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第85章 泥球の均衡(パリティ)と頂への一歩

七月の酷暑が、日本における野球の最高峰にして最も神聖なる聖地、「甲子園」の大球場の上に、密度の高い、小刻みに震える陽炎となって垂れ込めていた。何万もの観衆が放つ地鳴りのような歓声は一つの嵐と化し、空気は極限まで張り詰めていた。「新黎明学園」の運営委員会が最後の最後まで信じようとしなかった快挙を、特待生と没落した名門の末裔たちからなる我らが泥臭き一団バンドが成し遂げたのである。最高学年である高等部三年生の夏、主戦投手エースの佐藤と捕手(catcher)の東久邇健太による鉄壁の連係は、地方予選の分厚い壁を打ち破り、全国選手権の壮大なる決勝戦へと学園の野球部を堂々と導いたのだった。それは、絶対なる栄冠ゴールドを懸けた、歴史に残る一歩も引かぬ死闘であった。九回裏ナインスインニング、最終の投げ込み(ピッチ)。電光掲示板は緊迫した点数スコアを刻んでいる。対戦相手である大阪の最強体育財閥アカデミーは、文字通り牙を剥き出しにして勝利をもぎ取ろうと、猛烈な攻勢を仕掛けていた。佐藤は、「新黎明学園」の汗と黒土に塗れた衣を纏い、投手のマウンドに立っていた。その広い肩が激しく上下し、低く被った野球帽の陰には、狂おしいほどの獰猛な闘志が隠されていた。彼は右腕の筋肉が酷使によって文字通り焼け付くような熱を帯びるのを感じながら、深く息を吐き出した。彼の背後、薄桃色の応援旗がはためく三年生の席では、南が暑さも忘れて必死に拳を握りしめていた。その瞳は怒れるように、しかし愛おしそうに輝き、幼少の頃から積み重ねてきた一途な想いと激励のすべてを、己の投手に送り続けていた。捕手の位置では、東久邇健太が重厚な防具に身を包み、片膝を突いていた。マスクの奥の顔は完全に汗で濡れそぼっていたが、その視線は凍てつくように冷徹で、寸分の乱れもなかった。健太は審判の目を盗み、捕球手袋グラブの後ろで複雑な戦術の指文字サインを送り、相棒の投手へ彼の伝家の宝刀である、最も切れ味の鋭い変化球カーブを要求した。控室の戸口からは、この一球を東久邇葵が見守っていた。その手にしっかりと握られた三分筋の銀縁をあしらった三年生の制帽は、彼女の普段の小賢しい悪戯心が消え失せ、実の兄への底知れぬ家族としての畏怖に取って代わられたことを示していた。佐藤は合図サインを受け止めた。彼は左足を高く跳ね上げ、野球部の主戦投手としての圧倒的な剛力を込めて大きく振りかぶると、全体重をその最終の一球へと乗せて投げ放った。白球は風を切り裂いて空間を突き抜け、常軌を逸した、数学的には割り切れぬ軌道を描いて変化した。観客席の田中は、既にその軌道を端末タブレットで狂ったように計算し始めていた。大阪の打者バッターは鋭く踏み込み、一分の狂いもない見事な一閃を繰り出した。乾いた、凄まじい打球音が、球場の熱い静寂を切り裂いた。白球は外野の最も深い境界へと飛んでいく。東久邇健太は決死の跳躍でその軌道を遮ろうとし、佐藤はマウンド上で立ち尽くしたまま、その行方を目で追った。新黎明の外野手アウトフィルダーたちは見事な連携で最後の打者を仕留めた(アウト)ものの、大阪の走者ランナーたちは既に本塁ホームベースを駆け抜けており、最終的な点数が確定した。新黎明学園は、甲子園選手権において準優勝となった。全国の舞台における、銀色に輝く大偉業であった。審判の銅鑼の音が公式に記録の終了を告げると、土の上には一瞬の間、重苦しい静寂が支配した。佐藤は力なく頭を垂れ、両手を膝に突いて激しく呼吸し、健太は静かに捕手面を外して芝生の上へと投げ捨てた。三年にわたる名門の過酷な詰め込み教育と厳格な規律を潜り抜け、彼らが抱き続けてきた甲子園の夢は、九十九パーセントまで叶いながらも、絶対なる頂点の一歩手前で立ち止まった。しかし、真の敗北による落胆が彼らを支配することはなかった。その刹那、新黎明の応援席から、地響きを立てるほどの圧倒的な勝鬨おうえんだんが沸き起こり、球場全体を震撼させたからである。南が誰よりも早く柵を飛び越え、旋風のごとく内野を駆け抜けると、勢いよく佐藤の胸へと飛び込み、すかさず彼女の懐から取り出した巨大な千歳飴ペロペロキャンディを彼の口へと押し込んだ。投手はその突飛な行動に危うく手袋を落としそうになったが、すぐに力を抜き、葵や麻衣の甲高い笑い声が響く中で、愛おしい陸上乙女を至福の面持ちで抱きしめた。麻衣は恥ずかしそうに幸福な涙を田中の肩に隠していた。この沸き立つような熱戦の余韻の中心へ、佐藤と健太のもとへ向かって、龍之介と百合が静かに歩み寄った。完璧に仕立てられた三年生の上衣ブレザーを纏い、弓道きゅうどうで培われた氷の視線を恐ろしいほどに落ち着かせた龍之介は、優雅に百合の手を引いていた。長野百合――いや、今や誰もが認める姫君、山科百合は、そのラピスラズリの瞳を輝かせ、かつて砂場の古い楓の木の下で芽生えたあの純粋な、百点満点の微笑みを浮かべていた。彼女の細い指に嵌められた金剛石ダイヤモンドの指輪が、大阪の陽光を浴びて眩いばかりに煌めいた。「お前たちのあの混沌とした修練の仕組み(カリキュラム)を考慮すれば、全国第二位という結果は、数学的に導き出された勝利と言えるな、佐藤」龍之介は低く深い声音で告げた。その峻厳な顔立ちが、ほんの一瞬だけ、友への滅多に見せない真摯な誇りによって和らいだ。彼は白い手袋に包まれた手を伸ばし、投手の掌を力強く握りしめた。「運営委員会も完全に満足している。東京の特権階級どもの鼻を明かしてやったな」「あなた方はこの土の上で、誰よりも輝いていましたよ、お二人とも」百合は清らかに、そして優しく言葉を添え、健太の左肘の使いようについて早くも言い争いを始めていた葵の、可笑しそうに揺れる髪の結び目を愛おしそうに整えた。上層の席から彼らの大調和を忌々しげに見つめていた武田の陰謀も、直子先生が課す厳格な法学的枠組みも、そして上流社会の虚飾も、この黄金に輝く地方の熱気の中に完全に霧散していった。佐藤の手の中で甲子園の銀杯が鈍く光を放つ中、王者の二人とその忠実なる陣営は、彼らの卒業の年に絶対的かつ歴史的な均衡パリティを刻み付けた。彼らは日本全土に、自らの小さな泥臭き一団の力を認めさせたのである。そして彼らの前には高等部の終幕が待ち受けており、それを迎える準備は、ただ彼ら自身の、決して破られぬ規則に従って調えられていた。

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