三章・大罪
ひとしきり泣くと、虹龍も落ち着いたようだ。
「ごめんね、白龍。もう、大丈夫だから」
そう言って、その場を去ろうとした。
「どうして泣いていたか、聞いてもいいですか」
「なんでも…ないよ」
「黒龍ですか?」
聞かれて虹龍は、言葉に詰まった。
「黒龍は…悪く…」
悪くないよ、と言おうとしたが、無理だった。
「うっ…」
再び虹龍は泣き出した。
廊下で立ち話も良くないと、2人は白龍の私室に行った。
全てを話すまでに、少し時間がかかった。といっても、ほとんどが虹龍が泣いたからだ。
「そう、だったんですか」
虹龍が話し終えると、白龍はそう言った。
「まさか…黒龍が、私の事…」
虹龍の声は、涙に掻き消された。
スッと、白龍が立ち上がった。
「?どうしたの?」
虹龍は、白龍を見上げた。
「黒龍、まだ公主様の部屋にいますか?」
「多分。なんで?」
「黒龍は、大罪を犯した」
白龍は、冷たく言った。
「え!?」
虹龍は、驚きの声をあげた。
「どういうことよ!」
「公主様は、王族の女性です!!王は、かつて1代目国王が天帝から任命され、代々受け継いできた役目!その王族の女性に手を出すなど、言語道断です!!わが弟ながら嘆かわしい…」
そう言うと白龍は、部屋を飛び出した。
「ちょっと、白龍!」
虹龍は、白龍の着物を必死でつかんで止めた。
「公主さ…」
「もういいから!」
虹龍は、叫んだ。
「黒龍にだって、気持ちはあるんだから。ね、」
虹龍の言葉に、白龍は
「…分かりました…」
と、言った。公主の命令なら、聞かぬわけにはいかないのだ。
「テメェは相談しに来たのか?ノロケ話しに来たのか?」
王宮の庭に座った晶華が、虹龍を睨んでいる。
虹龍が、黒龍事件(?)の事を話すと、晶華はそう言ったのだ。
「へ?なんで?思いっきり相談じゃん」
虹龍は、怪訝な顔で晶華を見る。
「まるで、『私は黒龍に惚れられました』って、自慢してるみたいよ」
晶華は、溜息混じりに言った。
「そうかなぁ〜?」
虹龍は、腕を組んで考える。
「ねぇ、虹龍」
「ん〜?」
「あんた結局、白龍さんと黒龍、どっちが好きなの?」
聞かれて虹龍は、目を丸くして晶華を見る。
「なんで、そうなるのよ!!」
「好きじゃないの?」
晶華は、首を傾げた。
「そっ、そんなんじゃないよ。白龍も黒龍も、私にとっては護衛で恋愛対象じゃない」
そう、そういう風にしか思った事は無い。
「ふ〜ん…」
そう呟くと、晶華は立ち上がった。
「そう、そう。あの2人は護衛なのよ」
「じゃあさ」
晶華が虹龍を、ニヒルな笑顔をして見る。
「あたしが何しても、恨まないでね」
晶華はそう言うと、虹龍に背を向けた。
「え?晶…」
呼び止めようとする虹龍を無視して、晶華は駆けて行ってしまった。
次の日。
部屋の中に、嫌な空気がわだかまっている。いるのは虹龍、白龍、黒龍。白龍は、黒龍の昨日の事が後を引いてるらしい。黒龍も、昨日虹龍の告白して逃げられた事が神経を逆なでしている。虹龍は昨日の事で、黒龍が何かしてこないかということより、白龍が命令を無視しないか(まあ、白龍はそんなことしそうにないが)心配だった。
と、無音の中に雑音がした。
タッタッタッタッ…
それは、廊下から聞こえてくる。
「?」
3人とも、廊下の方を見る。
ダッダッダッダッ
足音だ。しかも、1人ではなく複数だ。
「なんだ?!」
黒龍が言った。
後宮は安全な場所だ。こんな騒ぎになることなど滅多に無い。
バンッッと盛大な音を立て、扉が開かれた。
「無礼な…」
何ごとです、と虹龍は言おうをして息を呑んだ。
入ってきたのは軍人だった。しかも、王直属の火官の軍だと、鎧で分かった。
「公主護衛・壁雪(白龍)!!」
将軍らしき男が、そう叫んだ。
「汝を公主・虹龍様に手を出した疑いにより、捕らえる!!」
「え!!?」
驚きの声を発したのは、白龍ではなく虹龍だった。
「どういうことよ!!」
虹龍は、将軍に掴みかかった。
「昨日、公主様と壁雪が後宮の廊下で抱き合ってるのを、女官が見ています」
将軍は、虹龍にそう言うと白龍に向き直る。
「公主様は、すでに鬼門国王への婚姻が決まっている」
鬼門国とは、その名のとおり五天国の鬼門・北東の国だ。正式名称は文羽国。しかし、長い間この2国は仲が悪く、時折戦争もしている。
「そんな公主様に傷をつけることは許されない事。これは大罪に値する!連れて行け!!」
将軍が言うや否や、何人かの兵士が白龍を捕まえにかかった。
「おい!白龍兄に何するんだ!!」
兵士に飛びかかろうとした黒龍を、白龍が
「やめろ!大丈夫だから。今は、1人でも公主様を守るんだ!!」
と言って止めた。
兵達が白龍を連れて行くのに、あまり時間はかからなかった。
「…どういうことよ…」
虹龍は、震える声でいうと部屋を飛び出した。
父、国王のもとへ。
「お父様!!」
虹龍は、王の仕事室へ飛び込んだ。ココはもう、後宮ではない。
国王は、顔を上げた。
「なんだ、虹龍。あぁ、白龍君のことかい?」
国王は、笑みすら浮かべた顔で言った。
「私は白龍のこと許すから、捕まえないでよ」
「それは、できないよ」
「どうしてよ!!」
虹龍は怒鳴る。
「お前はもう、鬼門国への嫁入りが決まっている。そうすれば、鬼門国はもう五天国に攻撃してこないって。そのために、彼は邪魔なんだ」
「なんでよ。そんな政略結婚認めないわ。なんで、私に何も言わずに、」
「言おうとしたが、取り合わなかったのはお前だよ」
国王の言葉に、虹龍はハッとした。
「何回も呼んだのに、無視したのはお前だ。鬼門国からも、返事をせがまれてね」
虹龍は自分がした事への後悔と、国王の、自分の父の言葉にショックを受け、その場にへたりと座り込んでしまった。
自らの父が、自分を政治の道具にしたのだ。
お久しぶりです、星蘭です。
今回、白龍が捕まってしまいましたね。
晶華もなんか、意味有りなこといってるし。
ま、何がなんだかは、次回で!
雑談ですが、最近私は大変でした。
テストは2ヶ月連続であるし、
風邪ひいて学校2日休んで、2日早引きするし。
「治った〜」
って思ったら、謎の頭痛が…。