14
あ、あの子だ。
修道院の表の扉がゆっくりと開き、オレンジ色の髪の女の子がそろりと出てくる。周囲を警戒しているような雰囲気だ。手には草を持っていた。昨日とは違って、ただの草だ。
女の子は修道院の裏側へと足を進め、俺は音を立てずにこっそりとついていく。また彼女は裸足だった。
裏の水洗い場まで来て、女の子は立ち止まる。俺も足を止めて、彼女を茂みに隠れて近くから見ていた。女の子は草を丁寧に水で洗っていた。根元をしっかりと水で濡らし、泥を落としていた。
その草がなんの草かを見ようと俺は少し近づいた。彼女に引き込まれるようにして動いてしまったため、思わずガサッと草木に体を当ててしまう。
次の瞬間、女の子は体をビクッと震わせて俺の方へと視線を向ける。
また目が合った。これで二度目だった。
人の心を吸い寄せる魅力を持った彼女の瞳に俺の心臓は跳ね上がる。
王都には美を兼ね備えた者たちが多く集まる。そして、その美しさを求めて、また人が訪れる。それぐらい王都には美が溢れている。それなのに、こんな田舎町の女の子から目が離せない。
美しいものに対して慣れているはずなのに……、なんだ、この胸の高鳴りは。
「……誰?」
彼女は静かに口を開いた。
澄んだ可愛らしい声が耳に心地よく響いた。
「俺の名は……レイヴィスという。君の名前は?」
咄嗟に俺は嘘の名を言う。レイヴィスははるか昔の詩人の名前だ。偽名だと気付かれることはないだろう。
「……エルリィ」
彼女は少し躊躇った様子で自分の名を口にした。
「よろしくね、エルリィ」
俺が手を差し出すと、エルリィは眉を少し八の字にさせて困ったように話し出した。
「マザーシスターが外から来た人には近づいちゃダメだって。危ない人たちだって言ってた。……レイヴィスは外から来たの?」
「そうだよ」
俺は正直にそう言った。ここで嘘はつかない方がいい。彼女はあっさりと肯定した俺に困惑しつつも話を続けた。
「……どこから?」
「ずっと遠くから。こことは全く違う場所だよ。賑やかで華やかで、けれど、とっても残酷な場所」
「楽しい?」
「どうだろう。野心ある者に向いている場所かもね。……空気はこっちの方がおいしいよ」
「空気においしいとかまずいとかあるの?」
「それがあるんだ」
「私もそっちの空気を食べてみたい」
真剣な目でそう言ったエルリィに思わずクスっと笑いながら答える。
会って間もないのに、エルリィとの会話はどこか心地よかった。邪心に満ち溢れた人間をよく見てきた。そんな彼らとは全く違う。
「是非来るといい。俺が案内するよ。……ところで、それ何を洗ってたの?」
「メッリファ」
エルリィは短くそう答えた。その言葉が出てきたことに俺は驚いた。
胃の調子を整える薬草だ。葉が細長く、ギザギザなのが特徴的だ。メッリファの葉は腐ると非常に有毒なものになり、口にすると死ぬ可能性がある。




