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人間って伝説の魔物らしい  作者: PAPA
~第一章~人間、頑張る
16/34

第十六話:自分の立場を自覚しよう

今のところ、順調に書けている。

今更戻ってきたこんな作品に感想をくれる人たちに感謝。

魔力泉のそばまでだいぶ近づいてきた。

俺は新たなスキルが手に入るかと思ってわくわくする反面、もやもやとした気持ちでもあった。

さっきからアルベルトがずっと黙りっぱなしなのだ。

アイアンには釘をさされたが、気にするなという方が無理な話である。


〔うむむ……。さすがに、苦しい〕


足元でアイアンが呻くように言った。

その歩く動作が緩慢になっている。

苦しそうだ。

たしか魔力泉の放つ濃密な魔力は普通の魔物にとって毒なんだっけ。

俺は何ともないけど。


「……ここから先は一人で行け」


「え?」


今まで黙っていたアルベルトの突然の言葉に思わず声が出た。


「これ以上魔力泉に近づくのはアイアンの体調に障る」


「じゃあリングに戻せばいいだろ」


「私に丸腰でいろと? 前と同じこと言わせるな」


「俺がいるだろうが。死なれたら困るから守ってやるよ。それにこれだけ魔力泉に近いんだから、そもそも魔物は寄って来ないだろ」


「……だとしても、ヒトである私も魔物よりマシとはいえ、魔力泉に近づきすぎると体調を崩してしまう。それは避けたい」


何だコイツ。

妙に言い訳がましいな。


「離れた隙に逃げるかもしれないぞ?」


「好きにしろ」


俺の言葉にアルベルトは顔をそむけながら答えを返した。

本当に何だコイツ。

信用、されているのか?

いや、そうではない気がする。

こいつの意図するところがわからない。


「……へいへい、分かりましたよ。一人で行けばいいんだろ、一人で行けば」


俺はアルベルトに背を向け、魔力泉に向けて歩きだした。

考え込んだところで仕方がない。

とりあえず泉でスキルを入手しよう。

俺の目的は強くなることなんだから。





たいしたこともなく、すんなりと魔力泉にたどり着くことができた。

見覚えのある風景に、ここに来た時のことが脳裏によぎり、顔を顰める。

あまりここにはいたくない。

さっさと用事を済まそうと、泉のほとりに立って、その中を覗き込む。


「ん?」


思っていた通りにあの珠があった。

しかし、その色が違った。

緑色。

それも見事なぐらいに鮮やかで綺麗なものだ。

そういえば超魔力と魔力泉転移を入手した珠の色もそれぞれ違っていたな。

確か超魔力の時が琥珀色で、魔力泉転移の時が透き通るような青色だった気がする。

あの時は色々と必死で、そんなことに気にしている余裕もなかった。

俺のスキル入手に何か関係あるのだろうか。

……わからない。

とりあえず触れてみよう。


俺はジーパンを膝より上にたくしあげて、泉に足を踏み入れた。

この魔力泉も浅く、一番深いだろう珠が埋め込まれている中央部も膝上までたくしあげたジーパンが少し濡れる程度の水位しかなかった。


珠の目の前に立ち、深呼吸をする。

訳もなく、妙に緊張する。

いったいどんなスキルが手に入るのだろうか。

俺は服の袖をまくり、泉に手を突っ込んで、緑の珠に触れた。

瞬間、温かく心地よいも何かが触れた手を伝って入ってくるのがわかった。


『【スキル】治癒促進を手に入れました』


『【ユニークスキル】(てのひら)の欲望の進化条件の一:緑の◆◆◆◆◆からスキルを入手する、の達成を確認しました。進化条件は残り二つです』


同時にアナウンスが頭の中に響く。

治癒促進。

珠から得たスキルの中では一段と地味な感じのスキルだ。

恐らく効果も名前のままだろう。

強力なスキルを期待していた分、少しがっかりした。

それよりも気になったのは(てのひら)の欲望に関するものだ。

未だ謎の多いこのスキル。

進化条件というところから察するに進化するらしい。

まだ残り二つ条件があるようだが、まあ、進化というのだからより強力なスキルになってくれるのは恐らく間違いないだろう。

強くなるに越したことはない。

そして最も気になったのが進化条件の一文だ。

緑の、というところまで聞き取れたが、そのすぐあとにまるで無線のノイズのような音が流れてまったく聞き取れなかった。

幸いにもすぐに元にもどったが、まるでそこだけ聞こえないようにしたかのような、作為的なものを感じた。

推測するに聞こえなかった部分はこの珠の名称ではないだろうか。

アルベルトからこの珠の名称は魔力珠と聞いたが、それはヒトが勝手に名づけた名称に過ぎない。

事実、現在に至っても触れることができないせいで、この珠に関する研究はほとんど進んでいないらしい。

よく考えると、この珠は謎が多い。

そもそもなぜ俺はこの珠に触れるとスキルが入手できるのだろうか。

これが仮にそういう古代魔具(アーツ)だとしても、いくら人間と言っても別の世界から来た俺が利用できる道理はない。

にも関わらず、俺はスキルを入手できる。

なぜなのか。

ステータス上で人間だからだろうか。

俺は思考しながら、再び珠に触れる。

スキルを手に入れた時に感じた心地よい感覚はもう感じない。

表面はつるつるしている。

くぼみにがっちりと、はまっていて取れそうもない。

試しに掴んで、軽く引っ張ってみる。


次の瞬間、ゴリッという嫌な音が聞こえた。


気づいたときには、もう遅かった。

俺の手には綺麗な色をした緑の珠が収まっていた。


「え?」


俺の戸惑いを無視して、間髪入れず、手の中の緑の珠は急激に強く輝きだした。

次の瞬間、魔力泉の水がまるで掃除機に吸われるかの如く、緑の珠の中に凄まじい勢いで吸い込まれ始めた。


「え、えっ!?」


そしてわずか数秒で、魔力泉の水はすべて吸い尽くされてしまい、後に残ったのは完全に枯れた魔力泉と俺の手の中にある緑の珠だけになってしまった。


「え、待って。ちょっと待って」


あまりのことに思考が追い付かない。

とりあえず落ち着いて考えよう。

俺は誤って魔力泉に埋め込まれていた緑の珠をとってしまった。

その結果、魔力泉は全て、この珠に吸収されてしまったということか……?

たしか魔力泉が魔力を帯びているのは魔力珠というこの珠が魔力を出しているからと聞いた。

しかし、それなら泉ごと吸収するのではなく、魔力だけ吸収されて、泉は残るというのが自然な流れのはずだ。

だが、実際は泉ごと吸収された。

となると、魔力泉はただの水が魔力を帯びたものではなく、それそのものが魔力珠から生みだされていると考えるのが自然だ。

そうすると、いくら泉の水が減らないのも頷ける。

常に供給され続けているわけだからな。


「おい、いったい何があった!」


気がつくと、アルベルトとアイアンがこちらに駆けて来ていた。


〔うおっ! 魔力泉枯れとるやん! なんや、突然、周りを漂っとった魔力が消えて楽になったと思って来てみたら、あんちゃん、いったいなにしたん!?〕


「えー、魔力珠を引っこ抜いたら、魔力泉がそれの中に吸収された」


とりあえず見たままのことを言ったやった。

証拠として緑の珠も見せつけてやる。


「訳がわからない」


返ってきた反応は困惑だった。

そりゃそうだろうな。

俺はさっきまで考えていた、この現象に対する俺の考察を話した。


「なるほど。いや、そうではない。私が言いたいのはそういうことではなく、何故、そんなことをしたのかだ。それが貴様が強くなることに必要だったのか?」


アルベルトは首を振り、さらに問いかけてきた。


「え、いや、それ自体はもう魔力珠(これ)を引っこ抜く前に終わっていて……」


「じゃあなぜ魔力珠をとった?」


「ちょっと気になって触って調べてたら、勢い余って、つい」


それを言った瞬間、アルベルトにもの凄く呆れた顔で深い溜息をつかれた。


「阿呆。自分の力を考えろ」


「え」


「魔物を一殴りで数十メートルも飛ばすような力だったら、どれだけ固くはまっていようが、嫌でも引っこ抜けるぞ」


アルベルトに言われて、はっとする。

確認のため、近くの枯れ木に近づいて、珠を持つ手とは逆の手で、力を入れて殴ってみる。

直後、メキメキという音をたてながら、枯れ木はあっさり倒れ伏した。

俺が殴った部分は完全に粉砕されていた。


「わかったか?」


俺はアルベルトの言葉に頷くしかなかった。

今までの普通の人間基準の力で考えるのはご法度のようだ。

このままでは日常生活で支障をきたしてしまう。

なんとか制御しないと。


「それで、これはどうしよう」


俺の手の中には全くその鮮やかな緑色をくすませることのない魔力珠がある。


「泉にはめ直せないのか?」


そう言われて、挑戦してみるが、元々が絶妙なバランスではまっていたのか、どうやってもはまらなかった。


「力の入れすぎで魔力珠を壊すんじゃないかと、ひやひやしたぞ!」


「ごめん、はまらなくてイライラした」


ただ、この魔力珠は意外と丈夫であることはわかった。

無理にはめようとして、結構力を入れてもビクともしなかったのだ。

壊すつもりでやれば、壊せないこともない気もするが。


「仕方ない。持っていくぞ」


「いいのか?」


「普段の魔力珠のように魔力を放っているなら、話は別だが、幸いなことに今の魔力珠からは何故かは知らんが、魔力は感じられん。持っていても目立つことはないだろう」


「それならいいけど」


「それに魔力泉を戻せなかった以上、これが人間の仕業だとバレるのは時間の問題だ」


「え、なんで?」


「貴様、ルシファーから逃げるときに魔力泉に入ったのを見られているだろう。この世に魔力泉に触れて無事でいられる生物はいない。あの魔王すらもだ。人間である貴様を除いてな。見られた以上、既にギルドにはその情報が行き渡っているだろう。この枯れた森には、もうほとんど人は来ないが、もしこの魔力泉の惨状が世間に知られたら、一発で人間である貴様の仕業とバレて、この周辺に貴様がいるということが、わかってしまうぞ」


「……俺、やらかしちゃった?」


「盛大にやらかしてくれたな」


「ご、ごめん」


「なら、これからもう少し慎重になってくれ。伝説の魔物である貴様の行動は色々な意味で世界に大きく影響を与える。自分がどういう存在であるか、もっと自覚してくれ」


諭すように言われてしまった。

こればかりは俺が悪いから何も言えない。

素直に頷いた。


「とにかくだ。それでその時、魔力珠を置いていって、調べられたりでもして、ないとは思うが、もしこちらの居場所が知れるような事態になられたら困る。大会までに目立ちすぎると、色々と具合が悪いからな。貴様だって、いくら私の魔物ということになっていても、また追いかけ回される羽目にならんとも限らん」


「うげっ、それは勘弁願いたいな」


魔王みたいな、あんなクソ強い奴らに追い回されたら、命がいくつあっても足りない。


「よし、わかったら、さっさと出発するぞ。魔力泉の惨状が知られた時のことも考慮して、当初の予定を変更して、ここから遠く離れた場所でレベル上げをする」


「どこなんだ?」


「貴様に場所の名前を言ってもわからんだろうからな。森林と丘陵地帯が隣接している場所、とだけ言っておこう」


「へえ、少なくとも今のところよりかは、緑がありそうだな」


「ああ。竜族の魔物もいるぞ。その竜族を軽く捻り潰せるくらいには強くなってもらうからな」


「え、何かハードル高くない?」


「それぐらい強くなってもらわない困る。あと、魔力珠は貴様が持ってろ。もし私やアイアンが触れて魔力中毒になって死にました、なんて御免だからな。持ち運びやすいように袋を貸してやるから」


「竜を倒すとか、イメージわかないな」


「ほら、もういいだろう。さっさと行くぞ」


「あ、ちょっと待て」


「何だ、まだ何かあるのか」


「いや、こいつまた寝てるぜ」


〔Zzz……〕


俺が指をさした足元で唸るようないびきをかくアイアン、もとい鉄の塊がいた。

アルベルトは無言でしゃがみ、アイアンをはたいた。




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