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人間って伝説の魔物らしい  作者: PAPA
~第一章~人間、頑張る
17/34

第十七話:旅が始まってしばらく

更新遅れて申し訳ないです。

代わりと言ってはなんですが、今回はいつもの倍ぐらいの文量です。

モンスターギルド、ギルタ支部。

ギルドマスターを含めたギルド職員たちはギルド本部から訪れる学者の一団の対応の準備に追われて、てんてこまいだった。

本来ならここまで慌てることにはならないが、ある理由で実力のある魔物使い(マスター)が多数、必要となり、その急な手配にてんやわんやの大騒ぎである。


「やはりSランカーにはロクなやつがおらん!」


ギルドマスターは愚痴らずにはいられなかった。

ギルドが死ぬほど忙しい、その理由。

それは人間とルシファーが暴れたせいで、半壊したギルタの森の修復のために呼び寄せたSランカー『全樹の庭師(オールガーデナー)』がギルタの森を修復するどころか、人外魔境の大森林へと変えてしまったのが原因だった。


「何が、これで前のように破壊されにくくなってあなたもハッピー、緑がより増えて(わたくし)もハッピー、じゃ!」


あのSランカーの持つ魔植物族の魔王の力は絶大だった。

もはや元の初心者マスター御用達だったギルタの森の面影はどこにもなく、魔物の生態系も変わってしまい、今は高ランクの魔植物族の魔物が多数、生息する高難度フィールドの大森林へと変貌を遂げてしまっていた。

今回、学者たちが来るのは、この変貌したギルタの森の調査と人間が最後に姿を消した魔力泉の調査のためである。

しかし、学者たちは身を守るための最低限の魔物しか使役しておらず、今のギルタの森に生息する魔物には、とても太刀打ちできるような強さではなかった。

故に多数の高ランクのマスターが護衛に必要となり、今、依頼を出して、必死にかき集めている最中だった。


「おじーちゃん、大丈夫?」


「ぬぅおわ!?」


ギルドマスターが書類と格闘していると、背後から音もなく、今ここにいないはずのSランカーの孫娘であるエカテリーナが顔を覗き込んできた。

突然のことに、思わず声をあげてしまう。


「いきなり出てくるんじゃあない……!」


「そんなにびっくりした?」


ギルドマスターは驚いたことで乱れた息を整えながら、どこからともなく現れたルシファーの肩に乗った孫娘の顔を憎々しげに見る。


「で、いったい何のようなんじゃ? 忙しいから手短にな!」


「いや、ちょっと様子見にきただけなんだよね。それにしても、あのおばさん、派手にやったねー。あの森、もう原型とどめてないじゃん。ある意味、ルシファーと人間君が暴れた時より酷いんじゃない?」


「そうなる原因を作ったのはどこの誰じゃったかな?」


「ああ、もう、そんな怒らないでよ。反省してるからさー」


「ほほう。だったら、今度来る学者たちの護衛の依頼をしてもらうぞ。無論、無料(タダ)でな」


「えー、無料(タダ)ァ?」


「元はと言えばおぬしのせいじゃろうが。つべこべ言うな」


「……はーい」


いつもならもう少しごねていただろうが、さすがに今回のことは自分に責任があることを自覚しているのか、エカテリーナは素直にうなずいた。


「そういえば、おじーちゃん。本部が人間君を探すのに本腰入れたの知ってる?」


「知っておる。つい先日、本部から通達が来たわい。人間に関する情報があれば些細なものでも構わないから、何かあれば即刻連絡すべしとな。マスターたちからも情報を募るために、常時依頼として掲示板にも貼っておけとも言われたのう」


「あーあ、やだなあ。私が最初に目をつけたのに。そのうち、ギルドの(わんこ)も人間君を探すために動き出すだろうし、あのゲテモノ野郎の耳にも入ってるだろうなあ」


「こら、口が悪いぞ。他のSランカーのことをそんな風に言うんじゃない」


ギルドマスターはブツブツと愚痴を言う孫娘を諌めながら、その孫娘が学者の護衛を受けてくれることで、業務が楽になったことに感謝しつつ、残りの書類を片付けていった。






「おっと」


顔を目がけて、横薙ぎに振られた剣をほんの少し後ろにのけ反って、かわす。

その剣先が俺の鼻先をかする。

あぶないあぶない。

できた隙を逃すことなく、俺はアイアンの籠手がついた右腕の拳に瞬間的に魔力を込めて、ソードリザードマンの鼻面にストレートを叩き込んでやる。

拳を通して、ごきりと、骨が折れた感触が伝わってきた。


「爆!」


そのまま拳を振り抜くと同時に、火魔術を発動させる。

瞬間、俺の拳が爆発し、ソードリザードマンを吹っ飛ばした。

奴の身体は7、8メートル飛んだところで地面に落ちた。

顔はぐちゃぐちゃで、首があらぬ方向を向き、絶命していた。

その死骸から紫色のもや、魔素が浮かび上がる。

俺は近づいて、それに手を触れた。

暖かいものが身体に入り込んでくる。


【名称】神崎直人

【Lv】18

【種族】人間

【ジョブ】魔術拳闘士

【ユニークスキル】

人の知恵 (てのひら)の欲望

【スキル】

洞察 拳闘術Lv13 超魔力 翻訳能力 火魔術Lv15


レベルは上がらない。

かなりの数の戦闘をこなしたと思うんだが、なかなか上がるものじゃないんだな。

枯れ木の森を出た頃よりかは強くなったが、まだまだだ。


〔もうあんな敵じゃ、あんちゃんの相手にならんなあ〕


「あれぐらいが闘りやすくて、ちょうどいいんだけどな。でも、さすがに疲れてきた」


正直、戦っていて面白いとは思えないが、技を練習する相手にはリザードマン辺りが手頃でいい。

しかし、さっきから連続しての戦闘にさすがに辟易していた。


「お見事」


離れた場所で戦闘を見ていたアルベルトが近づいてきて、労いの言葉をかけてきた。


「どうやらうまくできたようだな。あれが貴様が毎晩、練習していた魔術を纏うというものか?」


「あー、いや、厳密に言えば違うんだけど」


さっきの拳が爆発する技は、身体に魔術を纏えないかというところから始まり、試行錯誤した末に生み出したものだ。

結果だけ言うと、魔術を纏うのはできた。

単純に魔術を発動し続けるだけだからだ。

しかし、戦闘しながら、というのが無理だった。

魔術を纏うのは継続的に魔力を魔術に流し続けなければならない。

しかし、俺は戦いになると、どうしても相手とのやり取りだけに意識が向いてしまい、魔術を発動し続けるための魔力供給が止まってしまうのだ。

こればかりは地道に練習するしかない。


今すぐに魔術を纏って戦うのは諦めた。

しかし、そこで思考停止するのも悔しいので発想を変えて、考えてみた。

何も常に魔術を纏う必要はない。

攻撃するならその瞬間、また防御するならその時にだけ魔術を使えばいいのだ。

が、そこでいきなり躓いた。

攻撃、防御の瞬間に魔術を使おうとすると、魔術を発動させたい身体部位に魔力を送ってから、魔術を発動するというプロセスのせいでどうしても発動を意識した瞬間から、ワンテンポ遅れて魔術が発動してしまうのだ。

そのせいで相手を殴り飛ばしてから、拳が爆発するという、間抜けな構図が出来上がってしまった。

しかし、程なくして解決策は見つかった。

そのプロセスが絶対に必要なら、魔術を発動させる前に、そのプロセスの一部を先に行っておけば、間髪入れずに魔術を発動できる。

すなわち、魔術を発動する前に、あらかじめ発動させたい身体部位に魔力を送り込んでおき、敵にその部位を当てた瞬間に魔術を発動させる。

これが正解だったらしく、さっきやってみせた技が出来上がった。

発動させる瞬間に「爆」と叫んでいたのは、単純に魔術を発動させる際に、自分が起こしたいイメージを口に出すと、魔術をその通りに発動させやすいからだ。

決して他意はない。

ないったら、ない。


「ふむ、器用なものだな」


「そりゃ、どーも」


アルベルトはナイフを取り出してリザードマンの死骸の、なるべく綺麗な部分の鱗の皮を剥ぎ取り始めた。

毎回、アルベルトは俺が比較的、綺麗な状態で倒した魔物の一部分を剥ぎ取っている。

こういう魔物の皮や爪などは様々なものの素材になるらしく、ギルドでランカーでなくとも、買い取ってもらえるらしい。

アルベルトは剥ぎ取った皮を麻袋へと、詰め込んでいく。


「終わった?」


「ああ」


「それじゃ、遠慮なく」


アルベルトの返答を聞いて、火魔術をリザードマンの死骸に放った。

火魔術もレベル15に成長したので、火炎放射器並の炎を出せるぐらいにまで強くなった。

その炎で死骸の全身をくまなく燃やし尽くしていく。


「前から気になっていたが、なぜ毎回、倒した魔物の死骸を燃やすんだ?」


「いや、このまま死骸が野晒しになるのも、な」


「……ふむ」


「まあ、後味が悪いからっていう自分勝手な考えだけど」


アルベルトは少し間を置いたあと、


「そうか」


とだけ、言った。


あの枯れ木の森を出てから、数日が経った。

奴の言う森林と丘陵地帯が隣接しているという目的地に向かう途中、様々な魔物、と言ってもリザードマン系の魔物ばかりでいまいち変わり映えしなかったが、それらに襲われて戦っている内に俺のレベルやスキルレベルも上がり、以前に比べれば強くなったと言えるぐらいには成長した。

ついでにアイアンも俺の知らないうちにレベルが上がっていたらしい。

アイアンをつけながら魔素に触れてたから、アイアンにも魔素が入ったのだろう。

本人? 本鉄っていうのか? まあ、とにかくそれが言うには前に比べて、より固く、より表面が美しくなったそうだ。

俺にはまったく違いがわからなかった。

それを言うと、怒るだろうから言わなかった。


拳闘術のスキルは成長すると、その効果が判明した。

どうやらこのスキルは基礎ステータスに補正をかけるスキルだった。

今のスキルレベルぐらいだとはっきりと補正があると、わかるぐらいに付けているのと、付けていないのとでは、自身の動きの鋭さが違うことが認識できた。

どのステータスにどれくらいの補正がかかっているのか、詳しくはわからないが、とりあえず素早さに補正がかかっているのだけは間違いなかった。

まあ、拳闘術というのだから、あとはパンチの重さとかの攻撃力辺りに補正でもありそうな感じだが。

後、拳闘術がレベル7になった時に、あのアナウンスが条件を満たしたとか何とか言って、リザードファイターが持っていた俊足のスキルを入手することができた。

今は装備スキル欄がいっぱいなので、スキルスロットに置いているが、レベルが上がって、欄が増えたら装備しようと考えている。

後でアルベルトに聞いたら、魔物が基本的にスキルを入手するための確実な方法はレベルがあるスキルを成長させることらしく、レベルが上がることでそのスキルの派生スキルを入手できるそうだ。

となると、魔術系のスキルも成長させていけば、いずれ強力な魔法系スキルに派生するかもしれない希望があるということだ。

俄然、やる気が出てきた。

現在のスキルスロットはこんな感じだ。


【スキルスロット】

【魔術】

水魔術Lv1 土魔術Lv1 風魔術Lv1 雷魔術Lv1 光魔術Lv1 闇魔術Lv1

【補正】

俊足

【特殊技能】

魔力泉転移 魔力解放 生存本能(トランス) 警戒 治癒促進



死骸が黒炭になるまで、燃やし尽くした後、アルベルトたちが待つ、ヒトの行き交いによってできた森の街道まで戻った。

俺たちは今、枯れ木の森とは雲泥の差の緑豊かなの森の中を街道沿いに歩いて、目的地の森林丘陵地帯を目指していた。


「思うだけどさ、魔物多くないか? 街道沿いに歩いてるだけなのに遭遇しすぎだろ。1時間に3、4回は戦闘こなしてるぞ、俺」


事実、連続して起こる戦闘に備えるためにアイアンは常に俺の籠手として装着している。


「貴様の魔力が大きすぎるのが、問題なんだ。焼いた霜降り肉を持って歩いているようなものだぞ。そんな状態では、いくらでも嗅ぎつけて寄ってくるに決まっている」


「うへえ、どうすればいいんだよ」


「貴様が自身の魔力を操作して、最小限に抑えることができれば、少なくとも遭遇率は減らせるだろうな」


「よし、やってみる」


アルベルトの言うとおり、さっきから、体から出ている魔力を内側へと抑えつけるように意識する。

が、


「漏れてるぞ。抑えきれてない」


「むぐぐ、無理だっ! 魔力が大きすぎる!」


すぐ断念した。

魔力が大きすぎて、いくら抑えても溢れて出てくる。

まるで壊れて水が出続ける水道の蛇口を手で抑えてるような感じだ。


「自分の魔力を制御できないとはな。魔物であるならそんなことはありえないのだが。貴様の持つ超魔力とやらのスキルが原因じゃないのか?」


「え?」


「魔物なら普通、自分の魔力を十分に制御できないなんてことはない。だとすれば、そのスキルが魔力に対する強力な補正をかけていて、貴様の身の丈に合わない魔力を与えているのではないか」


言われて、ものは試しだと、すぐさまスキルを変更する。


【スキル】

洞察 拳闘術Lv13 俊足 翻訳能力 火魔術Lv15


自分の中にある魔力が一気に減った感じがした。

その状態で、さっきと同じように魔力を抑え込むように意識する。

すると、さっきの苦戦が嘘のように、あっさりと魔力を限界ギリギリまで抑え込むことができた。


「ものすごい落差だな。さっきまで魔力泉にも劣らぬぐらいの魔力だったのに、今じゃこの近距離で近づいて、かろうじてわかるほどに感じられる魔力が落ちた」


〔油断してたら酔いそうになるぐらいの魔力やったのに、そんなに小さくできるんやなあ〕


「うん、自分でもちょっと驚いてる」


どうやら超魔力も万能というわけではなかったようだ。

魔力が大きすぎて、扱いきれず、魔力がだだ漏れになり、その結果、魔物が寄ってくる。

魔力が激増するかわりに敵に見つかりやすくなるとは。

意外な弱点だ。

もしかしたら他のスキルにも、思いもよらぬ弱点がありそうだ。

後で確認しておく必要がありそうだ。


「そういえば、気になったんだが、スキルの効果を確認できるようなスキルとか、魔具(ツール)はないのか?」


「ふむ、あるにはあるが、スキルの方は入手方法がイマイチ判明していないから入手するのは厳しいだろう。魔具(ツール)の方は量産が難しいらしく、数が少ないので、高価だから、こちらもまた別の意味で入手が難しいな」


「そうか」


もしできるんだったら弱点の確認も簡単で済んだし、そもそも効果がわからないスキルのこともわかったんだが、そう甘くはないか。


「代わりにスキル図鑑というものをギルドが発刊しているはずだ。まずこれからのことに備えて、物資を買い込むために、目的地近くにある、ギルドの自由都市に立ち寄るから、ついでに購入しよう」


「うん、いいのか?」


思いがけない言葉に、思わず身を乗り出して、聞き返してしまった。

アルベルトはそっぽを向きながらも、答えてくれた。


「貴様が強くなるためだ。スキルの効果を把握しておくと、戦略が立てやすい。以前よりはるかに戦いやすくなるだろう」


「おう、助かる」


俺が礼を言ったら、アルベルトは渋い顔をした。


「感謝などいらん。貴様が効率的に魔物を狩れるように必要なことをするだけだ」


「はあ。礼ぐらい素直に受け取れよ」


〔まあまあ。とりあえずはよ行こうや。モタモタしてる暇はないやろ〕


プルプルと籠手の体を震わせて言うアイアン。


「む、そうだな。おい、魔力はそのまま抑えていろ。貴様の言うとおり、少し戦い過ぎた。明日中には自由都市に着きたいから戦闘はなるべく控えたい」


「言われなくても、わかってるさ。俺だってもう疲れたし」


「なら、行くぞ」


「へいへい」


俺たちは目的地を目指して、歩き始めた。






「あぁー」


座ったまま伸びをして、首を回すと、その度にゴキゴキと音がした。

辺りは真っ暗闇。

その中で煌々と燃えている小さい焚き火。

そのそばで寝ているアイアン。

日はとっくの昔に暮れて、森は虫たちがざわめく夜の姿へと変貌を遂げていた。

アルベルトが焚き火のそばに、四角い石を置いた。

地面に一瞬、大きな魔法陣が展開されて、次の瞬間には辺りを覆うように結界が張られていた。


「よし、結界石の設置も完了。これで安心して休める」


結界石とは名前の通り、設置した場所を中心に半径10メートルを囲む結界を張る魔具(ツール)で、この結界が、内にある魔力が外に漏れるのを遮断してくれるおかげで、魔物に見つかる可能性を最小限にまで抑えてくれるそうだ。

しかも、ある程度の強度もあるため、魔物に見つかっても、応戦するための準備をする時間も稼いでくれる優れものだ。

旅人やキャラバンなど、旅をする者たちに大層、重宝されているらしい。

都市などには、この結界石の大型版が設置されているらしく、それで魔物の侵入を防いでいるそうだ。

アルベルトは腰につけた、幾何学的な模様が施された皮袋の中から、どう見ても体積的に入るはずのない、折りたたみ式のテントや食糧の乾パンや干し肉が、それぞれ入っている袋を取り出していく。


あの袋も宙袋という魔具(ツール)らしい。

何でも袋の中の空間を拡張しているから、大抵のものは入るらしい。

空間を操作するとか、すごいな。

元の古代魔具(アーツ)はもっと強力に空間操作を施しているんだろうか。

むしろあの魔具(ツール)でも古代魔具(アーツ)と言われたら、信じてしまうかも。


「さて」


アルベルトはテントを建て終えて、焚き火の前に腰を据えると、食事をするために袋から乾パンと干し肉を取り出す。

そして俺の方を向いた。


「やっぱり欲しいのか?」


「ダメか?」


「いや、ダメというわけでは。しかし、魔物は魔力が栄養源だ。貴様は昼間にかなりの魔素を吸収したから腹は空いていないはずだろう?」


アルベルトの言う通りで、この世界に来てから、俺は魔素さえ吸収していれば、空腹に襲われることもなくなり、食べる必要もなくなってしまった。

しかし、アルベルトが朝食や昼食、そして今のように夕食を取る時に必ずそのお裾分けをもらって食べていた。

今まで生きるために欠かさず続けてきたことをいきなりやめることはできなかった。

いくら食べなくても大丈夫な身体になったとはいえ、何も口にしないのは不安だったからだ。

故に、食べることがいわゆる癖になって残ってしまっていた。


「癖だよ」


「わからないな」


アルベルトはそう言いながらも、乾パンと干し肉を手渡してくれた。


「ありがとさん」


「礼などいらん」


お礼を言うも、アルベルトは素っ気ない態度で、自分の分の乾パンと干し肉を食べ始めた。

この態度も慣れてしまったので、たいして気にはならなかった。

俺は手に持った乾パンと干し肉にかぶりついた。





「ステータスを見るが、いいか?」


乾パンと干し肉を食べていると、先に食べ終えたアルベルトが問いかけてきた。

あの枯れ木の森を出て以来、何故か俺のステータスを見る際には必ずアルベルトは俺の許可を得てから、見るようにしていた。

正直、別に気にしていないのだが、そうしないと、気が済まなさそうなので、特に何も言わずにいる。


「よいで御座る」


「すまない」


スルーされた。


「また上がっているな」


アルベルトが識察(サーチ)という虫眼鏡型の魔具(ツール)越しに、こちらを見て、呟いた。


「別にレベル上がってないだろ」


「スキルレベルの方だ。昨日の夜の火魔術はLv13だったのに、もうLv15になっている。たった一日で2も上がるなんて早すぎる。」


「そうなのか? 割りとポンポン上がるものだと思ってたんだが」


「普通は何日か、かけてようやく1上がるぐらいだ。そう簡単に上がるものではない」


アルベルトはそう言うと、考え込みだした。

下を向いてブツブツ言っている。

俺はとりあえず乾パンと干し肉を食べ切ることにした。


「やはりそうとしか……」


そうして食べ終えた頃にアルベルトが再始動した。


「何かわかったのか?」


「ああ。確証はないが、恐らくこの現象の原因は貴様の魔物としての特性か、あるいはそういうスキルの成長を促す効果のスキルが貴様が気づいていないだけで保有しているかのどちらかだ」


「なるほど。その根拠は?」


「貴様が人間だから、だな。他の魔物ではこんなことを聞いた試しがない。となると、人間である貴様にそういう特異的なものが備わっていると考えるのが自然だ」


「そうか……」


そう言われると心当たりがないわけでもない。

効果がわからなくて、それっぽいスキルが一つある。


「確信はないけど、それっぽいスキルはある。ユニークスキルの人の知恵っていうんだが」


「そうか、なるほど。ユニークスキルか。特性でもあり、スキルでもあったということか。盲点だった」


「あの、納得してるところで、悪いんだが、ユニークスキルって何なんだ? 前から気になってたんだが」


またか、とアルベルトは項垂れた。


ユニークスキルとはその魔物の特性を表すスキルで3つの種類がある。

一つは種族の特性としてのユニークスキル。

例えば竜族であるリザードマンは魔力鱗と魔殺息(マギ・ブレス)のユニークスキルを持っているが、あれは竜族であれば、どんな魔物でも持っている。

言わば、種族共通のユニークスキルだ。

二つ目は種族というカテゴリーより小さくなって、ある魔物の、その種として固有のユニークスキル。

例えばスライム族でポイズンスライムという魔物がいるが、その魔物はスライム族としての特性、粘体のユニークスキルの他に毒性というユニークスキルを持っている。

これはポイズンスライムという種としての特性であり、ユニークスキルである。

ちなみにこのユニークスキルは特定の魔物のみが持つ唯一のスキルというわけではなく、そういう特性を持つ魔物であれば、持っている。

三つ目は、他二つの特性に由来するものとは別の、また、ある意味でのユニークスキルと言える、まさしくその個体のみが持っているユニークスキル。

これは種族関係なく、本当にその魔物しか保有が確認されていない、唯一のユニークスキルだ。

普通、ユニークスキルは先天的に備わっているものだが、このユニークスキルだけは特殊で、後天的に習得するしかない。

しかし、習得しようにも、その条件はまったく判明しておらず、習得した魔物を持つ者たちすらも偶然、習得できただけである。

故に狙って習得するのは、ほぼ不可能とされている。

その習得の難しさに見合って、この種類のユニークスキルは強力無比なものばかり。

勇者と呼ばれる魔物たちは全員、この唯一のユニークスキルを持っているらしい。

また、それが魔王に対抗できる理由であるとも言われている。


「なるほど。じゃあ俺の人の知恵は種族ユニークスキルだな。最初から持ってたし」


「効果はわからないのか?」


「さっぱりだな。だからこそ、スキルの効果を確認できるモノが欲しいんだが」


「言っておくが、たとえギルドのスキル図鑑でも貴様のユニークスキルが載っている可能性はゼロだぞ。滅びたはずの伝説の魔物のスキル情報なんてあるはずがない」


「だよなあ」


がっくりした。

薄々わかってはいたが、少しくらいの情報はあるかと期待してたが。

甘かったか。


「まあ、このスキルの効果がわからなくても、今すぐ困るわけでもないし、スキル成長が早いことも悪いことではないから、こっちも今すぐ原因を追求する必要もないだろ」


言い終わると同時に欠伸がでた。

眠くなってきた。


「ふむ、確かに」


アルベルトは納得してくれたようだ。

よかった。

日中に戦った疲れで眠気が強くなってきてたところだったから、これ以上話が続くと絶対寝てたわ。


「よし。じゃあ眠いから寝るぞ、俺は」


「やっぱりテントで寝るのか?」


「いいだろ。テント二人用だし。人間だろうと魔物だろうと、外で寝るのは色々辛いんだよ」


そう言って、テントに入って横になる。

しばらくすると足音がして、アルベルトが入ってきた。


「……何でそいつ抱えてんの?」


テントに入ってきたアルベルトは寝ているアイアンを抱えていた。

そしてそのままこちらに背中を向けて、横になった。


「いや、無視すんなよ。さすがに狭いんだが」


「これは」


アルベルトは俺の言葉を遮り、首だけこちらを向けて、言った。


「抱き枕だ」


「何言ってんのお前」


夜は更けていく。



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