八章・告白
昴零と東乱は、虹龍が出て行った扉を見ながら、暫くの間沈黙していた。
先に口を開いたのは、東乱だった。
「いいのかよ、虹龍逃がしちまって」
対する昴零の答えは無い。無視をしていた。
「おい…!」
東乱の声は、一瞬でかき消された。喉に、小さな痛みと流れる生暖かい物。昴零の剣先が、東乱の喉に当たっている。
「だまれ…」
そう言った昴零の声は、虹龍に話し掛ける時とは全く違う、低く冷たい声だった。
「な…に…を…」
東乱の声は、恐怖で苦しそうだ。
次に言った昴零の言葉は、衝撃的なものだった。
「俺は、国王だ」
東乱は、目を見開いた。
「王はさっき、流れ弾にあって死んだ。だから、俺が国王だ」
この時から後々語られる、昴零の恐怖政治が始まるのだが、それはまた、別の話である。
人目を盗んで後宮から出るのは、至難の業だった。虹龍は結局、窓から外へ出た。しかし、戦地となった後宮は悲惨な物で、昨日までの華やかさはもう無かった。
(さようなら、私の育った場所)
最後の別れを告げ、虹龍は走り出した。
(何処だろう?)
虹龍は、考えた。白龍は何処に居るだろう。
立ち止まって考えていると、最悪の事態がおきてしまった。
「あ、あんな所に女がいた!!」
後ろから、男の声がした。
振り向いて見てみると、兵士がいた。しかも、鬼門国の。
さあっと、血の気が引いた。
(見つかった)
今の虹龍には、身を守る術が無い。
兵士が走って近づいてきた。
(逃げなきゃ!!)
虹龍は、全速力で逃げ出した。しかし、相手は兵士。簡単に追いつかれて腕を捕まれた。
「はなしなさいよ!!!」
腕を振り解こうとすると、逆に捻り上げられてしまった。
「ん?こいつ…」
兵士が虹龍の格好を見て、眉をひそめた。
「どうした?」
他の兵士が、近づいてきた。
「見ろよ、こいつの袖口」
「あっ!!!」
兵士は、虹龍の袖口についていた蘭の花の模様を見て、驚きの声をあげた。
「王族の紋章…」
虹龍は
(しまった!!)
と思った。
五天国では、蘭の花は王家の象徴。王族のみが、蘭の花の刺繍を袖に付ける事が許されている。
「こいつ、公主だ」
(どうしてよ)
虹龍は、兵士の声を聞きながら思った。
(どうして。折角ここまで来たのに)
多分、このまま虹龍は鬼門国へ連れて行かれるだろう。公主の地位を捨てた事なんか、相手には関係ない。
(絶対、そんなの嫌だ!!!)
そう、強く思った時だった。
「その手を離せ」
懐かしい声がした。
「誰だ、お前」
兵士が言った。
「離せと言っている!!」
怒気を含んだ声とともに、ドカッ、と音がして虹龍の腕が自由になった。
「大丈夫ですか、公主様」
そう言ったのは、この世で一番好きな人。
「白龍…」
虹龍は、思わず呟いた。
「どうしてここに…晶華は?」
「後陰の宮です。私は公主様を守るためにここへ来たんです」
その言葉を聞いて、虹龍の瞳に熱い物がせり上がって来た。
我慢できずに、虹龍は泣いてしまった。
「公主様?」
白龍は、困惑した。
「…私…もう、公主なんかじゃないよ…。後宮を、でてきたの…。鬼門国へ…行くのが嫌で…逃げてきたの、『公主』から。それでも…私を守ってくれるの…?」
虹龍は、涙混じりに聞いた。
「勿論です」
白龍は、キッパリと答えた。
「あなたが誰であろうと、私は守ります。それを、私は望んでしている」
白龍は微笑んだ。
虹龍の気持ちが、最後の壁を破って表に現れた。
そして、虹龍は白龍の胸に飛び込んだ。
「…好き…」
小さく、しかしはっきりと虹龍は言った。
ども、星蘭です。
今回、最初の方昴零が怖い…。
彼は、また書きたいお気に入りのキャラです。
さてさて、話はどとうの急展開。
虹龍の恋はどうなってしまうのか。
では、次回もよろしくおねがいします。