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「エルリィ!」
またさっきのシスターが教会から大声を上げて出てきた。
エルリィという少女は俺から目を逸らして、シスターの方へと視線を移す。
「また食事の時間を忘れて…………ってなにそれ?」
シスターは女の子の持っている花に気づき、そっちへと意識が向いていた。
「……シアネス」
澄んだ小さな声がここまで聞こえてきた。エルリィは続けて言葉を発した。
「この花びらをお湯につけた後に食べればミナットの痛みはましになると思う」
「どうしてシアネスにそんな効果があることを知ってるの?」
シスターは目を丸くして、エルリィから花を受け取っていた。
「ミナットが教えてくれた」
「そう」
エルリィの言葉にシスターは少し哀しげな表情を浮かべていた。一呼吸おいて、シスターは「足を洗ってらっしゃい」と静かに言い、エルリィは駆け足で教会の裏の方へと向かった。
なにか事情がありそうな様子だ。
シアネスの花は痛みを軽減させる作用がある。
その成分だけ抽出して、魔女により調合される。出来上がった鎮痛薬は戦場で重宝される。「シア」と呼ばれる薬だ。
もちろん、花びらだけ食べても効果は表れる。
だが、そんな薬草書を隅々まで読んでいないと得られない情報をどうしてあの子が知っているんだ?
……いや、あの子というよりもミナットという人物か。
あの教会に入ることができれば分かるかもしれない。
動こうとした時だった。俺の近くにシマリスが近寄ってきて、言葉を発した。
『早く戻ってきてくださいギル様、と伝言を預かりました』
……リラだ。
彼女は動物と会話できる魔法を使える。理解できない鳴き声もたちまち鮮明な人間が使用する言葉へと変わる。持続性はないが、とても役に立つ。
改めて魔法はすごいものだと思う。この力は敵に回したくない。
「何かあったのか?」
『フレッド・ミラーに会えました。ただ少し問題が……』
「すぐ戻る」
そう言って、俺は教会を離れることにした。色々と気になることは多かったが、今は泊まる場所を確保することの方が先だ。
ここには、また明日来ればいい。まだ時間はある。急がなくていい。
俺は急いで山を下り、元騎士の家へと戻った。




