6-1
「わー! 人が! 人がいました!」
「そりゃいるよ、町だもん」
馬車の中で窓から見えた景色に興奮して叫ぶと、向かいに座っていたルークさんがけらけら笑いながら言った。
人が誰もいないレピドの町から出た後、私はルークさんの乗ってきた馬車に乗せてもらい、隣町までやって来た。
ここはティエルの町と言うらしい。
レピドの町を見たときも感動したけれど、やはりちゃんと人のいる町の景色は異国感があってより感動してしまう。
「すごいね、シリウス。これが帝国なのね!」
『サフェリア王国より賑やかだね』
一緒に窓を覗いていたシリウスも、感心した声で言う。
熱心に窓の外を眺めている私たちを見てルークさんはおかしそうな顔をする。
「そんなに帝国の景色が珍しい?」
「はい、外国に来ること自体初めてなので……! サフェリア王国と全然違うんですね」
「帝国はどこもがやがやしてるよね。俺はサフェリア王国も好きだよ。長閑だし精霊もたくさんいるし」
「まぁ、祖国をそんな風に言ってもらえると嬉しいです」
逃げ出して来た国といえ祖国は祖国なので、褒めてもらえるのは嬉しかった。
あの国はなんだかんだいって私の故郷で、何より将来エリオット様が治める国なのだ。
私はもう帰ることはないかもしれないけれど、平和で豊かな日々が続いてくれたらいいと思う。
サフェリア王国を褒められてつい頬を緩ませていると、ルークさんが身を乗り出して来た。
「セラちゃん、あのさ、気になってたんだけど」
「何ですか?」
「セラちゃんって恋人いるの? って、そんな可愛いんだからいるよね」
ルークさんは興味津々という顔で尋ねてくる。
私の膝の上にいたシリウスが眉間に皺を寄せた。
『ちょっと魔術師、セラを口説かないでよ』
「いや、気になっただけだって。聞くくらいいいでしょ?」
『セラは僕の契約者なんだから、半端な奴には渡さないからね』
シリウスがルークさんを威嚇し始めたので、私は慌ててシリウスを止める。
それから私は上を見上げてルークさんに聞かれたことを考えてみた。
恋人というのは、婚約者とは違うものだろうか。多分、違うものだろう。
ほかの人の場合はともかく、私の場合はただエリオット様がシャノン家の娘の誰かと婚約しなければならなくて、仕方なく選んでもらっただけだから。
どちらにせよサフェリア王国から逃げてきた私はもう婚約者ではない。
エリオット様の新しい婚約者には、アメリア様が収まるのだろう。
悲しい気分になりそうだったので、私は気持ちを振り払うよう笑顔を作って答えた。
「いません。好きな人ならいるんですが」
「へぇー! どんな人?」
「とっても素敵な方です。慈悲深くて、偏見がなくて、すごくお優しい方ですわ」
エリオット様を思い浮かべながら話す私に、ルークさんは微笑みながらうなずいてくれる。
「セラちゃんに愛されてるなんてその人は幸せ者だね」
「そ、そんなことないです。私なんて全然相手にされてませんでしたから」
私を興味なさそうな目で見るエリオット様や、私がいなければアメリア様と結婚出来るのにとため息を吐いていたエリオット様の顔が思い浮かぶ。
悲しくなって、つい言わなくてもいいことまで話してしまう。





