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「エルリィは薬草に詳しいんだね」
「……ミナットの方がもっと詳しいよ」
ミナット……、昨日もエルリィはその名を口にしていた。俺は「ミナットって?」とできるだけ柔らかい口調で聞いた。
「ここで一緒に暮らしているの。ミナットは森のことならなんでも知ってるんだよ」
薬草の知識はどこから手に入れたのだろう。ある程度の薬草を知っていることに関してはなんの違和感も抱かない。だが、シアネスやメッリファは薬草書などを読み込まないと知らない知識だ。
「ミナットはどこに?」
俺の質問にエルリィは少し警戒した様子で俺をじっと見つめる。
まずい、いきなり詰め寄りすぎたかもしれない。
「……ミナットはここから出られないよ」
少し間を置いて、エルリィは静かにそう呟いた。
出られない? 監禁でもされているのか……?
「レイヴィスは外の人だから、この中には入れない。……マザーシスターに怒られちゃう」
「じゃあ、少し俺と散歩しないか?」
エルリィとの距離を縮めるために、俺はそう提案した。だが、エルリィは困った表情を浮かべた。こんな反応を女の子にされたのは初めてだった。
イーヴィアの書について探ることをすっかり忘れていた。目の前の女の子のことをもっと知りたいという気持ちでいっぱいだった。
エルリィは「ここから離れられないの」と弱々しい声で呟く。
「どうして?」
「マザーシスターとの約束だから。……町の外から来た人と関わっちゃだめだから、修道院から離れちゃいけないの」
「そっか」
それならば、仕方がない。
無理強いするのは良くない。俺もフードを脱いで正体を明かすわけにもいかない。
「また気が向いたら、いつでも」
俺が修道院から去ろうとすると、エルリィは暫くして「待って」と声を出した。俺は立ち止まり、彼女の方を振り向く。
エルリィは濡れた薬草を地面に置いて、俺の下へと駆け寄ってくる。彼女の勢いに俺は飲まれた。
「こっち!」
彼女は俺の手を取って、森の中へと走り出した。エルリィに引っ張られて、小さな背中についていく。エルリィの足の裏は真っ黒だった。
陽だまりのような匂いが彼女からした。
連れられた場所は木々を少し抜けた場所にあった。開放感のある広い草原だった。澄み切った空気を吸い込む。
……なんて心地が良いのだろう。
柔らかな風が吹き、木の葉が揺れ、彼女のオレンジ色の髪がふわりと靡いた。
「遠くへはいけないけれど、ここで外のことを聞かせて」
「ああ、喜んで」
俺はいつの間にか顔を綻ばせていた。




