3-7
『いいじゃん、セラ。あんな弱虫どもに懐かれなくても。僕がいるだろ』
「シリウス……! そうね、私にはシリウスがいるものね。でも、出来るならほかの精霊たちにも好かれたいわ」
『僕はあんまりほかの精霊が寄ってくると面倒で嫌だ。諦めてくれない?』
私とシリウスがそんな話をしていると、横で笑っていたルークさんがさらに笑いだした。
「セラちゃんとシリウスは仲がいいんだね」
「はい! 私とシリウスはとっても仲良しです!!」
「セラちゃんみたいな精霊師と大精霊のシリウスがいなくなったら、今頃サフェリア王国は苦労してるんじゃない? よく国を出るのを許してもらえたね」
「いいえ、そんな。私のやっていたことなんて取るに足らないことばかりでしたから、誰も困っていないと思います」
私はルークさんの言葉に慌てて首を横に振る。
塔の上で精霊に力を送ることしか出来なかった私なんて、いなくなっても王国には何の影響もないだろう。
あの国には、何と言ったってアメリア様がいるのだ。
むしろ私がいなくなった方がきっと国はうまく回る。そのために私は王宮を出たのだから。
「そんなはずないと思うんだけどなぁ……。でも、サフェリア王国がセラちゃんなしでも大丈夫なら、その方が都合がいいや」
「都合?」
「セラちゃん。頼みがあるんだけど、しばらくこの町にいてさっきみたいに精霊に力を送ってくれないかな? セラちゃんの力があれば、町の問題も解決しそうなんだ!」
ルークさんは手を合わせて、真剣な顔で言う。
私で役に立てるだろうか。
出来損ないの私に大したことが出来るとは思えなかったけれど、実際、私が力を送ったことで精霊が戻ってきたようだし、多少は力になれるかもしれない。
どうせ目的地もない旅なのだし、協力できることがあるならやってみてもいい気がする。
「わかりました。私でよろしければ……」
『ちょっと待った。それって何か報酬はあるの? まさかセラをタダ働きさせる気じゃないよね?』
私が了承しようとすると、シリウスが肩から身を乗り出してルークさんに聞いた。
私は慌ててシリウスを止める。
「シリウス、報酬だなんて。申し訳ないわ」
『相変わらずセラは甘いんだから。せっかく王宮での搾取生活から抜け出せたんだよ? またいいように使われないよう注意しないと』
シリウスは呆れ顔をしながら、肉球で私の頬をぺちぺち叩く。何か言葉を返そうとしたけれど、肉球の感触が気持ち良すぎて思考が停止してしまった。
私がシリウスにぺちぺち叩かれながら恍惚としていると、ルークさんが笑いながら言った。
「ごめんごめん。そうだよね、シリウス。先に報酬を提示するべきだったね」
「ルークさん、私はそんな……」
「一週間につき金貨一枚でどうかな? 少ない?」
「金貨……!? 一週間で……!?」
私が今まで目にしたことのあるお金は、神殿の奉仕活動に行ったときにお礼としてもらった銅貨くらいだ。金貨なんて見たこともない。
銅貨は使う機会がなく長年ただ貯めるだけだったので、ここまでの旅はそれで何とかなったけれど、近いうちになくなるだろうとは思っていた。
しかし金貨が一枚あれば、しばらく旅を続けるのに困らないのではないか。
「金貨なんて……もらうわけには……」
「それとセラちゃん、旅をしてきたって言ってたよね。泊る場所はある? 見ての通りこの町には今営業している宿はないけど、よかったら隣町の宿まで案内するよ。宿代はもちろん魔術師団から出す。当然隣町までの送迎もする」
「そんな……! そこまでしてもらうわけには!」
私がおろおろしていると、シリウスは私の肩から言う。
『ありがたく受け取っちゃいなよ。お金と宿があればラピシェル帝国でやっていけそうじゃん』
「でも、いいのかしら」
『いいに決まってるだろ。セラの能力にはそれだけの価値があるってこと。サフェリア王国の奴らは誰も気づいてなかったけど』
迷う私に、シリウスがきっぱりと言う。
ルークさんは私の方に笑顔を向けた。
「遠慮せずに受け取って欲しいな。セラちゃんに協力してもらえたらすごく助かるんだ」
「私でお役に立てるでしょうか……」
「うん。セラちゃんの力が必要なんだ」
ルークさんの言葉が真っ直ぐ胸に響く。
本当に私で、そんな報酬をもらえるほど役に立てるだろうか。祖国で言われ続けてきた出来損ないという言葉がぐるぐる頭を巡る。
けれど、気がついたら私の口から言葉がこぼれ落ちていた。
「ぜひ、協力させてください……!」
「引き受けてくれる!? ありがとう、セラちゃん!」
私の答えに、ルークさんはぱっと笑顔になった。
ちゃんとできるかどうかはわからないけれど、やれるだけやってみよう。
私の心には、今までよりずっと前向きな気持ちが満ちていた。





