16
王族と言うことは隠して、王都に住んでいることを伝えた。
王都の地名はグレイディという場所でとても活気に溢れていて、賑やかだというとエルリィは目を輝かせた。
華やかな街並みで、パレードなども多く、人と馬車の量がここの何十倍だということや、異国の商人がいるということも話した。もちろん、裏路地に行くと危ない区域もあるのだと補足もしておいた。
だが、エルリィの王都に対する興味は膨れるばかりだった。
驚いたことに、王都で行われる祭りに関しても彼女は何も知らない様子だった。イフリック国民なのに、トゥルエス祭すらも知らなかった。
「とぅるえすさい……?」
そう言って、首を傾げるエルリィに俺はトゥルエス祭について説明をした。
「王都で開催される年に一度の大きな収穫祭だよ。……街中が明るい音楽に包まれて、色彩豊かな旗やランタンが並び、豊作を祝う金色の布や飾りがあちこちにかけられているんだ。そして、木で出来たお面に好きな色で模様を描き、貴族も身分を偽って参加する」
「……私も参加できるの?」
「もちろん」
高揚した様子のエルリィに俺は微笑んでそう答え、さらに説明を加えた。
「仮面を被らずに参加する者たちは、花や木の葉で作った冠を頭につけたりしているんだ。都市全体がカラフルになる素敵な祭りだよ。収穫祭だけど、別名は愛の祭りなんて言われたりして、そこで愛を誓うと永遠に結ばれるなんて言い伝えがあったりするんだ」
変なジンクスだが、実際にトゥルエス祭で結婚を申し込む者は多い。
「すごく楽しそう……、けど、孤児は里親が現れない限り、ずっと修道院で暮らす。私は行けない。……祭りのことをもっと聞かせて!」
エルリィは少し落ち込んだ顔をしたが、すぐに声を高くしてそう言った。
里親……、俺が貴族なら簡単に「うちに来ればいい」なんて言えたかもしれない。だが、王家には簡単に他人を入れることはできない。
俺はエルリィの望み通り、祭りの話をした。
トゥルエス・パイという名物のお菓子があり、リンゴやオレンジ、レーズンが中に入っている。手のひらサイズのパイだ。粉砂糖がたっぷりとかけられており、甘くて美味しい。
エルリィはトゥルエス・パイの説明に不思議そうに眉をひそめていた。「分からないことがあった?」と聞くと「パイって何?」と聞かれた。
そのことに俺はショックを受けた。
エルリィは暫くパンだと思って話を聞いていたらしいが、どうしても話が分からなくなったという。
そうだ、ここは王都から何日も馬を走らせた果てにある小さな町の修道院だ。そんな場所で過ごしている孤児たちがパイを食べられるわけがない。
パイの説明をするとエルリィはまた目をキラキラと輝かせた。「食べてみたい」とその目は語っていた。
いつか絶対に彼女にパイを食べさせてあげたいと心の底から思った。
「普段は何を食べているんだ?」
「ジャガイモ半分と胡椒で味付けされたスープ。たまに人参スープになる時もあるよ。あと、一年に数回はパンが食べれる日があって、みんなそれを楽しみにしているの」
エルリィの言葉に自分がどれだけ贅沢で恵まれた環境にいるのかということを身につまされた。
「果物は?」
「この森は薬草は沢山育つんだけど、フルーツは一切ないの。ミナットも残念がってたよ。『食べてみたい』ってよく言ってた」
「どうしてミナットはフルーツのことを知っていたんだい?」
「分からない。ミナットは物知りだから。私もミナットから教えてもらって、存在は知ってるよ。見たことはないけど……」
ミナット、という人間のことが気になった。
孤児だと得れるはずのない情報をどうしてここまで知っているんだ?
ここで育たないフルーツのことまでも知っているというのは、森の中にある薬草を独自に研究しただけではなさそうだ。
どっかから知識を仕入れている。……だが、修道院でそんな知識が手に入る場所などないだろう。




