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俺とリラが会話している中、ベティが力強く家の扉を叩き続けていた。……がまったく反応がない。
空は茜色に滲み広がっており、太陽が沈みかけているのを眺めていると、突然山の方から教会の鐘の音が聞こえた。町全体を包む荘厳な音に俺は視線を山の方へと向けた。
「山の奥に教会が?」
「そのようですね。地図では古い教会が山の奥にあったような……」
「すぐ戻る。そっちは頼んだ」
「え!? ちょっと!?」
気づけば俺は山の方へと走り出していた。リラは驚いた声を俺にかけたが、俺は振り返らなかった。
教会の存在が気になった。まるで導かれるように音がした方へと足を進めた。
誰かに自分の姿を見られては困ると、今更ながら紺色のマントについているフードを頭にかけた。
山を登るにつれて、段々息が上がる。体力はある方だが、こんな山の上まで全力ダッシュはかなり体力を消耗する。
もっと鍛錬を積まなければ、と改めて実感した。
教会の姿が見えて来た。はるか昔からここにあったと思われる石造りの建物。重々しく堂々と佇む教会は神秘的で胸を打たれた。
夕暮れの光が木々の間から差し込み、尖塔にある立派な鐘が照らされていた。
……こんな場所がイフリック国に存在したのか。
「エルリィ~~!!」
教会の中から女性の声が聞こえてきた。その張り上げた声に俺はビクッと体を震わし、咄嗟に近くの茂みに隠れた。
勢いよく、教会の黒ずんだ木の扉がバンっと音を立てて開く。
中からシスターらしき人が外に出てきた。彼女は眉間に皺を寄せて、何かを探しているようにその場をぐるっと見渡す。
そして、もう一度「エルリィ!」と誰かの名を呼んだ。
しばらくしても、何の反応もなく彼女は諦めたように小さくため息をついて教会の中へと戻って行った。
……探しに行かないんだ。……もしかして人間じゃないとか?
教会で飼っている猫とかの可能性もある。
俺はまた教会をじっと眺めていた。少しして、ガサガサっと何かがこっちへと向かってくる音が聞こえた。
……なんだ!?
反射的に腰に差してある剣のグリップに手を置き、身構えた。
すると、突然どこからか一人の小さな女の子が教会の前に現れた。一瞬で釘付けになった。
気高く神秘的な横顔が目に入り、時が止まったのかと思った。
大量のピンク色の大きな花を泥だらけの両手で必死に抱えていた。離れたところから見てもわかるボロボロのワンピースに逞しい裸足。
その不思議な魅力に目が離せなかった。俺は固まったまま目を見開き、息を吞む。
彼女のオレンジ色の髪が夕日によって神々しく輝きを放っていた。透明感のある薄い緑がこっちを向いた。
目が合った気がした。俺はその瞬間、畏怖で思わず全身に鳥肌が立った。
嘘だろ。完全に気配を消していたのに、俺がここにいるって分かったのか……?
じっと俺の方を見る彼女のまっすぐな瞳に吸い込まれそうになる。
初めての感覚だった。
まさか俺が自分よりも幼い女の子に気圧されるなんて……。それもこの国の端っこにある田舎町の教会に住んでいる孤児であろう子に。




