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「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています  作者: 水谷繭
18.エリオット

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18-2

「エリオット様……、何か私にできることはありますか? 私はエリオット様に悲しい顔をしてほしくありません」


「……お前に頼むことなんて……」


 思わず尋ねると、エリオット様の視線が泳ぐ。彼の口から、弱々しく声が零れた。


「それなら、セラ、このままここに……」


 エリオット様は言いかけて口を閉じる。


 それから首を横に振ると、はっきりした口調で言った。


「いるか、そんなもの」


「え?」


「誰がお前なんぞに頼るか! セラフィーナのくせに俺に同情するなど図々しい!」


「えっ、そ、そんなつもりは……」


 私は困惑してエリオット様を見る。エリオット様はぶつぶつ文句を言っていた。


「こっちはお前に気遣われるほど落ちぶれてないんだよ。何が私にできることはありますかだ。俺は王子だぞ!」


「え? す、すみません……」


 突然いつも通りの態度に戻ったエリオット様に混乱する。


 戸惑う私の肩を両手でつかみ、エリオット様は扉の方に私の体を向かせた。


「ほら、もうさっさと行けよ。婚約解消して解放してやるって言っただろ」


「で、でも……」


「そんな気の毒そうな顔でここに残られても迷惑だ。ラピシェル帝国にでもどこへでも行けばいい」


 エリオット様はそう言いながら、扉を開けて私を外に出した。


「エリオット様……」


 私はどうしても気になって部屋を振り返ってしまう。


 エリオット様は気まずげに目を逸らしながら、ぼそりと呟いた。


「じゃあな。ひどい扱いをして悪かった」


 エリオット様はそう言った後、扉に手をかけた。


 私はたまらなくなって口を開く。


「ひどい扱いなんてされていません!」


 エリオット様は驚いた顔でこちらを見る。


「は? 何を言って……」


「エリオット様は、憎んでいるはずのシャノン家の娘である私を、あの冷たい家から救い出してくれました。あの時のエリオット様は、お父様……シャノン公爵に復讐することだけを考えていたわけではなかったはずです。だって、それならもっとひどい暮らしをさせてもよかったはずですもの。けれど、あなたは私を安全な場所に住まわせてくれて、公爵家の圧力からも遠ざけてくれました」


「別にそれはただの気まぐれで……」


「気まぐれでもよかったんです。私は、そんなエリオット様が……」


 言いかけて口を噤む。


 それからエリオット様の目を真っすぐ見て言った。


「……私をシャノン家から連れ出してくれて、ありがとうございました」


 エリオット様は私を呆気に取られたように見て、しばらく何も言わなかった。


 それから苦笑いのような顔になる。


「お前は馬鹿な女だな」


「ば、馬鹿でしょうか……」


「ああ、お前のような馬鹿はほかに見たことがない。お前には今まで何度困惑させられたかわからないよ」


 エリオット様は呆れ顔で言う。


「そ……、それは申し訳ありませんでした……。その、それでは、私は行きますね。お世話になりました……」


「ああ。どこにでも行けばいい」


 エリオット様はあっさりした態度で言った。


 割と思いきって感謝を伝えた私は、なんだか拍子抜けした気持ちになりながら立ち去ろうとする。


「セラ、帝国でも元気でやれよ」


 去り際に、エリオット様はそう言ってくれた。どこか寂しげな表情で。


「……エリオット様も、どうかお元気で」


 私も最後にそう言葉を返す。


 エリオット様は小さく笑った後で、あっさり扉を閉めてしまった。



 私は王宮の長い廊下を一人で歩く。


 以前、遺書を残して王宮から出たときよりとは違う、複雑な感情が胸を渦巻いていた。


『セラ! エリオットと無事に決別できてよかったね』


「シリウス……」


『セラが情に流されてここに残るって言い出さないかひやひやしたよ。深刻そうに話していたから、口を挟むのは我慢してたけど。エリオットもムカつく奴だったけど、最後は大人しく送りだしてくれてよかったよかった』


 シリウスは満足そうに言う。


「気を使って黙っていてくれたのね。ありがとう、シリウス」


『まぁね。僕は気の利く大精霊様だから』


「ふふ、そうよね。シリウスは本当に頼りになるわ」


 笑いながらシリウスの頭を撫でたら、シリウスは気持ちよさそうに目を細める。


 シリウスの柔らかい頭を撫でながら、私は押し寄せてくる感情を必死で鎮めていた。


 十歳の時、お庭ではじめてエリオット様と出会って、強引にお屋敷まで引っぱって行かれた時のことが鮮明に蘇ってくる。


『何も心配しなくていい。俺がお前を助けてやる』


 そう言ってくれた時の、まだほんの子供だったエリオット様を思い浮かべたら目に涙が滲んで、私は泣かないようにぎゅっと唇を噛みしめた。


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