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神様からの贈り物  作者: 雷稀
残酷な贈り物
3/6

天国からの目隠し

さてさて。ずるずると「神様からの贈り物」シリーズ五作目。

今回はバッドエンドの方の番外編…というより、その後の物語となっております。


それでは、どうぞ。


きみを殺して半年が経った。

残ったのはやり場の無い気持ちと、きみの影だった。



きみを殺したその日、僕は逃げた。

刺さるナイフを手に握らせただけの工作。

それだけで、障害を抱えて居たきみは自殺と判断されてしまった。


いつ真実が発覚するか分からない不安と恐怖に押しつぶされながら、大学の入学式を迎える。

きっときみほどじゃなくても、僕の心はぼろぼろだった。


入学して暫くすると、桜並木のところに見慣れた背中が佇んでいた。

まるでそこだけ現実世界から切り離したように、その存在は儚い。

触ると消えてしまいそうなそれは、白いワンピースを纏っている。


きみだろうか。

間違えるわけが無い。十数年寄り添ってきたのだ。この背中は確かにきみだった。

近づいて、恐る恐る触ろうとする。

足音に気付いたのか、警戒心の強い小動物のようにきみが跳ね上がり、閉じた目をゆっくりと開けた。


また、目、見えるようにならないかなぁ。


きみはぱくぱくと口を動かし、やがて微笑んで桜吹雪と共に散っていく。

早咲きだった桜は、もうすっかり深緑に染まっていた。



春の出来事を忘れられないで居ながら、半年が過ぎた。

秋も本番に差し掛かり、銀杏の木が一際人気を集めている。

帰り道、大学の友人と別れてから、何気なく桜並木を通ってみた。

暫く通らなかったそこは、主役を取られていじけているような桜達が、緑の体を揺らしている。


自転車を止め、土手の斜面に寝転がる。針のような芝生が、今は心地よかった。

下流の川を眺めていると、不意に目の前が真っ暗になった。

貧血などではなく、まるで誰かに視界を塞がれているような違和感。

しかし顔には人肌の感触など無く、ほんのり温かい空気が僕を纏っているだけだった。

これはきみの体温だろうか。

そんな考えに至るほど、この温かさはどこかきみに似ていた。


塞がれて居るのなら同じだと、目を瞑る。きみの温かさを楽しむ為に。

しばらくして目を開けると、そこには都会の星空と、謙虚に雲を纏った月が出ているだけだった。



それからだった。

家や学校で、時たま僕のところに現れては、目を隠す。

家ならまだ良かったが、講義の途中で視界を奪われると辛い事があった。

板書が出来ず、見えるようになってから慌ててノートを取る。

そんな日々が続いて、最初はどこか落ち着いたきみの存在も、今は鬱陶しいだけのものになっていた。


ある休日の事。

大学の友人と面白くない事があり、少しイラついていた週末のことだ。

ベッドでごろごろとだらけていた僕に、きみが寄り添った。

きっとピリピリした僕をなだめようと、傍に来てくれたのだと思う。

その日は目を隠さず、ただ寄り添っているだけだった。横に、温かい空気を感じる。

普段ならば聞こえているのか分からないお礼を言って、そっとしておいた事だろう。

しかしその日ばかりは気に食わず、今までの事を全てぶつけてしまった。


「何なんだよ。殺したのに。殺したのに死んでもまだ付きまとうのか!解放されたんじゃないのかよ! やっときみから離れられると思ったのに、これじゃ……何も変わらないじゃないか!」

叫んで、気付く。

霊を信じても居なかった僕が見えない存在に対して叫んだ事に。

また、それがきみだと思い込み、その事実をすんなりと受け止めていた自分に。

「きみだよな、そうだよな。だって、目を隠すなんてきみしかいない」

荒くなる息を整え、虚空に向かって訴えた。

きみであってくれ。そしてもう、いなくなってくれ。


私はまた、空を見たい。


今度ははっきりと、しかしどこか儚い声で、きみの声が耳に届いた。


見えるようにならないかな。


その声がどこか狂気じみていたのは、その時の勘違いなどではなかった。



悪い、悪い、悪かった。僕が悪かった。謝って許されなくても、許すまで謝るから。お願い、許して。

今日も僕は、虚空に向かって許しを請う。

あの日から毎日毎日、僕の目を塞ぎにやってきた。

ひどい時は半日、目が見えないこともある。

日に日に奪われていく視界ときみの存在に、恐怖を覚えていた。

見えない怖さ。真っ暗な視界。きみの体温。

全てが僕の中でどす黒い恐怖となり、じわじわと僕を侵食していった。


ねぇ。きみの目、ちょうだい。

欲しいな。きみの目。

私のと交換しようよ。

私を殺したんだからその位してくれてもいいよね。


耳元で囁かれる言葉もまた、日に日に狂気を増していく。

これがあの優しかったきみなのだろうか。僕の隣で微笑んでいたきみなのだろうか。

何できみはそんなに変わってしまったんだろう。もしかして、きみに化けた悪魔?

いや、変えたのは僕だ。悪魔にしたのは僕だ。

僕がきみの全てを……人生だけでなく、きみの優しささえ奪ってしまったんだ。


僕の目できみはまた微笑んでくれる?



麗らかな春の日。あの日から丁度一年、きみの一周忌だ。

きみが僕に殺された屋上は立ち入り禁止で、花を添える事は出来ない。

代わりと言っては難だが、土手で揺れる八分咲きの桜のところに、小さな花束を添えた。

四六時中僕を追いかけるきみの影は、今日だけ見当たらない。

寂しいような、安堵したような気持ちを抱えながら家に帰り、ベットでまどろんだ。


ねぇ?


僕を呼ぶ声が、夢現の中で聞こえる。

ゆっくりと目を開けると、そこには白いワンピースを纏ったきみが立っていた。

下を向いている顔がゆっくりと上がり、微笑んだ。

その顔を見た瞬間、声にならない声を上げながら、来るなと必死に抵抗した。

きみの腹から流れるものは床に血溜りを作り、手にはあのときの血だらけになったナイフが握られている。

美しいきみの顔は、目から口から流れる血で汚れていた。

赤色に染まったワンピース、ナイフを握る美しい手。

純白のワンピースを汚していく赤黒い染みは、穢れの無かったきみが赤黒いものに穢されていく姿が良く見て取れ、純潔とはかけ離れた、別の美しさを醸し出していた。

優しい微笑みが、今は妖艶に見える。

媚びる様な、虚空を見つめたその瞳が、僕を捉えた。

恐怖でしかなかったその姿に今は見惚れ、しかも股間に血が滾りつつある。


「あ……その、何の用」

今更何の用、はないだろう。恐怖と興奮で頭がおかしくなっているのかもしれない。


目、もらいにきたよ。


血を撒き散らしながら近づいてくる艶美なきみに、逆らえるはずも無い。

四肢を動かしたくても、全く動かない。ただきみを見つめ、死を覚悟するだけだ。

次の瞬間には眼球を抉り出される痛みと共に、視界の全てが奪われた。

苦痛に悶え苦しむ僕の姿を見て、きみが笑っているのが聞こえる。


はい。私の見えない目、あげるよ。


痛み以外何も感覚が無い眼底にコロンと何かが入る感触があった気がする。

耐え切れなくなった痛みに、僕は意識を手放した。



その後、原因不明の失明を僕は煩った。

精密検査をいくら受けても、原因は不明。僕の望みで虹彩の検査をしてもらったが、確かに僕の眼球だった。

原因は僕しか知らない。いや、僕と、天国に居るきみだけ。

視界の無い不安に精神までやられ、今は自宅で療養している。


久々に桜並木を通りたくなり、母親に頼んで連れていってもらった。

初夏、季節はずれの桜の下で、真っ白なワンピースを纏い、僕を真っ直ぐ見つめるきみの姿を見た。

見えないはずの僕の目が、一瞬だけ光を灯す。


残酷な微笑みを浮かべ、手を振るきみの姿。


それがきみを見た最後の時であり、人生で見た最後の光景だった。

読んでくださり、ありがとうございます。


今回初のホラー要素あり。苦手な方がいらっしゃったら申し訳ありません。


何と言うか…やってもいいのか不安な作品でした。

綺麗な(?)作品だった「神様からの贈り物」に残酷描写を取り入れると、作品が崩れてしまうのでは無いか。

でもどうしても書きたくて、書いてしまいました。

一応バッドエンドの完結と言う形でしょうか。


いやあ、三作で完結!万歳、などというのに、あれから二作もアップしてしまった…

折角完結の祝福の言葉を頂いたのに、すみません。

もう少しこの子たちにお付き合い願えないでしょうか。



ちょっとチャレンジ作品でもありますので、読者様の感想、是非是非お願いします。

辛口コメントもありがたく拝聴しますので、そちらもよろしくお願いします。


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