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第二話:泉の水っておいしいと思うんだ

さっそくお気に入り登録や評価、ありがとうございます。


日も傾きかかった頃。


「あーっ、うまっ!」


只今、俺は森の中で見つけた泉で水をがぶ飲み中である。

俺は普通の一般人だ。

歩き回れば喉も渇くというもの。

限界まで喉が渇いた俺にとって泉は天国に見えたね。

マジで。


いやー、しかし、さっきからずっと森を歩き回ってるけど、一向に抜け出せる気配がない。

泉があるんだから川もあるはずだし、川沿いに行けば集落ぐらいあるだろと思ってたけど、それ以前にこの泉、ここに流れ込むはずの川がない。


この泉は森の中でぽつんと存在していたのだ。

いったいどっから水湧いてんだ?

異世界補正というものなのか、これは。


まあ、何かこの泉の水飲んだら不思議と喉の渇きも空腹も満たされた上に、何だか力まで湧いてきた気がする。

凄い不思議泉だな。


こんな凄い泉なら魔物たちも飲み来そうだけど……。


むむっと念じてスキル、警戒を発動させて、辺りを見回す。


この警戒というスキルは森の中を歩き回っている内に獲得したスキルだ。

やたら周りを警戒して進んでいたから獲得できたんだろうか。


このスキルを獲得した時は驚いた。

何せいきなり、


『【スキル】警戒を獲得しました』


とかいう無機質な声が頭に響いたんだからな。

思わずびびって奇声をあげて、転んでしまった。


今の誰だよと思いつつも、ステータスを確認してみたらスキルが増えてたんだからさらに驚いた。


ステータスの次にアナウンスとかマジでまるっきりRPGだな。


まあ、それはさておき、この警戒というスキル、非常に便利なものだった。

発動すると、周りの生物の気配が感覚的に分かり、魔物に出会うことを避けることが出来るようになったのだ。

さらに朧気ながらに魔物の強さも分かるらしく、比較的に気配が大きいスライムを見つけて、ステータスを見てみると、Lv6もあったのだ。

そんな色々と便利なスキルを俺は今、再び発動させた。


「うーん………」


魔物の強さどころか、気配すら感じなかった。

これは、はっきり言っておかしい。

今までどんな場所でも最低一、二匹の魔物の気配を感じることができたのだ。

それがこの泉の周りに限ってないということは。


「魔物がこの泉を避けている?」


俺は再び泉を見る。

どこから水が湧いているのか分からないが、それを除けば別段、普通の泉と変わらない。

水は透き通っていて、そこまで深くないのか、底がはっきりと見える。

綺麗な泉だ。

何かしらの危険があるようにはとても思えない。


気がつくと森は茜色に染まっていた。

どうやらもう夕方らしい。

やばいぜ俺。

このままでは間違いなく野宿だ。

こんな魔物だらけの森の中で野宿とか死んだも同然じゃねえか!

まだ死にたくない!


早くこの森抜けなきゃ!

でもこれからどんどん暗くなるし、いくら警戒があると言っても暗闇の中で森の中を移動するのも自殺行為だし!

何より体力が持つかどうか。


いったいどうすりゃーいいんだ!?


待てよ。

魔物たちはこの泉を避けてるかもしれないんだよな。

もしかしたらこの泉の周りが一番、安全かもしれない。

でもこれはあくまで推測だし。


「あーっ、もうっ!!」


うじうじすんのはもうやめだ!

もう俺腹を括ったもんね!

ここで野宿してやるからな!

覚悟しろよ、魔物!










茜色に染まった森が、日が沈み始めるのと同じく、徐々にその色を淡くし始めだした頃。


一人の青年が一匹の狼型の魔物と共に森の中を駆けていた。


「ひぃ……はぁ……!!」


彼はモンスターギルドの職員である。

魔物の映視眼を従えるもう一人の職員と共にこのギルタの森に調査に来ていたのだ。

調査とは魔物の生態系や環境の変化がないかの確認で、それにより新種の魔物がいないか調べるものだ。

とは言うものの、このギルタの森は駆け出しの魔物使いがお世話になる、いわば初心者たちの訓練所みたいなもので、ここに生息する魔物たちは大人しくて、Lvの低い弱小魔物ばかりなのだ。

間違っても新種が誕生するような場所ではなかった。


しかし、今日、映視眼の職員が通信晶で興奮した様子でこちらに連絡してきた。

何でもあの超古代に滅びた伝説の魔物、人間を発見したらしい。

あほかと思ったが、その職員は発見した場所に魔力石を置いたことと、その人間が向かっていった方角を捲し立てると、ギルドに報告するからそれまでに人間を見つけて監視してほしいと言って、通信を切ってしまった。


魔力石とはその名の通り、魔力を発する石で、主にマーカーとして使われている。

魔力石が発する魔力を辿ることでその置かれた場所にたどり着けるようになっている。

職員はこれでその場所にマークしたのだ。


まあ、彼はこれっぽっちも信じていなかったのだが、頼み事を無下にするのもどうかと思ったので、彼はその職員に言った通りの場所へ彼の相棒の魔物である狼型の魔物、ウルフハンターと共に魔力石の魔力を辿り、向かうことにした。


職員が言っていた場所に辿り着き、マーカーの魔力石を拾い上げる。

そして人間が向かったらしい方角を向く。

すると奇妙な足跡を見つけた。

どうやら二足歩行の魔物らしい。

そこで彼ははっとする。


この森に二足歩行の魔物なんていたか───?


この森に生息するのはシンプルスライムとトラビットだけだ。

いずれも二足歩行の魔物ではない。

それにこの足跡から推測する歩き方はどこか自分達、エルフと似ている。

ならば、他の魔物使いかもしれないと思うが、それはありえない。

調査中は一般の魔物使いたちは一切立ち入り禁止になるからだ。

故に二足歩行をする生物は自分とあの職員しかいない。

しかし、この足跡と自分とあの職員が履いているギルドから支給された職員制服の靴の足跡は全く違う。


つまり、この足跡はこの森の誰でもないのだ。


「………本当に、人間か……?」


彼はごくりと唾を飲み込む。

超古代に滅びたとされる人間は自分達、エルフに一番近い姿をしていたらしい。

もし伝承通りにならこの足跡は………。


「ウルフハンター、気配遮断」


相棒にスキル、気配遮断を使わせて、自分達の気配を無くす。

もし仮に本当に伝承通りの人間だったら、このスキルを使ったところで無意味かもしれない。

それでもないよりはマシだろう。

彼はその足跡を辿って行った。


そうしてしばらく足跡を辿っていくと、ある場所に向かっているのが分かった。


「魔力泉……!」


魔力泉。

それは魔物の生息する場所であれば、どんな環境だろうと必ず存在している魔力の泉。

泉の底にある魔力の根源となる魔力珠によって泉が魔力を帯びているのだ。

大抵の魔物は他の魔物や生物を捕食することで生きている。

ならば、そのヒエラルキーの最下層に位置する魔物たちはいったいどうやって生きているのか。

そこで出てくるのがこの魔力泉である。

魔力泉によって産み出された魔力水がその土地の大地に染み渡っていき、それによりその土地の大地は魔力を帯びる。

最下層の魔物たちはその大地から栄養となる魔力を得て、生きているのだ。

しかし、そんな魔力泉に近づく魔物はいない。

何故ならその魔力泉の周囲は魔力泉から発される高密度で濃厚な魔力に満ちているからだ。

そんなところに近づけば魔力中毒になって、死にかねない。

魔物たちにとって大事な魔力も摂取し過ぎれば、毒にしかならないのだ。


それは人間も例外でないはずだと思うが……。


魔力泉のある場所に近づけば近づくほど、相棒のウルフハンターの息が荒くなっていく。

濃厚な魔力にあてられつつあるのだ。

それでも足跡はこの先に続いている。

彼は意を決して進むことにした。




そしてついに魔力泉が見えてきた。

隣のウルフハンターは息も絶え絶えで、もはや限界である。

これ以上は近づけないだろう。

彼は再び魔力泉の周囲を見る。


誰かが、そのほとりに立っていた。

その姿を確認して驚愕する。

全体的にエルフと似ているが、長くない耳。

そして黒髪黒目。

まさしく伝承に伝わる人間そのものだった。


素早く茂みに隠れる。


「はぁ………はぁ……」


本当に人間だろうか。

未だに信じられない。


気を取り直して茂みからこっそり観察する。

魔力中毒になっているかと思ったが、そのような素振りは今のところ、ない。

あれだけ魔力泉に近づいて、大丈夫なのか?

そう思っていたら、その人間はおもむろに泉に口をつけて、その魔力水を飲み始めた。


「!!!??」


目の前の光景が信じられなかった。

魔力泉から産み出された天然の魔力水はそれ一滴だけでどんな魔物だろうと魔力中毒にし、狂わせて死に至らす。

それをあの人間はがぶ飲みしているのだ。


人間は飲み終えたのか唐突に顔をあげて、口を拭うと、


「あーっ、うまっ!」


一瞬、思考が止まった。

言語を操るのは伝承通りだからそこまで驚くことではない。

むしろその言い放った言葉に驚愕した。


うまいだと?

触れただけで狂って即死する魔力水がうまいだと?


途端、その人間から強烈な魔力を感じた。

吸収したのだ。

魔力の塊である魔力水を。


気がつけば彼はその場から駆け出していた。

恐怖したのだ。

あの人間に。

正真正銘の化け物に。


間違いない。

あの化け物は……。

超古代に滅びた伝説の魔物、人間だ────!!!


彼はただひたすらに森の出口を目指して走った。



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