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本宮殿の部屋で、今日も精霊に力を送るため塔に上る準備をしていると、扉の叩かれる音がした。
扉を開けると、そこには慌て顔をしたアメリア様が立っていた。
「セラフィーナ様、大変です!!」
「アメリア様、どうなさったのですか?」
「神殿の奥にある精霊の石の力が弱まっているのです! 今、精霊師たちで集まって対応しています。セラフィーナ様も来てくださいませんか!?」
「精霊の石が?」
私は驚いてしまった。
精霊の石は、サフェリア王宮の奥の神殿に祀ってある特別な石だ。数百年前、サフェリア王国の国王が弱っていた精霊を助け、そのお礼にもらった石なのだという。
その石は、精霊に贈られてから数百年経った今でも、サフェリア王国の空気を浄化して、この国で暮らす精霊たちに力を与えてくれている。
サフェリア王国の精霊師たちは、その石の力がずっと続くよう、特別な日になると祈りを捧げてきた。
「ただでさえ今は王国の精霊の力が弱まっているのに、精霊の石の効果まで薄れたのでは大変なことになりますわ……!」
アメリア様は深刻な顔でそう言う。
確かに、精霊の力が弱まっている現在、精霊の石の力まで弱まるのは危険だ。石のおかげで安全な状態に保たれていた地域まで瘴気が広がってしまうかもしれない。
「わかりました。私も行きます」
「ありがとうございます、セラフィーナ様!」
アメリア様は私の手を取ってお礼を言う。
私はアメリア様に続いて、王宮の奥の神殿まで向かった。
神殿は王宮の庭園にある森に入り、そこを進んだ先にある。
森を歩いていくと、周りが黒い煙に覆われ始めた。少し息苦しくなり、口元に手を当てる。
この森を通る度にこうなるのだけれど、この息苦しさと体が重くなる感覚には未だに慣れない。
この森には、昔戦争で使われた武器や魔道具、平穏とは言い難い経緯で亡くなった王族関係者の遺品など、邪気を溜め込んだものが多く埋められているのだ。
ほかの場所に埋めれば周りを汚染してしまうほどの怨念が含まれたものを、精霊の石の近くにあるこの森に埋めることで抑え込んでいるらしい。石には邪気や瘴気を吸収してくれる働きがあるのだ。
しかし、今は精霊の石の力が弱まっているせいか、森の空気は普段よりも淀んでいるように感じた。
シリウスが唸るように言う。
『う……、苦しい。この辺りって本当嫌な空気だよね』
「大丈夫? シリウス。もう少しでつくからね」
『うん……。早くここから抜けたい……』
シリウスはげんなりした顔で言う。
前を歩くアメリア様は、時折咳き込んで苦しそうにしながらも、しっかりした足取りで歩いていた。
アメリア様に聞こえないように小声でシリウスを励ましながら、どうにか森を抜けた。
前方に石造りの神殿が現れる。
神殿の周りの空気は澄んでいて、私は思いきり息を吸い込んだ。シリウスもほっとした顔をしている。
『やっと森を抜けられた……。石の力が弱まっているといっても、神殿周辺の空気を浄化する力は残っているみたいだね』
「そうね。そこは安心したわ」
シリウスとこそこそ話しながら、アメリア様の後に続いて神殿に足を踏み入れる。




