第二十七話:命拾いしたようです
新章突入的な。
「ねえ、どうして?」
顔が黒く塗りつぶされたセーラー服の少女が問いかけてくる。
「どうして喧嘩が好きなの? そんなに人と傷つけ合うのが楽しいの?」
楽しい。
楽しいに決まっている。
あのやりあっている時の高揚感。
他の煩わしい事を全て忘れていられるあの瞬間がたまらなく好きなのだ。
だから邪魔するな。
「やめてよ、そんなこと。もっと楽しい事は他にもあるよ」
うるさい。
どっか行け。
どっか行かないなら──。
「殴るの? 私を? 」
少女が黒い顔を近づけてくる。
「あなたが? 私を? 殴って? しまうの?」
やめろ。
顔を近づけるな。
俺に近づくな。
「私を? 女の子を殴る? 殴る?? 殴る???」
うるさい。
だまれ。
やめろ。
「あなたが、そんな風だから、私は私は私は」
「やめろっ!!!」
声を出すと共に飛び起きる。
心臓が早鐘を打っていた。
「夢、か?」
どんな夢かうまく思い出せないが、何かとても嫌なモノだった気がする。
しかし、前にこんな事があった様な。
そこでふと気づいた。
自分が草や花などの柔らかい植物を重ねて作られたベッドの様な場所にいる事を。
「ここは……?」
辺りを見回す。
そこは洞窟の中だった。
洞窟と言っても奥深い場所ではない様で、出入り口なる場所がここからでも見え、極めつけに洞窟の天井の大部分がくりぬかれており、陽の光が洞窟内部を照らしていた。
洞窟の茶色い岩壁には苔やキノコが所々生えており、また陽が照らし出している場所には色とりどりの花と植物が生えており、それらの匂いが鼻を刺激した。
一応、まだ奥に続く道はある様で、それは曲がり角の先で続いており、ここからでは死角になって、奥の様子は窺えなかった。
探索するべく立ち上がろうとしたが、身体に痛みが走り、動きが止められる。
そこで初めて自分の身体を見た。
酷いモノだった。
全身の殆どの皮膚が黒く炭化しており、人が見たら焼死体と勘違いしてしまうのではないかと思える程だった。
黒一色の中に唯一存在する下着の色が眩しい。
そしてその身体の状態を見て、思い出した。
自分が最後の賭けでドラゴンに自爆特攻した事を。
今こうして生きているという事はあの自爆で何とかなったのだろう。
一応ステータスも確認しておく。
【名称】神崎直人
【Lv】29
【種族】人間
【ジョブ】魔術拳闘士
【ユニークスキル】
人の知恵 掌の欲望
【スキル】
生存本能 魔力解放 超魔力 翻訳能力 火魔術Lv26 自爆
火魔術のレベルがまた1だけだが上がっていた。
とりあえず傷を少しでも早く癒す為に自爆を治癒促進に付け替える。
【スキル】
生存本能 魔力解放 超魔力 翻訳能力 火魔術Lv26 治癒促進
自爆した事で服も消し飛んだかと思ったが、下着が無事な辺り、服も恐らく無事だろう。
誰が脱がしたのかは分からないが。
しかし、あれだけ暴れ倒したのに、傷一つ付かないとか何でこんな頑丈なんだ、俺の着てる服。
そういえばあの美青年のマスターのエルフ女がこの服は魔力耐性が高いとか何とか言っていた気がする。
恐らくそれが頑丈な理由なんだろうが、何でただのジーパンとTシャツがそんな魔力耐性があるのか分からない。
考えても答えは出ない。
とりあえず今は置いておこう。
で、生き残れたのはいいが、結局アルベルトの下へ戻るという約束は果たせなかった。
せめて無事でいてくれるといいのだが。
無愛想で色々と言われたが、それでも悪い奴じゃないのは行動を共にして分かっていたから、死なれるのは寝覚めが悪い。
顔に触れてみる。
ざらつきの中に少しぬるついた感触とビリビリとした痛み。
やはり顔も同じ様な状態らしい。
それとどうやら何か塗られている様だった。
恐らく塗り薬の様なモノだろう。
こういう処置やベッドの様な場所に寝かされていた所から考えて、誰かが俺を助けてくれたのは間違いないのだろうが、あの状況で助けてくれる奴を全く思いつかない。
一体誰なんだろうか。
〔あー! お兄ちゃん目が覚めたんだ!〕
明るく幼い声が耳に入った。
声がした方と見ると、奥へ続く曲がり角から、あの風竜の子が顔を覗かせていた。
拙い足取りでこちらにとてとてと近づいてくる。
「えーと、何でガキンチョがここに? もしかしてお前が助けてくれたのか?」
〔うーん、僕が助けたと言うより、ママに助けさせたと言うか。後、僕の名前はガキンチョじゃないよ。ちゃんとウインドミニゴンって名前があるんだから!〕
風竜の子──ウインドミニゴンが小さい翼を広げて誇らし気に胸を張る。
ミニゴンとは言うものの、既に俺の身の丈ぐらいの大きさがある。
流石はドラゴンの子供と言うべきか。
そして名前はともかく母親に助けさせたとはどういう事なのか。
「ナオト!」
〔あんちゃん!〕
聞き覚えのある声が聞こえた。
声の方を見ると、曲がり角にアルベルトがアイアンが立っていた。
「アルベルトに、アイアン!? どうしてここに!?」
一人と一匹は俺の疑問に答えず、駆け寄って来る。
「3日も眠りこけて、この阿呆め。後で追いつくなんて大口叩きながらこの体たらくとは、阿呆の極みめ……!」
俺に近寄るなりいきなり罵倒を始めるアルベルト。
何でこいつは涙目になりながら俺の事、罵倒してんだ。
心配するなら素直にしろよ。
〔あんちゃん、めっちゃ心配しててんで。いくら待っても来うへんし、凄い地震と火柱が起こって、流石に近くまで様子見に行ったら、あの竜があんちゃん連れてこうとしてるのが見えて。もうホンマご主人もあんちゃんの事心ぱ〕
そこまで言った所でアイアンを光る粒子と化して、リングの中へ戻されていた。
そんなに心配してた事を隠したいのか。
「えーと、どういう事になってんだ?」
「つまり、まとめると、こういう事か」
ミニが俺を命の恩人と親竜のストームドラゴンに訴えようとした瞬間、風の結界へ閉じ込められる。
その後、俺が決死の自爆特攻でストームドラゴンが傷を負い、それと我が子が無事だった安堵により、結界が一時的に解除される。
そこでミニが初めて俺が命の恩人である事を親竜に伝えた。
親竜は大慌て。
我が子の恩人を嬲った挙句、殺しかけてしまい、完全に恩を仇で返す形になってしまっていたのだから。
我が子に怒られながら俺に応急手当を施し、安静にさせて治療すべく、急いで我が子と俺を連れて巣に戻ろうとした。
そこに地上に脱出し、突如起こった地震と巨大な火柱を見て、俺を心配し、あの広間の真上、親竜が巣に侵入する際にでき、俺の自爆により更に巨大になった穴へと様子を見に来たアルベルト達が現れた。
アルベルトは親竜が俺を連れ去ろうとしている所を見て、思わず声を上げてしまい、親竜達に気づかれてしまう。
親竜はアルベルトの姿を認めた瞬間、容赦なく消し飛ばそうとしたが、ミニに静止されて、アルベルト達が俺と一緒にいた者達である事を伝えられた。
ミニは俺の知り合いと離れ離れにするのは可哀想と親竜にアルベルト達も連れていく事をお願いした。
親竜は最初はかなり渋っていたが、自身の落ち度が招いた状況である事とミニのお願いに根負けし、アルベルト達も強制的に連れて、巣に戻った。
以上が事の次第らしい。
〔ごめんね。ママがお兄ちゃんを虐めてちゃって。ママってば僕の事すぐに風に閉じ込めて、話なんて聞こうともしなかったから〕
「ああ、いや、最終的に助かったからいいけど……」
ミニから見たら、あの戦いは虐めにしか見えなかったらしい。
必死で戦ってた身からしたら、正直、ショックだ。
ボロボロだったとは言え、全力を出し、最後は死力まで尽くして戦ったんだけどな。
俺はまだまだ弱い。
「本当に驚いたんだからな……! 貴様がストームドラゴンに連れて行かれる様を見た時は。子供の餌にでもされてしまうのかと思ってしまったんだぞ!」
「ああ、悪かった。俺が悪かったよ。だから、泣くなよ」
「泣いてる訳ないだろう! 貴様の目は節穴か!」
いやもう完全に泣いてただろ。
百歩譲って涙目なだけだとしても、今ちょっと涙流れてたし。
「とにかく貴様はしばらく絶対安静だ! まともに動ける様になるまで五日間くらいはかかるからな!」
アルベルトはそうまくし立てた後、追加の薬を取って来ると言い、曲がり角の向こうへ消えていった。
〔あのヒト、本当にお兄ちゃんの事、心配してたんだよ〕
「知ってるさ。じゃなきゃ俺の事であんな涙目になったりしないだろ。それと改めてお前の母ちゃん、止めてくれてありがとな。話の通りじゃ、ミニが止めてくれなきゃそのまま殺されてただろうし」
〔ううん。こっちこそ本当にごめんね。本当ならお兄ちゃんにあんな酷い事せずに済んだのに〕
ミニは顔を項垂れさせて、落ち込む。
命の恩人が死ぬ一歩手前までいったのだから、無理もない落ち込み様だ。
「そうだな。だったら詫びに一つ答えてもらっていいか?」
〔全然いいよ! 一つと言わず何個でも!〕
まるで犬の様に尻尾を振って、つぶらな瞳を輝かせながらミニは質問を待つ。
竜と言えど子供というのは愛くるしい。
「えーと、気になってたんだが、ミニ、お前さっき生まれたばかりだよな。何でそんな流暢に意思を伝えられるんだ?」
俺は翻訳能力の効果に対して一つの仮説を思いついていた。
今まで俺が出会ってきた魔物はその言葉が翻訳できる奴とできない奴等がいた。
その違いを見分けようとする中で一つの指針を見つける事ができた。
それは強さだ。
俺が出会って来た中で強い奴でその言葉を翻訳できなかった奴はいなかった。
あの美青年しかり。リザードキングしかり。ストームドラゴンしかり。
強い奴の言葉は皆、例外なく翻訳能力が働いた。
逆に弱い奴は必ずしも翻訳できる訳じゃないのはリザードマン達の存在が証明していた。
つまり、強い奴は翻訳出来て当然なのだから、弱い奴の中に翻訳できる奴の共通点とできない奴の違いを見つける事が出来れば、翻訳能力の効果対象を解明する事ができるのではないかと考えた次第である。
そして目の前には生まれたばかりで弱いはずの竜の子がいて、その言葉が翻訳できている。
という訳で翻訳できている理由を探るべく、ミニに問いかけたのだ。
〔うーん、それママにも言われたけど、僕自身よく分からないんだ。でも確かにママが言うには、僕は普通の子より自我の成熟が凄く早いらしいよ〕
なるほど。
普通じゃないって事はやはり本来は翻訳できるはずではなかったと考えるべきか。
なら、その普通じゃない原因は何なのか。
思い当たる節はある。
ミニが生まれる前の卵はあのリザードキングの魔術紋章の効果に保護されて、魔力泉の上に浮かばされていた。
あんな濃厚な魔力の漂う場所にずっと置かれていたら、影響されて通常から変質してしまってもおかしくない。
しかし、魔力泉が影響を及ぼしたという確たる証拠がない以上、これは推論の域を出ない。
どのみちこれだけでは翻訳能力の解明はできないし、今はここまでにしておこう。
〔あんまり答えになってなくてごめんね。ところで、お兄ちゃん。さっきから僕の事をミニ、ミニって。ちゃんと名前のウインドミニゴンって呼んでよー〕
さっきまで嬉しそうにしていたのに、今度は眉尻を下げ、拗ねた表情になるミニ。
子供なだけに喜怒哀楽の移り変わりが激しい。
「いや、そう言われても長いんだよ、お前の名前。いちいち呼びかける度にウインドミニゴンなんて言うの面倒臭いだろ」
〔ひどい! 僕の名前を面倒臭いだなんて〕
ミニのつぶらな瞳が潤んで、目尻に涙が溜まり始める。
身体を震わし、口から呻く様な声が漏れてきた。
完全に泣き出す十秒前である。
「あー、わかった! じゃあこうしよう。今のお前は俺より弱い。だからお前が俺より強くなったらちゃんと名前で呼んでやる」
〔本当?〕
「ああ、約束だ」
今にも泣き出しそうだったミニの顔がやる気に満ちた表情に変わっていく。
〔本当に約束だからね、お兄ちゃん! すぐにママみたいに強い竜になってみせるんだから。後で破っちゃダメだよ!〕
ふんふんと鼻息荒く、強くなる事に対して意気込むミニ。
もっと駄々こねるかと思っていたが、案外すんなり提案を受け入れてくれた。
妙に聞き分けがよくて子供らしくないが、これも自我の成熟が早いとかいう影響だろうか。
「ところで、ミニ。お前の母ちゃん、一体何処にいるんだ? さっきから全然姿を現さないんだが」
〔ママ? ママなら食べ物とお薬になる草とか取りに行ってるよ。多分、もうすぐ戻ってくると思うけど〕
直後、洞窟を照らす陽の光に巨大な影が差した。
ブオンブオンと翼をはためかせ、洞窟を風圧で満たしながら、ストームドラゴンが洞窟の天井の穴から降りた来た。
そしてずしんと重量感ある音を響かせながら、洞窟内に着地した。
その横に風に運ばれてきた、果実や何かしらの魔物の肉や植物などがどさどさと落ちてきて積み上がる。
〔ママ!〕
ミニがとてとてと親竜であるストームドラゴンに駆け寄る。
そしてその腹にぐりぐりと頭を擦りつけた。
〔ただいま、愛しい私の子〕
親竜は慈愛に満ちた雰囲気で、それを受け止めた。
そしてそのまま受け止めた状態でこちらに顔を向けた。
〔大変申し訳ございませんでした。我が子を救っていただきながら、私の勘違いでその恩を仇で返す様な真似をしてしまい、言葉もございません〕
親竜は長い首を下ろし、顔を地面につけて、瞳を閉じ、深々と謝罪してきた。
「あー、いや、最後には助けてもらったし、もう大丈夫だから、そんなへりくだらなくても……」
戦った時とはあまりにも違う態度に面食らう。
あの時の苛烈さが嘘の様に思える。
〔いえ、本来でしたら、けじめとして、この命を差し上げなけらばならない程の事です。ですが、私は今この子を残して、先に逝く訳にはいきません。この子を育て上げた後、必ずこの命を差し上げに参りますので、今だけはどうか見逃していただけないでしょうか〕
真剣な表情でとんでもない事を述べてきた。
「見逃すも何もホントに大丈夫だから。命とかいらないから。助けてもらっただけで十分だから」
発言の内容が重すぎる。
本気で言っているのが伝わってくる分、質が悪い。
確かに濡れ衣であそこまでされたのはムカつくが、だからと言って殺したい程憎んでいる訳じゃない。
仮に殺すとしても、そんな無抵抗の奴を殺すんじゃ、気分が悪い。
というか第一、子の前で親を殺すなんて言える訳ないだろ。
〔ですが、それではけじめがつきません〕
「わかった。じゃああんたが子供を育てあげた後、俺ともう一度戦ってくれ。もちろん全力で」
とは言え、やられっぱなしというのが癪なのも事実。
しかし、今のままでは勝ち目がないから、間をおいて再戦する事を望んだ。
親竜は俺にけじめとして、やられたがっているが、俺はそういうのは認めない。
殺るなら真正面からやり合った末に勝って殺る。
〔そんな。それではお詫びの意味がまるでない〕
「やられた俺がそれでいいって言ってんだ。被害者の言う事が聞けないってのか?」
〔そういう訳では……〕
何か言おうとする親竜を被害者の立場で黙らせる。
これ以上ごねられる前にここを落とし所にしておくのが吉だろう。
〔お兄ちゃん、ママ。あんまり怖い話しないでよ……〕
何より子の目がある以上、この話をこれ以上続ける訳にはいかない。
「ガキの目の前なんだ。物騒な話はこれで終わりだ」
親竜は不安そうなミニを舌で舐めて、落ち着かせると、再びこちらに頭を下げた。
〔寛大な心遣い、感謝致します〕
「あー、もういいよそういうの。むずがゆくて落ち着かないんだよ」
誰かにここまで真摯に感謝される事はまずないので、どうにもむずがゆい。
大体何でボコボコにされた末に感謝されてんだ俺は。
それにちょっと長く話した所為か、身体の痛みが強くなってきた。
本来なら死んでてもおかしくなかったはずの身体だ。
流石にこれ以上は安静にしないとダメか。
「追加の薬を持ってきたぞ。ちゃんと安静にしてたか!」
ちょうど曲がり角の奥から手に薬瓶を抱えたアルベルトが戻ってきた。
瞬間、目の前の親竜から凄まじい圧が溢れ出す。
殺意。
間違いなくそれだと分かってしまう程、親竜はアルベルトに対して殺気立っていた
〔ママ!〕
ミニの咎める様な声。
洞窟を満たしていた圧が泡の様に弾けて消える。
〔ああ、申し訳ございません。ヒトを見ると、つい……〕
さっきの雰囲気は雲散霧消し、元の親竜が申し訳なさそうに項垂れていた。
アルベルトは圧がなくなると同時にこちらに駆け寄ってきた。
「ほら、じっとしてろ。薬を塗るぞ」
まるで何事もなかったかの様に、平然と多様な種類の薬を目の前に広げて並べ始めた。
「おい、あんなの受けて平気なのかよ」
アルベルトは並べた塗り薬の一つを掌に一掬いする。
「何度か似た様な経験があるからな。大丈夫さ」
手に乗せた薬を丁寧に俺の身体に塗り込む。
ひんやりとした感覚とピリピリとした痛みが同時に現れる。
「イテテ……。にしても尋常じゃない様子だったぞ。何もしてないんだよな?」
「私はな。でも仕方ないモノだからな、アレは。私達ヒトが犯した事の報い、受けるべき罰だ」
何だか要領の得ない事を言った後、アルベルトはそれきり黙って黙々と俺の身体に薬を塗り込み続けていた。
少し気まずい時間が続いた。
シルク自由都市、南門────。
門番は今日も異常なく、人の往来を捌いていた。
今もまたその仕事の最中だった。
「おや、あの時のAランカーの方だね。どうだい、目ぼしい情報は得られたかい?」
目の前にいるのは犬の獣人の親子だ。
傍らに一つ目巨人の魔物を立たせて、都市を出る準備万端。
後は門番である自身に許可をもらうだけという状態だった。
「ああ、一つね。お陰で息子に良い初めての魔物を与えてあげられそうだ」
「ねえ、父さん! 早く早く!」
息子が父親の腕を引っ張って、先へ行こうとする。
「こらこら、今からそんなに慌ててどうする。ここからでもまだ数日はかかるんだから。そう焦るな」
「だって!」
目の前で繰り広げられる微笑ましい親子のやり取りに門番は笑みが零れた。
「はい、証明終了。異常なし。お待たせしました。大きなお世話かもしれませんが、お気を付けて」
証明によるステータス調査は滞りなく終わり、親子を門へ通す。
「いえいえ。では行ってきます」
「じゃーねー! 門番のおじさん!」
親子は門の外へと消えてゆく。
「こら。だからそう焦るな」
「えー、だって、竜が僕を待ってるんだよ!」
楽しそうな会話を門番の耳に残して。




