても飽きないね。じゃあ行ってきまーす」
エカテリーナは魔王ルシファーと偵察隊のAランカーを伴って、軽いノリでギルタの森に向かっていった。
「!?」
ようやく乾いた服を着ようとしていた俺は突然、よく分からない悪寒に襲われた。
思わず周囲を見回す。
「なーんか嫌な予感がすんな」
スキルの効果というわけではない。
完全にただの勘である。
それでも不安にならずにはいられなかった。
「今日こそ出口を見つけて、さっさとこの森を出るとするか」
俺は【スキル】警戒を発動させて、足早に泉から立ち去った。
ほとんど説明回。
次回でようやく話が動き始めます。
久しぶりに書いたから少しおかしいところがあるかもしれません。
誤字脱字があれば感想にて報告してくれると嬉しいです。