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七章・難壁

 すくっと虹龍は立ち上がった。扉を開けて、東乱の部屋を出ようとする。

「何処へ行く気だい?」

 東乱が聞いてきた。

「勿論、白龍の所よ」

 虹龍はきっぱりと言った。

「行ってどうする」

「自分の気持ち、言うのよ」

「止めておいた方がいい」

「どうしてよ!!!」

 虹龍は、振り返って叫ぶ。

「じゃあ言うが、白龍は君の事をどう思っていると思う?」

 虹龍は、東乱の言っている言葉の意味が良く分からなかった。

「どういうことよ」

「白龍の気持ちが、お前に分かるか?」

「分かるわけ無いでしょ。他人の気持ちは分からないわ。だから、私は自分の気持ちを伝えに行く」

 伝えなければ、この気持ちもなんの意味も無いものになってしまう。

「…君は自分の気持ちに気づく前、白龍をどんな目で見ていた」

 つまりは、虹龍にとって白龍は何だったかと聞いている。

「黒龍と一緒に私を守ってくれた、大切な護衛で幼なじみよ」

「では、白龍は君の事をどう思ってたと思う」

 虹龍は少し考える。

「分かんないわよ。他人の気持ち…」

「そうじゃない」

 東乱は、虹龍の言葉をさえぎった。

「どう思うかだ」

 虹龍は、また少し考える。

「…幼なじみなんじゃないの?」

「そうかな」

 東乱は、意味深な口調で言う。

「多分『幼なじみ』なんてものじゃないな」

「回りくどいわね。はっきり言いなさいよ」

 虹龍は、東乱を睨む。

「彼にとって君は、王から命じられた役目の一部だよ。護衛だから守るわけであって、それは王からの命であるからだ。君は彼にとって『虹龍』では無く『公主様』だ」

 東乱の言葉に、虹龍は目を見開いた。

「そんな、白龍は…」

 言いかけて、虹龍はフッと思った。

 名前を呼んでもらったことは無い。いつも彼は『公主様』と呼んでいた。確かに距離を置いた呼び方。

「白龍は、私に優しくしてくれた…」

 虹龍は、呻く様に言う。

「当然だ。君は王族の、しかも王と王后の正統な公主。そして守るべき存在」

 虹龍は、頭を抱えた。

 言われてみれば、白龍は虹龍に優しすぎたではないだろうか。

 本当に虹龍を好きになってくれた黒龍は、『虹龍』と呼び捨てで呼んでいたし、遠慮も何もなかった。『公主様』でなくて『虹龍』を好きになってくれていた。

(そんな…)

『私、白龍が好き』

 頭の中で、白龍に告白する自分の映像がながれる。

『公主様…』

 答えようとする白龍の顔は苦しそうだ。

『私は、公主様の気持ちには答えられません。公主様と私では、身分が違いすぎます』

 彼はきっと、そう答える。

 公主と護衛の間には、確実に一つの、それも厚く高い壁があるのだ。まさに「難壁」と呼ぶにふさわしい物が。

「それでも…」

 虹龍は、拳を握り締める。

「それでも、私は白龍が好き!」

 何があろうと、変えられない感情。それが恋心。

 フッと、東乱は窓の外を見る。

「今君を鬼門軍の兵に渡せば、彼らは攻撃を止めてくれるかもしれない。王宮にいる何人もの人が助かる」

 王宮の人の変わりに、虹龍に犠牲になれと言っている。

「あの人たちが欲しいのは『公主』よ。だったら私は『公主』を辞めるわ。王宮からも出て行く。贅沢な生活なんていらない。白龍にも、私として告白してくる」

 虹龍はうつむいて、微笑む。

「最初から、『公主』なんて嫌だったのよ。自由も無い、今回だって『公主』ってだけで『私』の気持ちは無視。そんなの嫌だわ。私は『私』よ」

「そうだな」

 急に扉の外から声がして、虹龍と東乱は驚いた。

 扉を開けて入ってきたのは、昴零だ。

「本当は虹龍を迎えに来たんだけど、どうやらその必要も無いみたいだ」

 そう言いながら、昴零は虹龍に近づく。

「王宮の者は皆、『後陰ごいんの宮』に避難した」

 後陰の宮とは、王宮の北の森の中にある宮殿で、殆ど使われていない。その昔、王が自分の母親や、退位した父親を厄介払いするために使われていた、なんとも嫌な感じのする宮殿だ。が、今回の様にも使える。石造りで火に強いし、しっかりしているので雨風も防げる。

「東乱も早く行け。ここはもう安全ではない。そして虹龍」

 昴零は、真剣な顔で言う。

「公主を辞めるならもう後陰の宮にも連れて行けない。誰も助けてくれない。それは白龍君や黒龍君も、ということだ。自分で何とかしなくてはいけない。後宮育ちの女には苦しいぞ。それでもいいか?」

 昴零の言葉を聞き、虹龍は頷いた。多分、昴零にも、もう会えなくなってしまうだろう。そう思うと、涙が溢れそうになる。しゃべったら、なおさらだ。

 昴零は微笑み、そして虹龍を抱きしめた。

「お前は私にとって大切な妹だ。公主じゃなくても、それは変わらない」

 昴零は虹龍を放す。

「今までありがとう。ばいばい」

 虹龍は別れの言葉を言い、そして部屋を出た。

 扉を閉めた瞬間、瞳から涙が溢れた。

 手の甲でそれを拭うと、虹龍は廊下を走り出した。



 白龍の元へ。



 もう、後ろは振り向かない。

 こんにちは。

 今まで以上に、早く話が書けました。自分でも驚きです。

 今回、虹龍と昴零の別れのシーンを書きながら

「永遠の別れ。悲しいけど、それほどまでに虹龍は白龍のことが好きなのね」

とか思ってました。

 さてさて、話もあと少しで終わるでしょう。

 恋心という名の感情で、少し成長した虹龍を見ていって下さい。

 あと、感想なんかもらえると嬉しいです。

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