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「アメリア様! 大ニュースです! セラフィーナ様が消えたそうですわ!」
朝、本宮殿に与えられた私の部屋で鏡に向かってお化粧をしていると、バタバタ足音を立ててメイドが部屋に入ってきた。
私は今さっき聞こえた言葉を、信じられない思いで聞き返す。
「今なんて……? セラフィーナ様が消えた?」
「ええ! 今朝、殿下がセラフィーナ様の住む別邸を訪れると、彼女は中におらず遺書が残されていたそうですわ。兵士たちが捜索したところ、崖のそばでセラフィーナ様のものと見られるショールが見つかったんです!」
メイドは興奮気味に説明する。
その目は輝いて、どう見ても状況をおもしろがっているように見えた。
「遺書って……セラフィーナ様は亡くなったというの?」
「死体はまだ見つかっていないようですけれど、状況から考えるとその可能性が高いと思います!」
メイドはやっぱりおもしろがるような口調で言う。
全身から血の気が引いていった。
セラフィーナ様のことは好きじゃない。騙されやすく、善良で、人に悪意を持たない彼女は、私が一番嫌いなタイプだ。
消えて欲しいと思っていた。
けれど、本当に消えられては困るのだ。
「アメリア様、こう言ってはいけませんけれど……よかったですわね! これで誰に文句を言われることもなく王太子妃になれるじゃないですか!」
メイドは笑顔でそう耳打ちしてくる。
いまいましくて突き飛ばしたくなるのをどうにか堪えて、私は「そんなことを言ってはいけないわ」と聖女らしい笑顔を作った。
笑顔を作りながらも、心の中は焦燥感でいっぱいだった。
***
私の名前はアメリア・ノース。ノース男爵家の三女として生まれた。
私には子供の頃から、精霊を操る才能があった。
お屋敷の庭や、出かけた森で精霊を見つけると、彼らは例外なく私の言う通りに動いた。
精霊に言うことを聞かせるのはおもしろくて、幼い頃、私は家庭教師の先生の授業が終わると、しょっちゅうお屋敷の裏庭へ行って精霊で遊んでいた。
「あーあ、また死んじゃった」
裏庭の木々の影で、私は今さっき使った精霊の亡骸を指でつまんで持ち上げた。
そばには精霊に命じて作らせた小さな花畑がある。
一匹の精霊に花畑を作らせるのは負担が大きかったのかもしれない。次は二、三匹捕まえて一緒に作らせようかな。
まぁ、私に害があるわけじゃないしどうでもいいけど。
「私が命令すると精霊が毎回死んじゃうのよね。作らせたものもすぐ消えちゃうし。つまらないわ」
精霊の亡骸をぽいっと茂みに放り投げてから、私は溜め息を吐いた。
私には精霊を自由に動かす才能がある。
私が頼めば、精霊は水のないところに泉を生み出し、荒れ地に木を生やしてくれる。
しかし、それはただの張りぼてだった。
泉はしばらく経つと干上がり、木々は枯れてまた荒れ地に戻ってしまう。
何とも意味のない能力だ。
私の能力は、本来その精霊が持つ以上の力を与え、様々な奇跡を起こさせる力らしいのだけれど、それが逆に問題だった。
本来以上の力を使い続けた精霊は、いくらも経たないうちに死んでしまう。
張りぼてというか、精霊を無駄に消費している分、悪質な能力なのかもしれない。
そのことを知っていたので、私は自分の能力のことを誰にも言わなかった。
ただの張りぼてを作る能力では、いくら精霊を自由に使えても何にもならないから。
私はしがない男爵令嬢として成長し、時が来るとほかの貴族の子たちと同じように王立学園に入学して、そこでも普通の生徒として生活していた。





