14-1
その後、私はアメリア様と一緒に塔に上り、帝国へ行くまでいつもそうしていたように精霊に力を送ってきた。
これでサフェリア王国の瘴気が少しでも減ってくれたらいいのだけれど、おそらくすぐにとはいかないだろう。
力を送り終えてアメリア様と別れ、私は部屋のベッドに腰掛けた。すると、シリウスが耳元で言う。
『ねぇ、セラ。あの女なんか危なくない? セラが精霊に力を送り過ぎるのはよくないって言ったとき、すごい顔をしてたよ』
「確かに顔を強張らせているように見えたけれど、危ないなんてことはないんじゃないかしら」
『いや、あれは悪巧みがバレたって顔だった。あの女、精霊に一度に力を送り過ぎると弱ること知っていてやってたんじゃない? 何年も精霊師として精霊と関わってきたんだから、自分の力がどんな結果を引き起こすか知っていたって何もおかしくないよ』
「それは……」
私は言葉に詰まってしまった。
アメリア様を疑いたくはないけれど、確かに私も先程の彼女の表情には異様なものを感じた。
もしアメリア様が、精霊が傷つくのを知っていて力を使っていたのなら。そして、作った森や川がすぐに消えてしまうと知っていたなら。
嫌な想像が頭を巡り、気分が悪くなってくる。
すると、再び扉の叩かれる音がした。
思わず体がびくりと跳ねる。またアメリア様がやって来たのだろうか。
おそるおそる扉の前に行くと、そこにはアメリア様ではなく王宮の侍女がいた。
彼女は私が本宮殿に来てからよく世話をしにきてくれる侍女だ。私のことを認めてくれてはいないようで、態度はいつも冷たい。何か嫌がらせをされたりということはないのだけれど。
彼女は冷ややかな目で私を一瞥した後、かしこまった態度で言う。
「セラフィーナ様、シャノン公爵がいらしております。お越しいただけますでしょうか」
「え……? お父様が?」
予想外の人物の名前が出てきたので驚いてしまった。
幼い頃からほとんど交流のなかったお父様。お父様との思い出といえば、精霊が見えないことで叱責されたことか、倉庫に閉じ込められたりお屋敷の外へ放り出されたりしたことくらいしかない。
そのお父様が、王宮に行った娘が死を偽装して帝国へ逃げ出したなんて聞いたらどう思うのだろう。
きっと怒り狂っているに違いない。
会いたくなかった。しかし逃げ出すわけにもいかず、私は重い足取りで侍女に付いていった。
『セラ、そんなに気を落とさないでよ。あいつが何かしてきたら僕が返り討ちにしてあげるから』
「ありがとう、シリウス。その時はよろしく頼むわね」
私は力のない声でお礼を言った。
シリウスにはお父様を返り討ちにするような魔法は使えないと思うけれど、一生懸命励ましてくれるシリウスの言葉を聞いていると、少しだけ心が軽くなった。
***
案内された部屋につくと、そこには既にお父様がいた。
シャノン家を出て以来、お父様とは式典やパーティーの時にほんの少し顔を合わせるくらいの交流しかなかった。こんなに近くで会う機会は久しぶりだ。
私はどきどきしながら部屋に足を踏み入れる。
「シャノン公爵、セラフィーナ様をお連れしました」
「お、お久しぶりです。お父様……」
私はどぎまぎしながら頭を下げる。
すると、つかつか足音が聞こえて、お父様が目の前にやって来た。
何を言われるのだろう。どれほど怒っているのか。殴られたらどうしようという心配まで浮かぶ。
しかし、返ってきたのは予想外の反応だった。
「セラフィーナ!! 無事でよかった!! 心配していたのだぞ!!」
お父様は両手を広げ、涙混じりにそんなことを言ってきた。私は人生で初めてお父様に抱きしめられ、呆然としてしまった。




