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すると、魔術師団員の一人が、ルークさんに近づいてきた。
「ルーク様。すごい方が来ているんですよ。セラフィーナ様の話をお伝えしたら、ぜひ会いたいとおっしゃって」
「え、誰?」
「今、宿の中にいらっしゃいます! 来てください!」
彼はそう言って手招きする。
私は集まっていた人達にもう一度来てくれたお礼を言い、ルークさんとその魔術師団員の後をついていった。
案内されたのは、宿の一階の一番奥の、やけに重厚な扉の部屋だった。
この宿に泊まっていた間にも一度も訪れたことがない。おそらく、特別なお客様のために用意された部屋なのだろう。
一体中にどんな人がいるのだろうと、少し緊張しながら扉を見る。
「アストリア様、失礼いたします」
魔術師団員がそう言って扉を開けると、部屋の中に窓辺で椅子に腰かけているドレス姿の女性の姿が見えた。
彼女は立ち上がると、ゆっくり視線をこちらに向ける。
「あなたがセラフィーナ・シャノンか?」
彼女は私をじっと見つめながらそう言った。
長い黒髪に切れ長の目の、とても綺麗な人だった。目はルークさんと似た、美しい水色をしている。シンプルな紺色のドレスを着ているのに、彼女の姿からは神々しさまで感じられた。
私は彼女のオーラに圧倒されながらも答える。
「は、はい。セラフィーナ・シャノンと申します」
「そうか。とんでもない魔力を持った聖女だと聞いていたから、どのような人物かと思えば、随分かわいらしい少女なんだな」
彼女は顎に手を当て、興味深げに私を眺めながら言った。
すると、後ろからルークさんの呆けたような声が聞こえてきた。
「皇女様……なんでここにいるの?」
「え?」
驚いてルークさんの方を見て、それからもう一度目の前の女性を見る。
彼女はにっこり微笑んでいた。
「いや、帝国に充満する瘴気を祓ってくれた聖女様がいると聞いては、駆けつけないわけにはいかないではないか」
「だからってここまで来なくても……」
「仕方ないだろう。聖女様がどのような人物なのか気になったんだ」
女性はきっぱりと言う。
私はぽかんとしてしまった。この方が、ラピシェル帝国の皇女様? 皇女様といえば確か、ルークさんが以前「こき使われている」と話していた方だ。
「……あなたが皇女様なのですか?」
「ああ。ラピシェル帝国の第一皇女アストリアだ。よろしく頼む。私の従弟に協力して瘴気を祓っていてくれたらしいな。礼を言う」
皇女様は真摯な態度で言う。
いえ、そんな、と言いかけて固まった。
「皇女様、従弟とは……?」
「ん? 知らなかったのか? そこにいるルーク・アーレントは私の従弟なんだ。皇弟の息子のくせに魔術師団に入りたいとわがままを言うから、私の言うことを聞くならという条件で入団を認めてやった。ルークが自由にやれているのは、私が色々融通してやっているのが大きいな」
皇女様は得意げに言う。
私は呆然としてしまった。それからルークさんに視線を向ける。
今の話は本当なのだろうか。ルークさんが皇女様の従弟で、皇弟の息子。つまり、彼は皇族だったということなのだろうか。
耳元でシリウスが囁いた。
『セラ、ルークって割と高貴な人だったってこと? 全然そう見えないのに!』
「割とどころじゃないわね」
私は小声で言葉を返す。
ルークさんは私たちの会話を聞きながら気まずそうにしていた。




