第十四話:魔物の糧って何ですか?
お久しぶりです。
またちょこちょこ書いていこうと思います。
襲い来る魔物を打ち倒し、威風堂々と立つ伝説の魔物。
その姿は魔物の祖としての貫禄と禍々しさを兼ね備えておりながら、どこか神々しくもあった。
「……」
そんな伝説の魔物、つまり人間―――ナオトの姿を見て、アルベルトは戦慄していた。
以前、彼がナオトを手当てした際に、そのステータスを魔具の識察で初めて見た時、それは伝説の魔物と謳われるには程遠いものだった。
【名称】神崎直人
【Lv】11
【種族】人間
【スキル】
魔力泉転移 魔力解放 生存本能
翻訳能力 警戒
そのレベルの低さ。
たった五つのスキル。
いくら識察が最低限のステータス情報しか見れないからとはいえ、思わず本当に伝説の人間なのかと疑ってしまう始末だった。
しかし、ステータスの種族は人間と表示されているのは間違いない。
数少ないスキルの中には一応、伝説の魔物であることを証明するかのように、その効果までは見れないが、強力なスキルであることを証明する文字持ちのスキルが含まれている。
それでもアルベルトはこんな状態で目的を果たせるのかという不安は拭えなかった。
だが、その不安はたった今、目の前で起こったことを見て、綺麗さっぱり消え去った。
アルベルトはナオトがリザードファイターたちと戦い始めた時、負けることはないにしても多少の苦戦は強いられるだろうと考えていた。
理由は識察で見たリザードファイターたちのレベルは数レベルとはいえナオトより高かったからだ。
レベルの差は、単純に強さの差である。
レベルが高いということはそれだけ基礎ステータスが高いということだ。
たった数レベルとはいえ、軽視することはできない。
故に少しでも楽に勝てるようにと倒し方の助言を与えて、アイアンを手助けに行かせたのだが、それが全くもって大きなお世話だったということが、そのすぐあとに証明された。
圧倒的と言うしかなかった。
ナオトはリザードファイターの攻撃を完璧に見切り、なおかつカウンターを加えて、一撃で屠ってみせたのだ。
レベルで負けている魔物がレベルで勝っている魔物を一撃で倒す。
本来なら絶対と言っていいほどありえないことである。
レベルで負けているということは基本的に基礎ステータスで負けているということと同義だ。
確かに種族によって基礎ステータスには差があるが、それでもレベルで負けていながら一撃で倒すほどのステータスの差などありえない。
だが、現実は一撃で格上を倒してしまっている。
つまり、レベルで負けていながら基礎ステータスで相手を凌駕しているということだ。
「っ...!!」
アルベルトは思わず身震いした。
いや、それよりももっと脅威的なことがある。
ついさっきあまりの強さで気になってもう一度識察で奴のステータスを確認してみたのだ。
【名称】神崎直人
【Lv】11
【種族】人間
【スキル】
洞察 警戒 超魔力 翻訳能力 火魔術Lv6
奴のスキル、自分の記憶違いじゃなければ前と種類が変わっている。
所持するスキルが変化するなど聞いたことがない。
持てるスキルの数はその魔物の成長に応じて増えていくものだが、それでも必ずどんな魔物にも上限というものが存在する。
そしてどれだけ成長しようとその上限以上スキルを会得することはできない。
それはあの魔王ですら例外ではない。
故に魔物にスキルを習得させる時は上限を考慮して習得させるスキルの取捨選択をするのだ。
しかし、もし本当に変化するのだとすればそれが根底から覆される。
スキルを変化させられるのならスキルの取捨選択などする必要がない。
自在にスキルを変化させられるということはつまり、持てるスキルの数が無限大であることに等しいということであり、あらゆるスキルが使えることと同義である。
まさしく万能。
ありえない。反則にも程がある。
その規格外さにしばらく圧倒されていたアルベルトだったが、すぐに冷静に思考しなおす。
この人間の助けさえあれば確実に自分の計画は達成できるだろう。
計画達成後の心配もあったが、それも大丈夫と言える。
既にこれほどまでの強さを持っているのだ。
レベルさえ上がればあの魔王にすら負けないくらい強くなるはずだ。
いや、そもそも全ての魔物の祖と言われているぐらいなのだから魔王以上に強くなるのは当たり前と言えば当たり前の話だ。
そのためにも今はとりあえず人間の能力について把握するために問い質さなければならないとアルベルトは考え、ナオトにゆっくりと近づいていった。
〔なあ、あんちゃんどうした?〕
アイアンに声をかけられて放心していた俺は我に返った。
いつの間にか元の鉄の塊に戻っていたアイアンが足元で俺を見上げていた。
〔あんちゃん?〕
「……いや、何でもない」
〔そうか。ならええんやけど〕
「おい人間」
背後からアルベルトの呼びかける声が聞こえた。
振り返るとアルベルトは何やら難しい顔していた。
「お前に色々聞きたいことがあるが、とりあえず魔素を確保するぞ」
「魔素?」
俺が何だと問う前にアルベルトは早口でよくわからないことを言い出した。
魔素? 何だそれは?
「これも知らないのか。もう突っ込む気も失せる。まあ、説明するより実物を見る方がはやいだろう」
そう言うとアルベルトは俺が頭を爆散させたトカゲの死骸を顎でしゃくった。
つられてトカゲの死体を見ると死体から紫色のもやのようなモノが立ち上っていた。
「あれが魔素だ。魔物が成長、レベルアップするのに必要な要素だ」
〔謂わばわしらの栄養源みたいなモノや〕
なるほど経験値みたいなものか。
「ほら、さっさと魔素を回収して来い」
「……やっぱ近づかなきゃダメ?」
「当たり前だろう。近づかなければ魔素は回収できないぞ」
あの頭が弾けとんだ死体に近づくのは俺の気分的にちょっと遠慮したいんだが。
血もいっぱい流れてるし。
俺は嫌々ながらトカゲの死骸の傍に立ち、魔素と呼ばれるそれをじっくり観察してみた。
遠目で見たら単に紫色をした気体だったが、よく見てみると薄っすらとだが発光しているようだ。ぼんやりと淡い光を発している。
毒ガスとかじゃないよな?
紫色という毒々しさを連想させる色に少し警戒しながら指先をそーっと近づけてみる。
瞬間、それが掃除機で吸われるかのごとく指先に吸い込まれていった。
「おおうっ!?」
反射的に指先を引っ込めるがその時には魔素はもう既に指先に全部吸い込まれた後だった。
魔素を吸い込んだ指先はその影響かわからないが少し熱を持っているのを感じた。
「吸い込んじまったけど大丈夫だよな? 死んだりしないよな?」
「するわけないだろう。落ち着け」
〔あんちゃん不安がり過ぎ〕
ステータスを見る限り特にレベルが上がった様子もない。
本当に魔素は経験値なるものなんだろうか。
そういえば俺Lv1からいくらかレベルアップしていたけど、こんなものを見た覚えがない。
戦ったと言えば魔物使いの魔物どもと戦ったがあの時は倒してもすぐに指輪の中に戻ってしまった。
魔素を放出したとは考えにくい。
そもそも俺には魔素を吸収した覚えがない。
じゃあ何でレベルアップしたんだろう?
「マスターの魔物を倒しても魔素を得ることはできるぞ」
俺の考えていること見透かしたかのようにアルベルトが言った。
「魔素とは魔物の生命力そのもので魔物が瀕死になった瞬間に放出するものだ。リングには魔物の生命力が限界ギリギリの時点で強制的に魔物を回収する安全装置が組み込まれている。だが魔素の放出は瞬間的なものらしく放出する前に回収することはどうしても叶わないらしい」
俺が欲しかった答えをすらすらと述べていく。
とりあえず魔物使いの魔物を倒しても魔素を放出するのはわかった。
それはいいんだが。
「何で俺の考えていることがわかったんだ?」
「顔を見ればわかる」
思わず自分の顔を触ってしまった。
俺そんなに顔に出るぐらい考えていたのか。
顔を揉んでいたらふと足元にいるアイアンが目に入る。
「なあ、俺ってそんなに顔に出てたか?」
〔いや、別に。この場合はご主人の観察力が凄かったと言うべきやな〕
なんだそれ。
その答えに釈然としないものを感じながらもう一つの疑問をアルベルトにぶつけてみる。
「でも俺には魔素を吸収した覚えはないし、ましてや今まで見たことすらなかったぞ」
「貴様はその時逃げるのに必死だったんだろう。そもそも魔素を知らなかった貴様のことだから逃げる途中で気がつかない内に魔素に触れて勝手に吸収したんじゃないのか?」
なるほど。
確かにありえなくもない。
ま、結果的に俺はレベルアップできたんだし何でもいいか。
「おい、回収したなら貴様が吹っ飛ばしたもう一匹の魔素も回収するぞ。魔素は時間が経つと霧散してしまうからな」
「へいへい」
折れた大木の傍に倒れているトカゲのそばへアルベルトに急かされるままに移動した。
〔しかし改めて見るとめっちゃ吹っ飛ばしたな。あんちゃん〕
「これほどとは」
「うっぷ……」
トカゲの死骸は大木にぶつかった衝撃でぺしゃんこになっていて形容し難い状態だった。
さっきの頭が爆散したトカゲよりも酷い。
辺りに飛び散った鉄くさい血の匂いが吐き気を誘ってくる。
「はやく魔素を回収しろ」
「言われなくても今するつもりだ」
こみ上げてくる吐き気を抑えながら俺は魔素に触れた。
先ほどと同じように魔素がしゅるりと指先に吸い込まれていく。
すると不意に体が芯から温まっていく感覚に襲われた。
とても心地よい感覚だ。
「レベルが上がったか」
「え、そうなの?」
慌てて自分のステータスを確認してみる。
【名称】神崎直人
【Lv】12
【種族】人間
【ジョブ】魔術師
【スキル】
洞察 警戒 超魔力 翻訳能力 火魔術Lv6
本当にレベルが前より一つ上がっていた。
「ていうか何でレベルが上がったとわかったんだ?」
「レベルが上がった時は気分がよくなるからな。心地いいと思いきり顔に出ていたぞ」
〔今のはわしでもわかったで!〕
「……」
ポーカーフェイスの練習、やろうかな……。




