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「違います! 根拠もなくそんなことおっしゃらないでください! 確かに、今は少し力が衰えてしまっていますが、力を送るのにも調子がいいときと悪い時があるのです! そんなことで疑われるなんて心外ですわ!」
「わかった。それならこうしよう。王宮の庭に小さな草原を作ってくれ。その草原をセラの力なしに数ヶ月保たせることが出来ればアメリアの言っていることを信じよう」
「え……? そ、それは……」
「その際にお前が力を借りた精霊は、こちらで保護させてもらう。その後、精霊に負担がかかり過ぎて死んでしまうようなことがあれば問題だからな。別に構わないだろう? お前が精霊に適切に力を借りているだけなら」
「そ、そんなことを急におっしゃられましても……」
「どうした? アメリアの力を証明できる絶好の機会ではないか。もしも草原を数ヶ月維持し、力を借りた精霊に何の被害も出なかったのなら、こちらの間違いだったと認めて謝罪しよう。その代わり」
エリオット様は、じっとアメリア様を見つめて言った。
「もしお前の作った草原がすぐに消えたり、精霊が死んだりしたら、お前には王家を騙してセラフィーナを陥れた罪を償ってもらう。どんな罰が下るだろうな。以前大精霊と契約したと偽って宮廷内部に入り込んだ人間は死罪になったが」
エリオット様は冷たい目で笑いながら言った。アメリア様の表情がみるみるうちに青ざめていく。
それから彼女は壁を拳でどんと叩いた。
「一体なんなの!! やるわけないでしょ、そんなこと!! 私を追い詰めて楽しい!? あんたこそ騙されているのに全く気付かなかったくせに私だけが悪いみたいに言わないで!!」
「なんだ、もう罪を認めるのか?」
「何が罪よ! 確かに私は精霊に無理やり力を使わせて森や川を作っていたわ! それがすぐに消えてしまうことも知ってた! でもそれが何? 自分の力を有効活用して何が悪いの? この国では精霊を操れる者が優遇されるんだから、持っている力は使うのが当たり前じゃない!!」
「それで多くの精霊が死ぬことがわかっていたのにか」
「そうよ!! 私は自分のやったことを後悔してないわ!!」
アメリア様が荒い口調で言った。
エリオット様は、後ろで彼女を監視していた衛兵たちに視線を向ける。
「お前達、アメリアを連れていけ。この女は罪を認めた」
「待ちなさいよ、私は……!」
「囚人用の地下牢へ入れておけ。聖女扱いされている女だからと遠慮する必要はない」
エリオット様は吐き捨てるように言った。
アメリア様は顔を引きつらせ、さらに大声で怒鳴る。
「待ちなさいよ、この卑怯者!! あなたに私を裁く権利なんてあると思ってるの!? あなたこそ王子の立場でセラフィーナ様を冷遇してきたくせに!!」
アメリア様の言葉に、エリオット様の表情が歪む。
それから苦々しい顔で彼女から視線を逸らした。
「セラフィーナ、ルーク、戻るぞ」
「は、はい……」
「あの人大丈夫かなぁ……」
アメリア様は、後ろで衛兵たちに押さえつけられながら私たちを睨んでいた。
衛兵たちに口を塞がれても、彼女はなおも怒鳴り続けている。
私はどうにも後味の悪い気持ちで、彼女の元を後にした。
***
応接室まで戻ると、エリオット様は私に向かって深く頭を下げた。
「すまなかった、セラフィーナ」
「エ、エリオット様……! どうか頭をお上げください!」
私は慌てて両手を振る。しかし、彼はなかなか顔を上げてくれない。
「お前が出て行ってから、サフェリア王国の状況はどんどん悪くなっていった。国中に瘴気が増して、国を守っていた精霊たちにも生気がなくなっていった。気づいていたのに、今の今まで認めようとしなかった」
「エリオット様、どうかお気になさらないでください」
「いや、俺は王太子失格だ。先程はアメリアの言葉に返す言葉もなかった。この国を治める資格などない」
エリオット様は悲壮な表情でそう言った。
「そんなことはありません。エリオット様は将来サフェリア王国を統治する方です……!」
私は必死に、すっかり気落ちしている様子のエリオット様をなだめる。
シリウスが肩の上から、『おお、こいつでも反省することあるんだね』とのん気に呟いていた。




