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私は今日の森での出来事をミナットに話す。
シアネス以外にも珍しい花を見つけたことを伝える。ミナットと外で遊んでいた時には見つけられなかった植物だ。「今度摘んでくるね」と言うと、ミナットは「楽しみにしてるよ」と言う。
「明日も元気でいてね」
「そうだといいな」
ミナットは「必ず良くなるから」なんてことは言わない。もう先は長くないということを自覚しているのかも。
ミナットがいなくなってしまうかもしれないと思うと恐怖で息が詰まりそうだった。
兄のように慕っている彼を失うなんて耐えられない。まだまだ一緒にいたい。もっと話していたい。ミナットのいない日々なんて色褪せていてつまらないに決まっている。
私が泣きそうな表情をしているのを察したのか、確かな声で「大丈夫」と口元を綻ばせた。
「エルリィなら、きっと大丈夫」
何が大丈夫なのかさっぱり分からなかった。
……けど、ミナットがそう言うのだから、大丈夫なのだろう、と安堵する自分がいた。ミナットはすごい。たった一言で私に安心を与えてくれる。
「そうだ。これを渡しておかないと」
ミナットはベッドの隣にあった年季の入ったサイドテーブルについている引き出しから鍵を取り出した。それを私にゆっくりと手渡す。
手のひらサイズの古鍵だ。長い年月を経たという証拠に、錆が鍵全体に浮いている。
私は自分の手の上に乗っている鍵を見つめながら、どこの鍵だろう、と頭の中で疑問が浮かんだ。
「その鍵をエルリィにプレゼントするよ」
鍵だけプレゼントされても素直に喜べなかった。鍵穴がなければ、鍵の真価は発揮しない。
戸惑いつつも「ありがとう」と呟く。
「書庫の鍵だよ」
「……チョコ?」
「違う、書庫。しょ、こ」
私の聞き間違いだった。チョコがたくさんある場所の鍵かと思って、ワクワクしたのに……。
というか、この修道院には書庫なんて豪華なものはない。本は贅沢品だとシスターに教えられた。小説や歴史書などは私たちには無縁だと。
「僕はね……ゴホッ、ゴホッ」
ミナットは話している途中で咳き込む。彼は手を口で覆いながら、苦しそうに顔を顰める。
「大丈夫!? すぐにシスターを!」
私がその場を去ろうとした瞬間、グッと力強く腕が引っ張られるのが分かった。その場で足を止めて、ミナットの方を向く。
「僕は平気だから」
声をなんとか絞り出し、ミナットは私がシスターを呼びに行くのを止めた。「分かった」と私が弱々しい声で答えると、「ありがとう」とミナットは口角を上げた。
彼の口元には血が少しついていた。私の視線にミナットは気づき、急いで服の袖で口元を拭いた。
……ミナットはどんどん衰弱している。私がどれだけ薬草を集めても無駄なのかもしれない。
急に自分の無力に心が押しつぶされそうになる。ミナットがまた前みたいに良くなるにはどうしたらいいのか分からない。
私は心の叫びをうるんだ声でなんとか口にした。
「どうしたらミナットを助けられる?」




