13-1
「はぁ……。ラピシェル帝国はどうなっているのかしら……」
私は窓辺でため息を吐いた。
現在の私は、サフェリア王宮の本宮殿に連れてきてもらい、広い部屋で何不自由のない生活をさせてもらっている。それなのに、虚しさが一向に消えない。
私がこんな贅沢な生活をさせてもらっている間にも、ラピシェル帝国の人々は瘴気に苦しんでいるかもしれないのだ。そう思うと、広い部屋も綺麗なドレスも喜ぶ気になれない。
私がぼんやり窓の外を眺めていると、ノックの音が聞こえてきた。
『セラ、誰か来たみたいだよ。エリオットかな』
「エリオット様はこの時間公務中のはずだけれど……」
私は不思議に思いながら扉を開ける。
扉の向こうには、なんとアメリア様がいた。アメリア様は不自然なくらいにこやかな表情で私の手を取る。
「セラフィーナ様! 本当にお戻りになっていたんですね! 無事でよかったですわ」
「アメリア様……。わざわざ来てくださったのですか?」
困惑しながら尋ねると、アメリア様は笑みをさらに深くする。
「ええ。突然別邸でセラフィーナ様の遺書が見つかって、それからずっと行方不明だと聞いたものですから、心配していたんです」
「それはありがとうございます。ご心配おかけしました」
私は若干の違和感を抱きつつも頭を下げた。
アメリア様は朗らかに言う。
「セラフィーナ様、あなたがいなくなってからサフェリア王国では色々あったのですよ。各地で瘴気が発生して、精霊の数も減って……。国民たちもとても困っていたんです」
アメリア様は悲しそうな顔で頬に手をあてる。
サフェリア王国に瘴気が発生しているとはどういうことだろう。まるでラピシェル帝国のようではないか。この国は精霊を信じていない帝国と違い、常にたくさんの精霊師に守られているはずなのに。
私が驚いていると、シリウスが首元から出てきて言った。
『いい気味だね! きっとセラがいなくなったからだよ』
「そんなことを言ってはいけないわ。それに、私がいなくなった影響なんてほとんどないはずよ」
サフェリア王国は、精霊師のいないラピシェル帝国とは違うのだ。
しかし、それならばなぜという疑問が浮かぶ。首を傾げる私に、アメリア様は言った。
「セラフィーナ様、今この国では少しでも多くの精霊師の力を欲しているのです。ですからセラフィーナ様も協力してくださいませんか?」
「協力ですか」
「ええ。以前と同じように、塔の上から力を送るだけで構いません。セラフィーナ様には精霊を直接操れる力はないとはいえ、少しでも精霊に力を送っていただければ、状況がいくらか改善する可能性がありますわ」
アメリア様は真摯な口調で言う。
耳元でシリウスが『“少しでも”とか嫌味な奴』と文句を言った。
サフェリア王国が大変な状況なら協力したい。しかし、アメリア様の真剣な表情に、どこか薄暗いものを感じてしまった。
そう考えてから、国のためを思って行動している彼女を疑うなんていけないと慌てて首を横に振る。
「わかりました。私も精霊に力を送らせていただきます」
「ありがとうございます! セラフィーナ様!」
アメリア様は明るい表情でそう言い、私の手をぎゅっと握りしめた。
私は不自然なほどにこやかな彼女に疑問を抱きつつも、曖昧な笑みを返す。




