第十五話:知らないことはまだまだあるようです
このぐらいのペースで書きたい
〔何であんちゃんそんな顔を揉んでんの?〕
「ほっとけ」
トカゲどもを倒した後、俺はアルベルトたちと共に最初にここへ転移して来た魔力泉を目指して歩を進めていた。
俺は歩きながらポーカーフェイスの作り方四苦八苦していた。
「おい」
アルベルトが声をかけてきた。
その声色は何故か真剣味を帯びている。
無視するわけにもいかないので返答する。
「なんだよ」
「単刀直入に聞こう。貴様はスキルの付け替えができるのか?」
ど直球だな、オイ。
まあ、うだうだ遠回しに聞かれるよりすっきりさっぱりしてていいが。
しかし、スキルの付け替えができるかだって?
こんな聞き方をするってことはもしかしてできないのか、普通は。
てかそんなことより……。
「お前、俺のステータス見たのか?」
スキルの付け替えはステータスを見ることができなければそもそも気づくことができないはずだ。
ということはこいつはスキルか何かで俺のステータスを見たということだ。
「ああ、見た。それについては謝罪する。すまなかった」
そう言うとアルベルトは俺に向かって頭を下げた。
おおう、謝るのかよ。
「おいおい、そんな簡単に頭下げるなよ。自分で言うのもアレだけど魔物の俺のステータス勝手に見たぐらいで謝罪なんてそっちの常識的におかしくないのか?」
「む、言われてみれば確かに。貴様と話しているとどうもヒトと話してるようで魔物だと失念してしまう」
うむむとアルベルトは唸った。
ていうか何で俺がこっちの世界の常識についてこいつに注意してるんだ。
普通は逆だろ。
「まあいいけどさ。で、何だっけ」
「スキルの付け替えができるのかと聞いた」
「ああ、そうだったな」
さて、どうしようか。
もしこのスキルの付け替えが俺だけにしかできない特別なものだとしたら、これは強力な武器だ。
いくら取引のことがあるとはいえ、あまり手の内をさらしたくはない。
しかし、もうすでに付け替えのことがバレてるなら隠す意味もそこまでないか。
それに相手はこちらのステータスを見ることのできる何かがあるみたいだしな。
だったらこの能力のことを話してこの世界においてどれほどモノなのか聞いていた方が有益だな。
「そうだ。俺はスキルを付け替えることができる」
俺は歩きながら、スキルの付け替えとスキルスロットのことを、一通り話した。
「やはりそうか。さすがは伝説の魔物だな」
アルベルトは感心とも呆れともとれるような表情でスキルの付け替えがどれだけのモノか語ってくれた。
どうやらこの能力は思っていた以上に凄いモノだったようだ。
この世界の魔物たちのスキルの保有数はその個体ごとに決まっていて、どんな魔物だろうとその数は有限らしい。
スキルスロットも存在しないし、ましてやスキルの付け替えなどできるはずもないのだそうだ。
となると俺の持つスキルスロットはかなりの反則能力であることがわかる。
何せ相手に合わせてスキルを付け替えて、臨機応変に戦い方を変えられるのだから。
しかし、それは大量にスキルがあればの話。
いくらでもスキルを持てると言っても数個しかスキルのない今の状態では宝の持ち腐れである。
そういえばスキルと言えば、あのトカゲどもと闘りあったときに一つスキルを新しく手に入れていれていたな。
【スキルスロット】
【魔術】
水魔術Lv1 土魔術Lv1 風魔術Lv1 雷魔術Lv1 光魔術Lv1 闇魔術Lv1
【戦闘術】
拳闘術Lv1
【特殊技能】
魔力泉転移 魔力解放 生存本能
あった。
新たに増えた戦闘術というカテゴリー欄に拳闘術Lv1というスキルが存在していた。
もう一つ新たに増えた特殊技能というカテゴリー欄には俺を助けてくれた魔力解放などのスキルが収まっている。
とりあえず戦闘術というのだから、戦闘で役に立つのだろう。
物は試しと付けてみることにした。
【名称】神崎直人
【Lv】12
【種族】人間
【ジョブ】魔術拳闘士
【スキル】
洞察 拳闘術Lv1 超魔力 翻訳能力 火魔術Lv6
ジョブはそれっぽいものに変わったが、実際、大して変わったような感じはしない。
やはりレベルが低いからだろうか。
「何をボーッとしてるのかと思えばまたスキルを変えたのか」
気がつくとアルベルトが虫眼鏡のようなものでこちらを覗き見ていた。
「何だそれは。もしかしてそれで俺のステータスを見てんのか?」
「もしかしなくても、そうだ。これは魔具の識察と言って、これを覗きながら対象を見れば、簡易的なステータスを見ることができる」
「ほぉ〜、そりゃすごい。で、それはいいんだが、魔具ってなんだ?」
「まず、そこから説明しなければならないか……」
アルベルトは溜息をつきながらも歩きつつ、説明してくれた。
世界の各地には超古代に人間たちが作成したとされる、現代にはオーバーテクノロジーの道具、古代魔具が存在している。その力は絶大で、今のヒトの生活の半分は古代魔具があったからこそ実現できたと言われている。
しかし、古代魔具の数は決して多くはなく、どうしても限度があった。
この問題を解決するために大陸各国の首脳たちの会議、後に大陸会議と呼ばれるそれが行われた。
そして話し合いの末、考え出された策は古代魔具のコピー量産だった。
幸いにも現物はあるので、それを模造すればいいだけである。
各国は利害の部分で散々話し争ったが、紆余曲折の末に、それを決定した後、完全中立であるギルドにそれを依頼した。
ギルドはそれを承諾し、すぐにギルドの学者たちは古代魔具の研究に乗り出した。
しかし、すぐにその研究は難航した。
さすがにオーバーテクノロジーと謳われるだけあって、現代の技術では構造は理解できても、完全再現は不可能な代物が半分以上で、それ以外はもはやどんな構造で、何故この現象が起こせるのか全く解明できないという有様だった。
しかし、学者たちもそこで諦めるわけにはいかないので、さらに研究を重ねて、どうにか古代魔具の模倣品を作り出すことに成功する。
だが、やはりというかその効果はオリジナルである古代魔具には程遠く、単なる劣化模倣品でしかなかった。
しかし、それでも効果自体は役に立つものだったので、いつか完全な模倣品ができるまでそれを量産して、使用することが再び行われた大陸会議で決定された。
そしてその劣化模倣品は魔具と名づけられて、量産されて、今では生活に欠かすことのできないものとなっている。
「あー、うん、わかった。よくわかった」
「本当にわかってるのか?」
「わかってるさ。つまり、アレだろ。古代魔具の劣化版が魔具なんだろ」
「……まあ、端的に言えばそうだが」
何だか疑わしげな顔するアルベルト。
ちゃんとわかってるって。
「そういえば、あのモンスターリングも魔具なのか?」
「ああ、そうだが」
「となると、それの元となる古代魔具が存在するってことだよな」
「察しがいいな。その通りだ。どんなものでも支配できるという万物支配という古代魔具らしい。魔具のモンスターリングでは無理だったが、それなら貴様を使役することができたかもしれないな」
うげ。
マジかよ。
「劣化版でも死ぬほど痛いのに勘弁してほしいな」
俺がうんざりしたように言うと、アルベルトは目を丸くした。
「痛い? 痛いのか。リングで使役されるのは」
「あ、ああ。痛いぞ、すごく」
鬼気迫る表情で問われた俺は戸惑いながらも答えた。
俺の言葉を聞くと、黙って俯いてしまった。
〔あんちゃん〕
いきなりどうしたのかと思っているところに足元から声がかかる。
〔あんまり気にせんでええで。あれはご主人の癖みたいなもんやから〕
今まで一度も会話に入って来なかったアイアンである。
「いや、でも」
〔ええからええから。な?〕
遮るように言われて、俺は口を閉じるしかなかった。
「……それはいいけど、お前いきなりしゃべりかけてくるなよ。今まで黙ってたくせに。びっくりするだろうが」
〔わはははは。悪い悪い。前にも言うたけど、わしは小難しい話がわからんからな。黙らざるをえへんねん〕
「少しは理解しようと努力しないのかよ」
〔するわけないやん。めんどくさい〕
身も蓋もない返答である。
〔む、目的の魔力泉が見えてきたで〕
その言葉につられて前を見ると、俺を幾度となく救ってくれた魔力泉が遠くに見えた。




