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人間って伝説の魔物らしい  作者: PAPA
~第一章~人間、頑張る
19/34

第十九話:まだ見ぬ竜に期待しよう

ひっそりこっそり更新。

未だにお気に入り登録してくれている人に感謝と敬意を。

『【スキル】気配遮断を入手しました』


このギリギリの危機に天の助けとも思えるようなアナウンスに、俺は心の底から感謝した。

落ち着いて、そのスキルを発動させる。

しかし、足音は止まらない。

スキルの効果でこちらの気配を見失ったのか、先ほどよりも迷うような感じだが、それでも確実にこちらへ近づいてくる。

ダメか……!?

そう思った瞬間、突然、近くの茂みがガサガサと揺れた。

それに反応したのか、足音が止まる。


「む」


「どうしたの?」


犬耳の二人の声。

奴らの意識が茂みに逸れたのがわかった。

土壇場でのスキル獲得に続き、この幸運。

しかし、意識が逸れたはいいが、ここまで近づかれると逃げようがない。

もはや奴らとの距離は俺が隠れている木を挟んで数m程度だ。

今、動けば絶対に見つかる。

どうする……!?


「シャッ!」


俺が思考を巡らせていると、揺れていた茂みから二体のリザードファイターが飛び出し、四本腕の巨人へと飛びかかった。

しめた!

奴らがリザードファイターと戦っているうちに逃げる。

そう思い、動こうとした瞬間。

肉を押しつぶしたような鈍い轟音と共に、二つの真っ赤な何かが物凄い勢いで視界を通り過ぎ、森の奥へ吹っ飛んでいった。

それに続く木々の破砕音。

呆然とするしかなかった。


「なんだ、またリザードマンだったか。うんざりするぐらいいるな。〝(キング)〟狩りは終わったと聞いたんだが」


「ねー父さん、早く行こうよ」


「わかったわかった。そんなに焦らなくても自由都市は逃げやしないさ。キラージャイアント、これ以上リザードマンに絡まれないうちに自由都市へ向かおう」


その声と共に、二人と一匹の足音は遠ざかっていった。


詰めていた息を大きく吐き出す。

助かった。

リザードファイターたちが瞬殺された瞬間、どうしようかと思ったが、結果的にこっちの気配を奴らだと勘違いしてくれてよかった。

それと気配遮断、このスキルを入手できてよかった。

まさか、あのタイミングで入手できるとは。

偶然なのだろうか。

それでは都合が良すぎるような気がする。

では、何かしらの要因で必然的に入手できたのだろうか。

だとすれば、それは何か。

わからないが、考える価値はある。

とはいえ、今考えるのはよそう。

少し疲れた。


しばらく時間を置いた後、再び気配遮断を発動させながら、森の入り口の前に戻ってくる。

遠くにさっきの奴らが街道を歩いているのが、見えた。

それを確認して、胸を撫で下ろす。

見つからずに済んでよかった。

しかし、リザードファイターたちを瞬殺か。

強い。絶対に強いな。

いざ戦うとなったら、それはそれで楽しそうだが、死ぬと分かってて戦うほど酔狂じゃない。

空を見ると、太陽が西に傾き始めていた。

アルベルトたちはまだだろうか。





買い物を済ませたアルベルトは、ナオトの元へ戻るべく、南門を目指して足早に都市を歩いていた。

空を見上げると、太陽は西へと傾いていくのがわかった。

もうそろそろ夕暮れが近い。

急がなければと、アルベルトはさらに歩くスピードを上げた。

ついに南門がアルベルトの視界に見えた時、その門が突然、開いた。

誰かが自由都市に入ってきたのだ。

門が開いて入ってきたのは、犬の獣人の親子らしき二人だった。それだけなら気にすることもなかったのだが、その彼らに付き従っているのが、四本腕の巨人の魔物だったので、そうはいかなかった。

アルベルトは、その魔物は見覚えがあった。

以前、読んだギルド公認の魔物図鑑に種族系統上位種の強力な魔物として、その魔物が載っていたからだ。

キラージャイアント。

魔獣族で、一つ目巨人(サイクロプス)の上位種であり、野生では魔界にしか生息が確認されていない魔物。

そんな魔物を使役しているとなると、恐らくマスターはAランカーの実力者だろう。

しかし、ここシルク地方周辺の魔物はAランカーを相手するには弱い。

子連れなのを考えると、大方、子供に使役させる魔物でも見繕いに来たというところだろう。

一般人や成り立てマスターが最初の魔物を得る手段としては使役魔物店で売っている魔物を購入することが普通だが、高ランカーのマスターを親に持つ子供は野生の魔物を親に捕獲してもらって、それを譲ってもらうということも珍しくないと聞く。

アルベルトは彼らとすれ違う。


「父さん、お腹減った! 早くご飯食べよう!」


「おいこら、服を引っ張るな!」


マスターの父親はとてもAランカーには見えない。

ありふれた親子にしか見えなかった。

人は見かけによらないものだ。

そんな感想を胸に抱きつつ、アルベルトは南門を通るための許可を門番にもらいに向かった。








日が暮れる。

夕焼けの光が眼下に広がる草原を茜色に染めている。

徐々に夜の帳が降りてくる中、俺は草原をこちらに向かって歩く一人と一匹の影を見つめていた。


「ようやくかよ」


思わず呟く。

その影たちが俺のいる丘の上へとやってきた。


「無事だったか」


〔待たせたな。あんちゃん〕


その影たちは、俺が待ち望んでいたアルベルトとアイアンだった。


「待ちくたびれたわ」


「すまない」


そう言って、アルベルトは頭を下げた。


「おい、また簡単に頭を下げるんじゃ……。もういいや」


アルベルトのこのあっさり頭を下げる癖は枯れ木の森を出てからも、直ることはなかった。

魔物に頭を下げるのはおかしいと、何度か注意したが、一向に直る気配がないので、もう放っておくことにしよう。


「しかし羨ましいねえ。そっちが平和な街に買い物に行ってる間、こっちはでかい魔物従えたマスターに会って、寿命縮んだっての」


「なんだと?」


待たされたことに対するちょっとした皮肉を入れた、大したこともない愚痴のつもりだったのだが、アルベルトにはそうは聞こえなかったらしい。

俺の言葉を聞いた途端に、こちらがたじろぐほどに目を見張った。


「なんだよ。そんなに怒ることないだろ」


「何もなかったのか?」


「は?」


「何もなかったのかと聞いている」


「いや、そもそも見つからなかったから、確かに何もなかったけど」


「それならいい」


それだけ言うと、アルベルトは仏頂面で黙り込んでしまった。

これだけ真剣に聞かれたから、軽い気持ちで言ったのが、悪く思えてきた。

確かに、あの状況は一歩間違えれば、あの場で全てが終わっていた可能性すらあった。

喉元過ぎれば何とやら。

俺は少し反省した。


「……で、どうするんだ? これから」


「もう日も暮れた。とりあえず森の中で、いつも通り野営するぞ」


「また森に入るのかよ。せっかく出たのに」


「こんな開けた草原で野営するのは、他のマスターに出会う可能性が高いから避けたい。森の中なら、まだ安心できる」


「う、そうだな。その通りだ」


さっきことがあるから、少し気まずい。

アルベルトの様子を窺ったが、未だに仏頂面のままだ。


「明日からシルモア丘陵に向かって、本格的にレベル上げをしてもらうぞ」


その言葉を聞いた瞬間、自然と気持ちが引き締まった。

いつまでもウジウジしてるわけにはいかない。

それにしても、いよいよか。

何だかんだでここまで来るのに随分とかかった気がする。


「前にも言ったが、丘陵の奥には竜族の強力な魔物、リザードマンのような雑魚ではない、真の意味での竜が生息している。目標として、その魔物を楽に屠れるぐらいには強くなってもらう」


「何かえらくアッサリ言ってるけどさ。一応、聞くけど、その竜ってブレスを吐いて空も飛ぶアレだよな?」


「竜族の魔物も色々といるから、一概には言えんが、貴様に戦ってもらう相手の大体のイメージとしては合っている」


「それに勝てと?」


「ああ」


何て無茶言いやがるんだ、こいつは。

大体、空飛んでる奴にどうやって攻撃しろって言うんだ。

魔術か?

でも、今の俺の魔術レベルでは大したダメージは期待できない。

これは魔術レベルもキッチリ上げておく必要があるな。

でも、全く近づかれず、射程距離外の上空からブレス連発されたりした時はどうすればいいんだろうか。

今の俺の脚力ならジャンプすれば、届くか?

いや、それよりも遥かに高い上空に飛んでいたらアウトだな。

仮にジャンプして攻撃が届く距離にいたとしても、そうやって空中にいる間、こちらは身動きが取れない。

対する相手は飛行生物。

空中での戦闘は不利すぎる。

駄目だな。

ちょっと考えた程度じゃ、全然倒し方を思いつかない。

これじゃあ、遭遇しても戦闘にすらならない。

単なる一方的な狩りになってしまう。

もちろん狩られる側は俺だ。

そんな奴と戦わなければならない。

ああ、でも、何だろう。

この胸から湧き上がってくる気持ちは。


「いきなり何をにやついているんだ。そんなに竜族と戦うのが楽しみなのか?」


「え?」


不意にかけられたアルベルトの言葉で、俺は自分の顔を触る。

俺は、笑っていた。

誤魔化しようもないぐらい、口角はつりあがっていて。

どうしようもなく俺は笑顔だった。

―――竜と戦えることに期待していた。


「……そうだな。楽しみだよ」


「本当に貴様は感情がよく顔に出るな」


俺の言葉にやれやれと肩を竦めるアルベルト。


「前々から思っていたが、本当に戦うことが好きなんだな。魔物と戦う時も、いつも笑っているようだし。人間という魔物は戦闘種族だったのか?」


「さて、な」


誤魔化すように恍ける。

この世界の人間ではない俺が超古代にいた人間の性格など分かるはずもない。


「まあ、そんなことはどうでもいい。貴様がどんな性格だろうと契約さえ果たしてくれればそれでいい」


「へいへい。きっちり仕事はこなしますよ。終わったら、ちゃんと解放してくれよ? 伝説の魔物を手放したくないーなんて駄々こねられるのはごめんだぞ」


「無論だ。さて、話はこれで終わりだ。早く野営に適した場所を探すぞ」


〔んがっ!?〕


喋らず、いつのまにか静かになっていたと思ったら、案の定寝ていたアイアンを踏みつけて起こした後、アルベルトは森の中へ入っていく。

契約の終わり。

それは奴の言う帝国の魔物大会優勝のこと。

そこでアルベルトと俺の関係は終わる。

それまでに大抵の相手に負けないぐらい、欲を言えばあの美青年(クソ)を退けられるぐらい強くなる。

それから後の事は―――まあ、その時に考えるとしよう。

起こされて慌ててついていくアイアンと共に、俺はアルベルトの後を追った。




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