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「あの……?」
「セラフィーナ、話は聞いた。エリオット様のそばにアメリアとかいう男爵家の娘がいることを気に病んで、逃亡なんて大それたことをしてしまったそうだな。私たち家族がきちんとお前の立場を明確にしてやらなかったせいだ。今後はほかの家の者に付け入る隙を見せないよう、我が家できちんとお前の支援をしていこう」
「あの、お父様……?」
「だが、エリオット様のお心が離れたと悩む必要はないのだぞ。エリオット様はお前がいなくなったことを大変心配しておられた。ちゃんとお前のことを想ってくださっている証拠だ」
お父様は私の肩を掴み、今まで一度も見たことがないようなにこやかな表情で言う。
これまでの態度とのあまりの違いに、私は呆気に取られてしまった。
「その……エリオット様やお父様達に心配をおかけしたことは大変申し訳なく思っております」
「私たちのことはいいのだ。しかし、今後はこのような真似をしてエリオット様に心労をかけるのはやめなさい。殿下はとてもお前を気に入ってくださっているのだから」
お父様は諭すようにそう言った。
私はお父様の態度の変化を飲み込めないまま、曖昧にうなずく。
私がうなずいたのを見てお父様は満足げな顔になり、席に座るよう促した。私は不思議な気持ちのまま、お父様と向かい合う形でソファに腰掛ける。
お父様は、その後も延々とエリオット様がいかに私を心配していたか、私が逃げ出したことを言い訳ひとつせずシャノン家に謝罪してくれたエリオット様がいかに誠実な方かと語っていた。
私はそんなお父様の話を、ずっと戸惑いながら聞いていた。
お父様のこの態度の変化はなんだろう。エリオット様が私を気にかけてくれているから、王家との縁が強くなると喜んでいるのだろうか。
お父様のエリオット様の褒め具合を見ているとそんな風にも思えるけれど、お父様の言葉からはお世辞や媚びとは違う何かを感じた。
「本当にエリオット様は素晴らしい方だ。あの方があのように成長してくれたことを嬉しく思うよ。王妃様とは随分違う気質にお生まれになったと思っていたのに。情に厚いところも誠実なところも、彼女そっくりだ」
お父様は夢見るような眼差しで言う。
いつも厳格な顔をしているお父様にあまりに似つかわしくない表情なので、困惑してしまった。
私は戸惑いながら尋ねる。
「エリオット様は、前王妃様に似ていらっしゃるのですか?」
「ああ。芯の部分は王妃様そっくりだ。外見はともかく、性格は陛下そっくりにお生まれになったと思っていたが。どうやら私の目が曇っていたらしい」
お父様は明るい口調で言う。
壁際に立って私たちの話を聞いていた侍女が、若干眉間に皺を寄せるのがわかった。
王妃様、つまりエリオット様のお母様は、エリオット様が七歳の頃に亡くなっている。儚げで心優しく、とても美しい人だったと聞いている。
王妃様は私が王宮に来る前にはすでに亡くなっていたので、実際にお会いしたことはないけれど。
お父様がこんなに熱を込めて王妃様のことを語るのは意外だった。
お父様はその後も延々と王妃様のことを褒めたたえ、最後にはにこやかな表情で言った。
「セラフィーナ、王家とシャノン家の縁は絶対に途切れさせてはならない。エリオット様を常に尊重して敬い、今後はご心配をおかけしないようにするのだぞ」
「は、はい……。今後は今回のようなことがないようにいたします」
私が答えると、お父様は満足そうにうなずいた。
やがてお父様は臣下に案内されて帰っていき、私も侍女に促されて部屋を後にした。
面会を終え、部屋に戻っても私の頭はずっと疑問がぐるぐる回っていた。
『セラ。あのクソジジイ、何か様子がおかしかったね』
「……そうね。お父様、どうしたのかしら……」
私に対するやたら好意的な態度も、エリオット様や王妃様に向ける過剰なまでの称賛も、全く意味がわからなかった。
お父様と王家には、ひょっとすると私の全く知らない事情があるのかもしれない。
私は疑問が晴れないまま、先程のお父様との会話を何度も反芻していた。




