ひきこもり娘
ちょっと汚い表現が入るかもしれません。
ご注意ください。
まず、頭がでた。
うんうん。そうだよね。赤子は大抵頭から外の世界にひねり出される。
ただわたしは、赤子のように頭蓋を軋ませながら産道をくぐるわけもなく、すんなりと壁であって壁でないようなソレをくぐり抜けた。
そして、恐ろしいことに、『生まれて』初めていきなり動物らしきものの目と自分の目があった。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
ふっ・・・・・・・・ふぎゃーあああああああああ!!
わたしは息をつめ、声にならない声をだし、ふたたび光の壁を通り、狭い空間へ脱兎のごとく引き返した。といっても、動作としては頭をひょいと後ろにひいただけなのだが。
油断のうえのこの衝撃。生き物の目というのは存外にこわいものなのですよ。
な、なんかいたなんかいたなんかいたーーー!!
わたしは縮こまってがたがた震える。
あれは人間だ。きっと人間だ。多分人間だ。
二足歩行だった。白目見えた。服着てた。
なんで人間がここに!?
こわい。人間怖い。でも、ふと冷静になって考えてみるとどうして人間が怖いのかわからない。
・・・・・・。
わたしは頭をおちつかせ、自分の体を改めてまじまじ見てみる。
ふむ。人間だよね。
自分で言うのはあれだがたおやかな傷ひとつない腕。きれい。小さな手に、長い指。
ふにふにと触ってみる胸は手のひらに包むほどには膨らんでいる。
これは人間の女性の体と判断するが・・・・・・いかに。
少し抵抗があったがそれを証明する脚と脚の間のそこに手を伸ばす。
「・・・・・・ッ」
ナイ。
・・・・・・ない。
あれ?ない。
ツルツルですた。つまり、あれです。ないのです。
「・・・・・・・・・。」
スススとなぞってみてもそこには穴という穴がなかった。
いや、死ぬから。陽炎のように生まれたら一日せずに死んじゃうから!
つまりあれだ。食べた物がでない。排泄できない体になってる。
今度は違う方向からパニックが襲いかかってくる。
なっ、どういうこと!?
ううう、とひとしきり唸ってみるが解決策は浮かばない。
しかしわたしはひらめくのだ。
いや、大丈夫だ。
このへその緒みたいなのが外の世界とつながっている限り。わたしは外から栄養(?)を接種できる。
なんとなく。なんとなくだがそう思った。いや、これはもう確信に近い。なぜだろう。なぜかねえ・・・。
だってわたし、ここにずっといたからここまで育ったんでしょう?
だから、たぶん、こんな体になってしまったのね。
じゃあ、もう、生まれることなんてしなくていい。
ずっとここで眠っていようよ。
瞳を閉じた。
そのとき、こちらに向かって声がかかった。
主人公はひきこもりちゃんです