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一章 虹龍

 彼女は寝台の上で、目覚めた。

 部屋の中は、暗い。

 彼女はハァと溜息をついた。

「懐かしい…」


 五天国・後宮

 かつて天帝が創り、王が治める王国だ。その後宮は王が暮らし、その王后(王の妻)、太子(王の息子)、公主(王の娘)、そして彼らの世話をする女官や宦官(後宮に勤める男性)がいる。

 現国王には、20になる太子、18になる太子、そして15になる公主・虹龍がいる。


「あぁ。懐かし…」

 朝食後、虹龍は呟いた。

「何が、懐かしいんだ?」

 黒い髪の少年が聞いた。歳は虹龍と同じくらいだ。

「黒龍覚えてる?あんた達が私の護衛になったころ広ーい花畑に行ったことがあったでしょ。私とあんたが5歳のときだから、もう10年前になるかしら」

「ああ、覚えてる」

 黒髪の少年・黒龍が言った。

「辺り一面花だらけだったよな」

 黒龍は、懐かしそうに言う。

「白龍も覚えてるよね」

 虹龍は、もう一人の男に問うた。

 その男は黒龍に似ているが、白髪で瞳は銀、二人より2,3歳年上だ。

「はい。本当に時が経つのは速いですね。10年前というと、私は8歳の時でしょうか」

 白髪の男・白龍は、敬語でそう言う。

「白龍はあのころから、大人っぽかったよね」

 虹龍が言った。

「しかもあのころから、白龍兄は律儀で細かくて手先が器用で、しかも特技は裁縫…」

 ゴンと鈍い音がして、白龍の拳が黒龍にあたった。

「ーっ!いっっってぇっ!」

「お前が余計なこと言うからだ。公主様、こいつの言ったことは忘れて下さい。」

白龍は苦笑しながら言った。虹龍は小さく笑っている。

「そうだ。黒龍、髪いじらして」

 五天国では、男性でも髪が長い。白龍も黒龍も、腰まである髪をうなじの所で縛っている。

「なんで、俺の髪なんだよ」

「黒龍の髪って、すっごい綺麗なんだもん。それ、お母さん譲りなんでしょ」

 白龍と黒龍の母は、11年前に他界している。虹龍に会う少し前だ。

「別いいけど、女みたいにしたあげく、簪挿すのやめろよ!あれ、重いんだよ」

 黒龍は、虹龍を睨んだ。

「え〜」

 虹龍は、ふてくされたように言う。

「嫌だったら、白龍兄にしろ」

 黒龍に言われ、虹龍は白龍の髪を見た。

「白龍の髪って、手入れして無くてパサパサ…」

 虹龍が白龍の髪を触った。確かに硬く水気が無い。

「どちらかと言うと、私が公主様の髪をいじるのでは?」

 白龍は虹龍の後ろに回り、髪をいじくりはじめた。

「そっか、白龍器用だもんね」

「それは、忘れて下さいと言ったでしょう」

 白龍の手が震えた。

「はいはい。どうせなら可愛くしてね」

 虹龍は、笑い混じりに言った。

 と、それを見ていた黒龍が、

「白龍兄ずるい!俺にもやらせろ」

と、虹龍の着物の袖を引っ張った。

 ビリッ

「あー!」

 虹龍は、自分の袖を見た。それは少し破けている。

「黒龍、お前というやつはぁ…」

 白龍は、黒龍を睨んだ。

「ごっごめん!虹龍!許して!!」

 黒龍は、急いで謝罪した。

「うん。別にいいんだけどね…」

「もっ、もしかしてすごく高価な着物だった?」

 黒龍は、震える声で聞いた。

「えっと、そういうわけじゃないの。たしかにこれは高価なものでけど…」

 虹龍は、袖の破れを示す。

「こんな小さな破れでも、女官は怒るのよ。もう着れなくなっちゃうのが勿体無くて…」

 虹龍は白龍を見て、ポンと手を打った。

「白龍、裁縫が得意ならこれ縫って」

「は?私がですか?(って言うか、そのこと忘れて下さい)」

「お願い!女官に見つかる前に」

 そう言うと虹龍は着物を脱いだ。

 といっても、何枚も重ね着してるので、1枚脱いだところで何があるわけでもないが。

「別にいいですけど、この部屋、裁縫道具あるんですか?」

 白龍は虹龍に聞いた。

「えっとねえ…」

 虹龍は、棚の中を捜した。

「あった」

 そう言って虹龍の持ってきた裁縫道具は、何年も使われてなさそうな物だった。

「はい、どーぞ」

 虹龍は裁縫道具を白龍に渡した。

 白龍はそれで、見事に着物を直してゆく。

「おー!」

 虹龍と黒龍が、そんなことを言って見ている間に、白龍は着物を直してしまった。

「わーすごいすごい!」

 虹龍は、渡された着物を見てそう言った。

「あの、これくらいは女の子なら出来なくては…」

 白龍は、困ったように言う。

「だって、白龍すごいじゃん!私だったらこうは、いかないもん」

「おい、裁縫で男に負けてるようじゃ、嫁行けねーぞ」

 黒龍が、笑いながら言った。その言葉に、虹龍の表情が凍りついた。

「どうしました?」

 白龍が、心配そうに聞いた。

「私もさ、やっぱりお嫁に行くのかな」

 虹龍は寂しそうに言う。

「父様がね、私にお見合いしろって。次期王になる太子や、他に兄弟のいない公主が、お見合いするのは分かるの。その子供は王になるし、やっぱ、立派な家の人でないといけないのかもって。でも、私には兄様が二人もいて、私の子が王になることはないわ。それだったら、私の相手は私が決めたい。でも、父様は絶対お見合いするって。それが私の幸せなんだって。でも、私は違うと思う。父様が決めた私が全く知らない人より、私が決めた愛する人と結婚したい。でも、こんな私を好きになってくれる人いるのかな…」

「こっ公主様?!心配なさらずに。私が裁縫得意なのは、私が母の手伝いをしていたからです」

 白龍が早口に言った。

「手伝い?」

「はい。私と黒龍の父は、私が4歳のとき死んでしまいました。母は幼い黒龍と私を育てるため、針仕事をしてました。わたしもそれを手伝っていたので」

「そうなんだ。初めて聞いた。」

「だから」

 白龍は虹龍の頭に手を置いた。

「心配なさらなくても大丈夫です。公主様は、十分女らしいです」

 白龍の言葉に、何故か虹龍は泣いてしまった。

「うん。ありがとう…」

「それに」

 と、黒龍は言う。

「もし結婚できなかったら、俺がもらってやるよ」

「え〜。黒龍とだと大変そう…。まともに大人になれるの?」

 虹龍は笑い混じりに言った。

「なんだと!」

 黒龍は、顔を真っ赤にして怒った。

「いいから公主様は、着物着なさい」

 白龍は直した着物を見て言う。

 こんな楽しい日が、ずっと続けばいいな

 虹龍はそう思うのだった。


 王宮の庭。

 この庭は後宮とは違い、誰でも入れる。

 虹龍がそこへ行くと、先客があった。

 金の髪をしたその少女は、虹龍と同じくらいの歳だろうか。こちらを振り向く。

「あら虹龍。久しぶりね」

「本当に。相変わらず元気そうね、晶華」

 虹龍は、五天国宰相が娘・晶華に言う。

 五天国の地位はまず、王の下に宰相、その下に各官府、州候というふうになっている。各官府は、木・土・水・火・金の5つで、木官モッカンは法律管理・罪人の処罰、土官ドカンは土地・戸籍、水官スイカンは勉学・職業・他国との貿易、火官カカンは軍事、金官キンカンは王宮内の諸事・祭祀を受け持つ。州候は五天国の、天・木・土・水・火・金の6つの州の中、木・土・水・火・金に1人づついる。そして宰相とは、王の補佐・5官府の取りまとめ・王と供に王都天州の政等をしている。

「公主が護衛も連れず、後宮から出てもいいのかしら?」

 晶華は、笑いながら言う。

 王位を狙う者は少なくない。そういう者にとって、公主はかっこうの人質だ。

「あいにく、今2人は訓練中です。暇だから抜け出して来ちゃった。どうせ、王宮内に変な人が入ってくることなんて、滅多に無いもの」

 公主の護衛となれば、大切な役目だ。白龍と黒龍は、日々訓練を怠らない。

「虹龍はいいわよね。あんなカッコいい男2人が護衛で」

「そう?」

「そうよ。とくに白龍さんは、大人の男の人だもの」

 晶華のその言葉に、虹龍は眉を顰めた。

「でも、あの2人といると大変よ。今日だってここ、破られたのよ」

 虹龍は袖を示す。

「それはその分、楽しいって事よ」

 晶華は虹龍の袖を見る。

「直ってる…」

「あぁ!白龍がね、直してくれたの。お裁縫得意ないんだって」

「ふ〜ん」

 晶華はそう言うと立ち上がり、虹龍に背を向けて歩いて行った。

「あれ?もう帰るの?」

「うん」

 晶華は振り向かずに答えた。

「虹龍…」

「ん?」

「あんた、何でも私に話してくれるのね」

 そう言うと、晶華は走って行ってしまった。

(何だろう?変なの)

 虹龍はその程度にしか思わなかった。


「公主様」

 突然後ろから呼ばれ、虹龍は振り返った。

「あら、師走長」

 そこにいたのは、水官の他国貿易長・師走長だった。

 水官の中で、勉学を受け持つのは神無、職業を受け持つのは霜、他国貿易を受け持つのは師走と言う。

「こんな所にいましたか。捜しましたぞ。主上がお呼びです」

「父様が?あなたをよこして来るってことは、お見合いの話でしょ」

 虹龍は溜息をつく。

「そうです。そのことを話すので…」

「師走長!」

 虹龍は師走長の言葉を、無理矢理切る。

「私は見合いをするつもりはない、と言っといて」

「しかし…」

 師走長は困ったような、声をあげる。

「いいわね」

「公主様ぁ…」

 師走長の言葉を、虹龍は無視した。


 虹龍が後宮に戻ってくると、廊下で2人の女官が話していた。

「あーぁ。私も公主だったらなぁ…」

「白龍様と黒龍様に、護衛に就いてほしーなーってこんたんでしょ?」

「なっ何よ!ただ単に、絹の着物や玉の簪が…!」

「あははははっ!赤くなってるー」

 その女官は腹を抱えて笑う。

「まったく。そう言うあんただって、同じこと考えてるくせに!」

「ま〜あ〜ね〜」

「ねぇ。何の話?」

 虹龍が言った。

「あぁ公主様。公主様の護衛がカッコいいって話です」

「カッコいい?あいつらが?」

「何を言います!」

 女官は声を荒げて叫んだ。

「あのお2人。とくに白龍様は、切れ長の瞳にスッととおった鼻!勉学にも武術にも長けていて、大人の魅力を感じます!!」

 そう言った女官は、虹龍と同じ位の歳だ。

「黒龍様も、あの凛々しい瞳!元気な笑顔!美しい黒髪!勉学は白龍様には劣りますが、武術は五天国でも高位の方です!!」

 2人の勢いはすさまじい。

「そ、そう?」

 虹龍は半ば、ビクつきながら聞いた。

「そうですよ。公主様は、お2人と幼なじみだから気が付いてないのかも知れませんが、あのお2人は間違いなく美男子です。できることなら、公主様と入れ替わりたいと思う者もいます」

「公主って、そんないいものじゃないわよ」

 虹龍はそう言うと自分の部屋に戻ろうと、廊下を歩き出した。


 確かに、虹龍は自分の公主という立場を、よく思ってはいない。虹龍は後宮から出ることがほとんどない。先にも述べたとおり、公主を狙っている者がいるため出さしてもらえないのだ。そして、後宮には王族と女官、宦官、そして白龍と黒龍のような特別なものしか入れない。宰相の娘である晶華も、後宮には1歩たりとも入れない。なので虹龍も、なかなか晶華に合えないのだ。

 そして、女には政権がない。虹龍のいる時代から500年位前、1人の女帝が即位したがその治世は短く、戦乱も呼び起こした。それ以前も女は政を行わなかったが、それからの女人への政の眼は厳しくなった。

 それなのに王の娘というだけで、見合いをさせられる。中には政略結婚させられて、他に好きな男がいるのに無理矢理好きでもない男と結婚させられる者までいる。

(理不尽なことだ…)

 虹龍はそんなことを考えながら歩いていた。

 と、フイに声をかけられた。

「オイ!虹龍!!」

 虹龍は後ろを振り返った。

 そこには白龍と黒龍がいた。2人は虹龍に駆け寄ってくる。

「何処言ってたんですか!心配しましたよ!!」

「無茶苦茶捜したぞ!何かあったらどーすんだ!!」

 2人は大声をあげる。

「ごっごめんなさい…」

 虹龍はうなだれた。他の官から言われたのではこうは行かない。虹龍は2人に言われたからこそ、素直に謝れたのだ。

「まったく。公主様に何も無かったならいいですけど、本当に怒ってるんですからね!」

 白龍はそう言うと、虹龍の横を歩く。

(怒られた…)

 虹龍はショボンと俯いた。

 いつも白龍は虹龍に甘い。その白龍に怒られるといつも以上に、悪いことをしたような気になる。

「おい、虹龍」

 黒龍が話し掛けてきた。

「あんまり気を落とすなよ。白龍兄も俺も、本当に心配したんだからな」

 黒龍にそう言われ、虹龍は白龍を見上げる。その背は頭1つ分以上違う。

「私達は、公主様をお守りするためにいるんです。そのために後宮にも入れるんですから、守れなかったら意味ないでしょ」

 白龍は振り向かずに言う。虹龍の中から嬉しさがこみあげてきて、思わず白龍に抱きついた。

「こっ公主様??!!」

 白龍の声は、完璧に裏返っている。

「絶対、絶対、もう危ないことしないから。だからね」

 虹龍は黒龍の腕を引いた。

「2人ともずっと私を守ってくれる?」

 虹龍のその問いに、白龍と黒龍は

「もちろん」

と、言った。

 やっと第一章です。

 とりあえず、ここまで読んでくれてありがとうございます。この上なくうれしいです。

 次回もよろしくお願いします。

 なんとなく、キャラのプロフィール載せときます。


主人公・虹龍

虹龍は、あざな

本名は、氏・ギョク名・シュ

公主という立場を良く思ってない。

まだまだ子供でやんちゃ。


護衛・白龍

虹龍同様、白龍は字。

本名は、氏・ヘキ名・セツ

虹龍に、他人行儀で接する。

しっかり者で、大人っぽい。


護衛・黒龍

名・ウン

白龍と反対で、子供っぽい。

お調子者で、トラブルメーカー。


親友・晶華

本名は、氏・セキ名・ヨウ

物静か。というか、暗めな性格。

女の子らしく、恋に興味があるらしい。

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