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二章 衝撃

「あ〜!!!」

 虹龍が、大絶叫を上げた。

「ちょっと黒龍、ひっどーい!!」

「え?」

 黒龍は饅頭を頬張りながら、何事かという目を虹龍に向ける。

「そのお饅頭、私のじゃなーい!何で食べちゃうのよ〜!!」

「え?そうなの!?ごめん!!」

 黒龍は手の中の饅頭を見る。

「あとで同じの買って返すから、許して!」

「だめなのよ!それ、売ってない『南瓜饅頭』なんだから!」

 白龍と黒龍は、何だそれは、という目で虹龍を見た。

「桂鈴さん(女官)が作ってくれたのよ。中の餡が、南瓜の味なの。試作品みたいで、売ってないのよ〜」

 黒龍は、手の中の饅頭を見る。確かに餡が山吹色だ。

「う〜、酷い〜」

 虹龍は涙声で言う。

「黒龍、お前って本当に『問題機動者トラブルメーカー』だな」

 白龍は、呆れた声で言う。

「ごめん。許してくれるなら、何でもするから」

「ほんと?」

 虹龍は期待の目で、黒流を見る。

「ほんと、ほんと」

「じゃあ、最近ムカつくこと多いし、殴らせて」

 部屋に一瞬沈黙がおちる。

「えっと…それは…」

 黒龍の声は、確かに狼狽している。

「だめなの?黒龍は嘘吐いたんだね。この、饅頭泥棒!!」

「何だと!?」

「そうじゃん!ドロボー!」

「五月蠅い!たかが饅頭1つだろーが!馬ー鹿!!」

 ブツッ

 虹龍の頭の中で、音がした。

「言ったわね…」

「言ったよ!」

 2人の間の空気は重い。

「覚悟しろ!この黒男!!」

「望むところだ!馬鹿公主!!」

 2人がつかみかかろうとした。

「おい、いい加減に…」

 白龍が仲裁に入ろうとしたときだった。

 コンコン

 扉をノックする音がした。

「お〜い、虹龍いるか?」

「あっ、昴零兄様?」

 扉を開けると、金と銀を混ぜたような不思議な光沢の髪と、真紅の瞳を持つ青年がいた。

 これが、五天国第一太子で次期王の、昴零アンレイだ。

「どうしたの?」

「暇だったから、来ただけだけど…」

 そう言うと昴零は、口元だけ笑わせる。

「昨日、父上を無視したらしいね。師走長が困ってたよ」

「無視なんかしてないわ。丁重にお断りしたのよ」

 虹龍は、溜息混じりにそう言う。

「あっ、そうだ」

 昴零は、白龍の方を振り向く。

「父上が良いってさ。訓練時間もずらしてくれるって」

「そうですか。お礼を伝えておいて下さい」

 そんな2人のやりとりを聞いて、虹龍は首をかしげる。

「何のこと?」

「白龍と黒龍。2人の訓練の時間を、ずらしてくれってさ」

 昴零は笑いながら言う。

「たっ太子様!!」

 白龍が困ったような声を上げた。

 どうして?、とでも言いたそうな様子で、虹龍は2人を見上げる。

「まっ、また公主様に勝手に、私達がいない間に後宮を抜け出されてはいけませんからね」

 そう言った白龍の顔は、少し赤かった。いつも彼の顔を見ている者でしか、分からないようなものだったが。

「白龍…」

 虹龍の胸が、ドキンと鼓動を打った。

 それほどにまで、白龍達は自分を心配してくれてたのだ。そう思うと、喜びがせり上がってくる。

「ありがとー!大好き!!」

 そう叫びながら、虹龍は白龍の背に抱きついた。

「ー!」

 白龍は、声にならない叫びを上げた。

「あはははははははは!」

 昴零は、腹を抱えて笑っている。

 しかしここにいる者は、白龍にしろ、昴零にしろ、虹龍の行為を子供の行動のように見ていた。異性に抱きつこうが、たいした意味を持たないものと思っていた。

 そう。ただ1人を除いては。


「う〜…」

 次の日、虹龍は自分の部屋で変な声を出していた。

 そんな虹龍を、変なものを見る目で―本当に変なのだが―見ていた。

(あーぁ。最初は嬉しかったけど、四六時中護衛つきっきりってのも、なんかやだなぁ)

 今までは白龍と黒龍が訓練中は、虹龍は1人で考え事したりなど、自分だけの時間をすごしていた。しかし、つきっきりとなるとそれができない。けっこう嫌なものだ。

「さっきから変だぞ。虹龍」

 黒龍が聞いてきた。

「え?あぁ、何でもないんだけどね…」

 黒龍は喧嘩っ早いがその反面、単純で傷つきやすかったりする。護衛つきっきりが嫌だといえば、多分深く傷つくだろう。

「そうか。ならいいけど…」

 そう言うと黒龍は、手元の本に視線を戻した。

 そういえば、と虹龍は思う。

(こんなに長い時間を、黒龍と2人きりってのも初めてか)

 いつも虹龍、白龍、黒龍と3人でいるから、黒龍と2人きりになるのは白龍がトイレに行くときくらいだ。そのときも、対外は短い時間の間に喧嘩をして、そこに帰ってきた白龍が仲裁に入るといった具合だ。

 しかし、こんなに長い時間となると、部屋の中に嫌な沈黙がただよう。

 はぁ、と虹龍は溜息をついた。

「白龍兄のことでも、考えてるのか?」

 急に黒龍にそう聞かれ、虹龍は目を丸くして彼を見た。

「なんで、白龍がでてくんの?」

 虹龍がそう言うと、黒龍は真面目な顔をして

「虹龍は、白龍兄のこと、どう思ってる?」

と、聞いてきた。

「え?う〜んと…」

 虹龍は考えた。

(白龍のこと?護衛ってだけじゃないよなぁ…)

 そう考えていくと、分からなくなってしまった。

「分かんないなぁ」

「じゃあさ、俺のことは?」

 そう言われて、虹龍は

「は?」

と、思わず言ってしまった。

「あのさ。いつも、白龍兄がいて言えなかったから今言うけど」

 黒龍の顔は、珍しいくらい真面目だ。

「俺は、虹龍のことがずっと前から好きなんだ」

 虹龍は、目を点にした。

 2人の間の嫌な沈黙が、濃度を増した。その時間がどれほどだったか、虹龍には分からない。ただ、長いようで短い間だった。

 先に口を開いたのは、黒龍だった。

「どうなの?」

「どっ、どうなのって…」

 虹龍は、言葉に詰まった。

 黒龍の事は確かに好きだ。ずっと護衛をしてくれた、大切な幼なじみだ。それは、白龍においても同じだ。しかしその好きは、男女のそれではない。…と思う、多分。

「やっぱ、白龍兄の方が好きか?」

「そんなんじゃない!」

 虹龍は思わず叫んだ。

「そんなんじゃ、ない。黒龍も白龍も、同じくらい好きだよ。でも、それは黒龍の言っているのとは、違う意味で」

「納得いかねえよ」

 黒龍の声は低い。

「俺は、虹龍が好きだ。だから…」

 黒龍は、虹龍の腕を掴んだ。

「だから!」

 黒龍は、声を荒げる。その声に、虹龍は恐怖を感じた。

「そっそんなの、答えられない!!」

 そう叫ぶと虹龍は、黒龍の手を振り解いて、部屋を飛び出した。

 虹龍は後宮の廊下を、がむしゃらに走った。自分が何処へ向かっているのか、それすらも分からなかった。

(どうして…)

 どうしてこんなことになったのだろう。黒龍は虹龍にとって、大切な幼なじみで感謝するべき護衛だった。それがどうして…。

 ドンッと、何かにぶつかった。壁ではない。そんなに硬く、ぶつかって痛いものではなかった。

「どっどうしたんですか?公主様」

 顔を上げると、白龍がいた。彼は虹龍の顔を見て、驚いている。

「白…龍…」

「何があったんです?お泣きになって」

 虹龍の目から、再び涙が溢れてきた。

 そして、そのまま白龍の胸にしなだれかかって泣いた。

第二章です。

やっと、恋愛ものっぽくなってきましたね。

これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

そういえば、一章で誤字がありました。

虹龍の、

「えっと、そういうわけじゃないの。たしかにこれは高価なものだけど…」

が、

「たしかにこれは高価なものでけど…」

に、なってました。

(「でけど」って、何?)

本当にすいませんでした。

では、また三章のこのスペースで、お会いしましょう。

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