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人間って伝説の魔物らしい  作者: PAPA
~第一章~人間、頑張る
22/34

第二十二話:リザードマン侮ってました

ついに大量の気配が固まっている場所の付近に到着した。

しかし、周囲を見ても鬱蒼と生い茂った草木と深い森が広がっているだけ。

奴らの巣らしきものは見当たらなかった。


「おかしいな。気配の感じ方からしてはこの辺りなんだが」


「もっと詳しく位置を特定できないのか?」


「そうだな。やってみる」


警戒の範囲を狭めて、より強く、正確に気配の位置を感知する。

すると、先程まで固まって感じていた気配が一つ一つの気配とよりはっきり別れて感じ取れるようになっていく。


「これは……」


「どうした」


「下だ。奴ら全員地下に居やがる」


〔地下やて?〕


周囲に気配はなく、気配があるのは何と今、立っている地面の下からだった。


「結構深いぞ、これ」


そして底の方に一番大きな気配があるのが、感じ取れた。


「なるほど、地下か。なら何処かに入り口があるはずだな。一番地上に近い気配はどこにいる?」


「え、それは……、ちょうどあのでかい木の下だな」


俺が指差した方向に周りの木々と比べて数段、幹も太く、枝葉も長く多い巨木だった。

その巨木のちょうど根元の少し下に二つの気配があった。


「ふむ、なるほどな」


アルベルトは頷きながら、巨木に近づく。


「私が両手を回しても半分も届かないくらいの幹の太さ。これだけの太さなら奴ら2匹ぐらいは丸ごと入りそうだな」


巨木の幹に触れながら、その周りを回る。

そして、唐突に止まった。


「ここだな。この辺りだけ周りの模様と少し違う。ちょうどヒト一人ぐらい通れる開き戸になっているようだな。恐らくこの中は空洞になってて、地下へ降りる場所があるんだろう」


「え、マジか。もうわかったのかよ。っていうか、よくわかったな」


「地下は地上から降りて向かう場所だ。だったら一番地上に近いところにいる奴らの周辺に入口があると考えるのが妥当だ。なら、その周辺の怪しいところを調べれば、すぐにわかる」


そう言って、こちらを振り返る。


「覚悟はいいか? ここからは果てしない連戦になるぞ」


「当然だろ。全員ぶっ倒す」


とはいえ、念のため最後にスキルを確認しておこう。


【名称】神崎直人

【Lv】20

【種族】人間

【ジョブ】魔術拳闘士

【ユニークスキル】

人の知恵 (てのひら)の欲望

【スキル】

警戒 拳闘術Lv17 俊足 翻訳能力 火魔術Lv20


気配遮断は俊足に変えておいた。

俊足は速さに補正をかけてくれるスキルだ。

真正面から戦闘するのであれば、やはり少しでも速い方が攻撃するにも回避するにもいいだろう。


〔わしもあんちゃんの武具として、精一杯やらせてもらうで!〕


「なら、よし。ここからは私も全力で貴様をサポートする。だから、この先私が()()と言った言葉は聞き逃すなよ」


「うん? それはどういう」


「いいから死にたくないなら聞いておけ」


アルベルトのそのあまりの気迫に気圧される。

どうやら本気も本気で言っているようだ。

いまいち意図が掴みづらいが……,


「つまり、何だ。助言してやるから聞いておけってことか?」


「まあ、そのようなものだ。少なくとも貴様の損になるようなことは絶対にない」


はっきりと断言した。

助言に相当な自信があるらしい。


「そこまで言うならわかったよ。だけど、言うからには役に立つ助言をくれよ?」


「その辺りのことは心配しなくてもいい。きっちり貴様をサポートしてやる」


そう言ってアルベルトは木の窪みに手を掛ける。


「恐らく開けた瞬間、すぐ下にいる二匹が反応して襲ってくるはずだ。気を付けろ」


「おう、任せとけ!」


〔準備万端! 硬度のノリも絶好調や。バッチコイやで!〕


俺もアイアンも、これから始まる戦闘への準備と覚悟はバッチリだ。


「よし。じゃあ行くぞ!」


そしてついにアルベルトが両手を使って、思いきり開き戸を押し開けた。

そしてすぐさまその場から離れる。

間髪いれずにすぐに下にいた二つの気配が地上へ上がってきた。

そして、開かれた巨木の内から、ついに飛び出してくる。


「シャアッ!」


リザードファイターとソードリザードマンの二匹。

同時に俺に飛びかかってきた。

少し前の俺なら、その速さのあまり防御がやっとだったが、今は違う。

俺は左右から飛びかかってくる二匹の頭をそれぞれ片手で掴む。


「オラァ!」


そして二匹の頭を思いっきりぶつけ合わせた。

肉がひしゃげる生々しい音。

間髪いれずに火魔術を発動させて、二匹の体を炎に包み、そのまま投げ飛ばす。

二匹の体は轟々と燃えながら、力なく地面の上に落ちた。


「よし」


「一蹴だな。まあ、これなら少しは安心できるな」


「もう奴ら程度に苦戦するつもりはねえよ」


「だからと言って油断するなよ」


「もちろん。いつだって本気だ」


〔ほら、奴らの巣に殴りこみや! さっさと行くで!〕


アイアンに急かされて、巨木の中に入る。

どうやら根元の部分だけがくり抜かれて空洞になっているようで、頭のすぐ上に天井がくるぐらいの小さな空間しかなかった。

壁にはまるで魔法陣のような紋章が刻まれており、かなり目立っている。

そしてそのすぐ下、地面に奴らの巣の入口だろう穴があった。

穴の中に明かりはなく、底が見えないぐらいに暗かった。

穴には昇降用だろう、草で編まれたロープと木材で作られた縄梯子が降ろされていた。


「これは、まさか魔術紋章か」


アルベルトが巨木内部の壁に刻まれている紋章を見て、厄介そうな顔をする。


「魔術紋章ってスキル図鑑に書いてあったアレか? 魔術スキルから派生するっていうスキル」


「ああ、それだ。対象に紋章を刻むことにより、術者が生きている限り、半永久的に対象に魔術作用をもたらせられるスキルだ。だが、これを得られるのは熟練した魔術スキルを持つ魔物だけだ。ただのリザードマンが持てるはずがないから、恐らく(キング)だろう」


そこまで言うと黙って、紋章を眺め始めた。

そして数秒後、口を開く。


「水と土の魔術の複合紋章か。またなかなかに高度な技術を持っている。なるほど、これでこの空洞の補強と巨木の成長維持を行っているようだな」


刻まれた紋章をあっさりと解析するアルベルト。

詳しくは知らないが、そんなあっさり解析できるものだとは思えなかったのだが。


「随分、あっさりと分かったな。魔術紋章ってそんなに簡単に解析できるものなのか?」


「そんなことはないが、私にもそれなりにこういう系統の学があるからな。まあ今回は複合紋章とはいえ、効果が直接的でわかりやすかったっていうこともある」


解析を終えたアルベルトは地下へと続く穴を見下ろす。


「とりあえず敵は少なくとも水と土の魔術を使う魔物なのは間違いないが、魔術紋章まで使いこなすとなると、想像以上に強敵だぞ」


「上等。どんな手使ってこようが全部粉砕してやるだけだ」


そんな答えを返したら、アルベルトに思いきり溜息をつかれた。


「無茶だけはしてくれるなよ」


さっきから心配ばっかりだなこいつ。

虎穴に入らずんば虎子を得ずとは言うが、先に危機を感じたら引き返せというて約束をしてる以上、無茶をするつもりはない。

約束は守らねばならないのだから。


「約束は守るさ、必ずな。じゃあ先行くぜ」


〔慎重に行くんやで、あんちゃん〕


アルベルトにそう言って、俺は縄梯子に手を掛けて、穴の中へ降りて行った。

穴の中は外の光のおかげで辛うじて薄暗く、人一人がが十分に降りれるぐらいの空間はあったが、逆にその程度の広さしかなかった。

明かり代わりに火魔術で左の手の甲に火を灯しながら慎重に降りて行く。

降り始めて約一分ほど経った頃に下の方にほんのりとした明かりが見え始めた。

警戒による感知で気配がその辺りに固まっているのは分かっている。

恐らく出待ちされているのだろう。


「下で俺たちを待ってる奴らが沢山いるな。人気者は辛いぜ、まったく」


〔言うてる場合かい!で、 どうすんねや〕


「そうだな。景気づけに一発ぶちかますか」








巣が襲撃された。

襲撃者を迎撃せよ。

それが今、天井に空いた地上へ続く穴がある広間、そこから垂れる縄梯子の前に集まっている二十数匹のリザードマンたちに下された命令だった。

唐突なその命令に彼らは何の疑問も抱かない。

何故なら命令を出したのは彼らの絶対的存在。

彼らの上に立つべくして生まれてきた存在からの命令だからだ。

故にその命令に疑問を挟む余地などないし、そもそも疑問に思うほどの知恵も彼らにはなかった。

ただ出された命令をこなすのみ。

リザードマンたちは、その命令に従い、迎撃するため襲撃者が梯子を降りてくるのを今か今かと待ち受けていた。


唐突に穴から何かが降ってきた。

いや、何かではない。

それは命令で伝えられた姿をしていた敵だった。

黒髪黒目の敵は地面に着地する。

瞬時に先頭にいた5匹のリザードマンたちが敵に飛びかかった。

先手必勝、敵が態勢を整える前に倒す。

目の前の敵になす術はないはずだった。


しかし、次の瞬間、敵の全身から燃え盛る火炎が吹き出した。

飛びかかったリザードマンたちはもろにその火炎を浴びて、地面をのたうち回る破目になった。

敵はその隙を見逃さなかった。

倒れた一匹の足を掴むと、そのまま片手で大きく振り上げて倒れているもう一匹に思いきり叩きつける。

轟音と共に地面がヘコみ、亀裂が走る。

まるでゼリー如く二匹の体は爆散した。

その光景に我に返った周囲のリザードマンが襲いかかろうとしたが、敵に蹴り飛ばされて、吹っ飛んできた火達磨のリザードマンに怯まされる。

その間に敵は残った二匹の内の一匹の頭を踏み砕き、もう一匹の足を両手で掴み、その身体を炎で包んだ。

そのまま燃え盛るリザードマンを引きずりながら敵はリザードマンの群れに突進した。







残りは15匹。

俺は燃え続けるリザードマンを群れに向かって横薙ぎに振り回す。

群れの先頭にいた3匹が当たり、そのまま薙ぎ払い、吹き飛ばす。

3匹は仲良く固まって壁に激突した。


〔あんちゃん、後ろ!〕


背後から斬りかかって来たソードリザードマンを裏拳で殴り飛ばした後、その3匹に向かって燃え盛るリザードマンを全力で投げ飛ばす。

砲弾のような速度で飛んでいった燃えるリザードマンは痛みで悶絶している3匹にそのまま激突し、その衝撃で三匹仲良く身体を潰された。


残り12匹。

次の敵、と動こうとした瞬間、6匹のリザードマンに囲まれた。

その囲いの外側にさらにもう6匹の包囲。

二重包囲のようだ。

包囲から鋭い刃のような殺意が突き刺してくる。

さすがにこれ以上は調子に乗らせてくれないみたいだ。


〔あんちゃん、どうするって、うわっ!?〕


だが、止まるわけにはいかない。

止まってしまえば、数の差で押し潰される。

故に動き続ける。

左右から突進してきたソードリザードマンが振り下ろした剣を前に出ることで避ける。

髪の毛の端が数本、切られ散っていく。

当然、目の前にいるソードリザードマンはこちらを迎撃しようとし、剣を俺の急所、心臓目掛けて突き出してきた。

迷いのない一突き。

しかし、そんなことは百も承知で読めている。

俺は身体を捻ってそれをかわす。

そのままそのソードリザードマンの頭を掴んで、そこを支点にして勢いのまま倒立回転する。

その回転の勢いで、着地と同時に支点に頭を掴んだリザードマンを目の前の包囲している内の一匹のリザードマンに投げつけた。

二匹は仲良く吹き飛んでいく。

その弾みでソードリザードマンの手から空中に放り出された剣を前に出てキャッチし、背後で魔殺息(マギ・ブレス)を放とうと口を開けていたリザードマンの、まさにその口の中へ剣を投げて、突き立てた。

あえなく口から血を噴き出して、地に伏す。

残り11匹。

包囲を破られてなす術なく仲間がやられたことに激昂したのか、こちらに立っている9匹全員で殺到してくるリザードマンたちに向けて、今しがた剣を突き立てて殺したリザードマンの死体を蹴り飛ばす。

ひと固まりとなってこちらに殺到していたことが災いして、死体に当たった先頭から連なるようにして全員が地面に押し倒される。


「喧嘩ってのはやけくそになっちまえば、おしまいだ」


その倒れた集団に向かって両手をかざし、火魔術を全力で発動させる。

両手からゴウゴウと燃え盛る業火が吹き出す。

リザードマンたちの痛烈な鳴き声が響き渡る。

が、御構い無しに俺は焼き続けた。

逃げ出そうと、もがくリザードマンがいれば、先にそいつを念入りに焼いた。

やがて、何の声もしなくなった。


黒い塊と化したものに背を向け、吹き飛んだ残りの二匹の方へ向かった。

残りの二匹はあのまま壁に激突したようで、一匹は首がありえない方へ曲がっており、既に絶命していた。

もう一匹は足の骨がやられており、這いつくばったままこちらを睨み続けるだけだった。

そのリザードマンは低く、呻くように唸った。


「……悪いが、何を言ってるのかわからないな」


俺はそのリザードマンの頭を踏み砕いた。

警戒のスキルでこの辺りには、もう気配が存在しないことは確認している。

これで第一陣を全滅させたのは確かだった。





〔圧倒的やな……。大抵、素手と魔術で倒しとるし、わし必要あるか?〕


アイアンが呟くように言う。


「何言ってんだ。必要に決まってるだろ。防具の有る無しは大きいし、背後の敵の存在を伝えてくれていたのも助かったし」


〔せやろか。せやったらええんやけど〕


「終わった、みたいだな」


背後から声がかかる。

振り返るとアルベルトが思いきり顔を顰めてこちらを見ていた。


「せめて顔の血ぐらい拭いたらどうだ?」


そう言って、布を投げてよこしてきた。

そうしてようやく自分が全身リザードマンたちの返り血にまみれていることに気づいた。


「すまん」


渡された布で顔を拭う。

着ている服もジーンズも血で赤く染まって気持ち悪かったが、今は我慢するしかないだろう。

改めて見ると広間はリザードマンの死骸で血みどろの惨状だった。

何匹かは焼き殺したが、他は撲殺したり剣で突き殺したりしたので、かなり酷いことになっている。

本来なら死骸は全て焼いているところだが、これからの戦いに備えて魔力は温存しておきたいので、残念ながらできない。

超魔力があるとは言え、何があるかわからない以上、仕方がない。

しかし、前と比べて血や臓物などグロテスクなものに対して少し耐性がつきすぎてしまった気がする。

襲ってくるリザードマン全てを撲殺していたら、最初こそ炸裂する臓物を見るたびに吐き気を覚えていたが、今では気持ち悪いと思うだけで済んでしまっている。

慣れとは怖いものだ。


「妙だな」


アルベルトが怪訝な表情で呟いた。


「何がだ?」


「奴らの行動が温すぎる。巣を攻められているというのに、入口に数十体程度の雑兵を配置するだけで、その他の兵の動きがない。本来なら、こうしてゆったり話す余裕があるはずなどないと思っていたが」


「罠でも張って、それに合わせて兵を待ち伏せさせているんしゃないのか?」


「罠か……。火の魔術紋章すら扱うとなると、それを利用した罠ぐらいありそうではあるが」


アルベルトは未だ腑に落ちないという顔をしながら今いる広間を光り照らす、周囲の壁に刻まれた火の魔術紋章を見た後、その広間から繋がる三つの通路を見据えた。

通路は広間を照らしている火の魔術紋章と同じものがその壁に刻まれており、通路を照らしている。

通路の奥は曲がり道になっており、奥までは見通すことができなかった。

さて、どの道を進もうかと思い悩んでいると、警戒の範囲の外から気配が入ってきた。

それも後からどんどん入って増えていく。

どうやらこの3つの通路の先からやってきているようだ。


「おい、奴ら動きだしたようだぞ。通路の先から、大量にこっちに向かってきてる」


「そうか。ならここで迎え撃つぞ。それと、ここより後ろには行かせるな。退路を塞がれるとまず……い……」


「ん、どうした?」


アルベルトの言葉が不自然に途切れる。

何事かと思い、後ろを振り向いた。


地上へ繋がる縄梯子の近くにリザードマンがいた。


「は? なんで……!」


警戒に感知では背後に気配なんてなかった。

いったいどこから現れたんだ、あいつ!


「馬鹿な!? 気配遮断だと! ただのリザードマンがそんなスキル……!」


アルベルトが虫眼鏡の形をした魔具(ツール)識察(サーチ)でそのリザードマンを見ていた。

しまった、気配遮断か!

それなら警戒で感知できないはずだ。

つまり、奴は俺たちが気配遮断で気づかないのをいい事に悠々と俺たちの後から入ってきたのか。


リザードマンは縄梯子のすぐそばの壁に触れた。

すると触れた壁に魔術紋章が浮かび上がってきた。

まずい、途轍もなく嫌な予感がする!


「っ、()()に止めろ!」


アルベルトが言うが早いか、俺は全速力でリザードマンへと駆け出した。

リザードマンが触れている魔術紋章が輝き始める。

まずい、間に合わない!


「アイアン、投げるぞ!」


〔おう、やったれ!〕


アイアンが瞬時に籠手から球体へと変化する。

それを走る勢いのままリザードマンの顔面目掛けて、力の限り投げた。

魔術紋章が一際大きく輝くと同時に投げた球体のアイアンがリザードマンの頭に命中する。

頭が潰れたリザードマンが地面に崩れ落ちる。

魔術紋章は既に壁から跡形もなく消え去っていた。

しかし、消えたのはそれだけではなかった。


「ちくしょう! やられた!」


見上げた先にあるはずの、地上へ繋がる穴が綺麗さっぱりなくなっていた。

地面にはちぎれた縄梯子が無造作に落ちていた。


「……まさか、まさか最初からここまでずっと気配遮断で後をつけてきていたのか。(キング)に、退路を塞ぐように指示されて。奴は私たちがここに来ることを見越していたのか」


そう言ったアルベルトの声は焦りで震えていた。

冗談じゃない。

今までの全てが(あいつ)の掌の上だって言うなら……。


「まさかこの広間にいた微妙な数のリザードマンたちは俺たちを誘い込む釣り餌だったのか」


冷や汗が一滴、頬を伝って地面に落ちる。

まずい。

この状況は非常にまずい。

退路を断たれたということは今の俺たちは袋の鼠同然。

俺が(やつ)ならここで詰みにかかる。

それはすなわち……,。

俺は後ろを振り向いた。


広間から伸びる3つの通路。

その全ての通路の先に空間を埋め尽くさんばかりの鱗、鱗、鱗。

そしてギラギラと殺意と敵意に満ちた大量の目。

手に持つのは剣に杖に棍棒に槍に籠手など、多種多様な武器。

もはや警戒では気配が多すぎて正確な数が把握できないほどの大群。

圧倒的大群のリザードマンたちがこちらに殺到してくるのが見えた。


ふと気づくと足が元あった位置から少し後ろに下がっていた。

その事実に口角が無意識に上がっていく。

何て事だ。

この俺がいくら大群とは言え、今更あんな雑魚たちに気圧されるとは───


───すごく、いい。いいじゃないか。


(やつ)との戦いの前の軽い前哨戦程度にしか考えてなかったが、統率されたリザードマンがこれほどとは。

もはや退路はない。

勝つか、死ぬか。

二つに一つ。


「上等だ」


体の中でふつふつと熱く煮えたぎってくるモノを強く感じ、獰猛な笑みが零れた。


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