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最初は自分の生活に不満なんて抱いていなかった。
しかし、学園生活を送っていく中で、周りとの格差を感じ始めた。
何しろ国中から貴族の家の子が集まる学園だったので、上を見ればきりがない。
みんながみんな私より恵まれている気がして、悶々とする日々を過ごした。
いい家のご令嬢たちが、同じくらいの家格のご令息と婚約したり、王宮の侍女として取り立てられたりするのはまだ理解できる。
しかし、私と同じく下位貴族出身の者でも、精霊を操る能力に長けている者は家格が上の家から縁談が来たり、本来なら手の届きそうもない王宮での職を手に入れたりしているのだ。
この国では精霊もそれらを操れる精霊師も崇められていたので、精霊師の能力を持った者はそれだけ優遇されていた。
私だって精霊を操ることが出来るのに。
自分の能力が張りぼてなのを理解してはいたけれど、なんだか自分だけが損している気分で苛立ちが募った。
そんな時、学園の授業の一環で、王宮で働く精霊師たちの仕事を見学しに行く機会があった。
成績優秀な生徒数人が参加する授業で、私は精霊が見えることは隠していたものの座学では成績上位にいたので、その中に加わることになった。
一日精霊師について、その仕事を見て回った。
その帰り、王宮内の塔の前を通った。
塔からは緩やかな光が漏れ出している。誰かが精霊に力を送っているのだろう。
私の近くを飛んでいた精霊が、光にあたるとうっとりと目を細めるのが見えた。よほど心地いいのか、あちこちから精霊が塔のそばに集まって来ている。
(なにこれ……こんなの初めて)
私にはその力は衝撃だった。しかし、一緒に見学に来ていた生徒は誰も驚いておらず、精霊師たちも何も言及しない。
それを不思議に思いながらも、黙って精霊師たちの話を聞いていた。
しばらく塔のそばで精霊師が仕事について説明するのを聞いていると、塔から誰か降りてきた。
それは初めて見る実物のセラフィーナ様だった。
セラフィーナ様は薄茶色のワンピースにショールを羽織っただけの恰好で、王太子の婚約者にしては随分貧相に見えた。
銀色の髪に青い目で、顔立ちもまあまあ整っているのに、どうにもオーラがないというかみすぼらしい。
精霊師たちはセラフィーナ様を見ると、途端に苦笑いのような顔になった。彼らは小声で説明する。
「セラフィーナ様は精霊を操ることが出来ないので、エリオット殿下の命令で毎日あの塔で精霊に力を送っているのですよ。しかし、殿下の婚約者ともあろう方が力を送るだけではね」
「シャノン家にはセラフィーナ様のほかにも優秀なご令嬢が二人もいらっしゃるのに、どうして殿下はセラフィーナ様を選ばれたのか……」
精霊師たちの言葉に、周りの生徒たちも同意していた。
しかし、私には彼らの言葉に違和感を持った。
精霊に力を送ってはすぐに死なせてしまっていた私だからこそわかる。
精霊には一時的に大きな力を与えるより、緩やかな力を送り続けた方が、最終的にはいい結果が出るのだ。
セラフィーナ様が精霊に力を送っているのは、随分サフェリア王国の発展に繋がっているのではないか。
私は男爵家に戻ると、すぐさまセラフィーナ様の実績について調べた。
思った通り、セラフィーナ様が力を送った土地は例外なく精霊が増えて発展していた。
だというのに、その功績には誰も注目していない。効果が出るのが遅すぎて、誰もセラフィーナ様の力だと気づいていないのだろう。
(これ、使えるんじゃない……?)
セラフィーナ様の力に気づいていないのなら、私が利用することも出来るんじゃないか。
失敗したらどうしようかという不安もあったけれど、周りの精霊を操れる下位貴族たちが次々にいい結婚相手や仕事を見つけていく様を思い出すと、そんな不安は覆い隠されていく。





